第13話助ける為に
エルと別れ、イレイは作業に戻っていた。
ディスプレイを見ながらロードのデータを次々と確認していく。
すると謎のプログラムを見つけた。
「なにこれ? こんなの私入れたっけ」
イレイがロックを外そうと試みるもロックは外せない。
「あれ? パスワードが違う。おかしいな」
イレイが思いつめているとジュウゴが話しかけてきた。
「イレイちゃん。そろそろ休憩しよう。気を詰めて働いても意味がないからな」
ジュウゴが手を叩いて「休憩だ!」と叫びまわっていた。
時計を見ると時刻は正午、もうお昼時だ。
イレイは大きく息を吐くと近くに置いてある水筒を手に持って蓋を開けた。
――早くロードを修理しないと。でもまた隊長がおかしくなるって考えると……。
水筒の水を飲み干し、昼食を食べに食堂に向かおうとするとジュウゴに呼び止められた。
「食堂行くだろ? 一緒に行こうぜ?」
ジュウゴの誘いにイレイは頷く。
食堂につくと隊員たちがそれぞれ席に座って各々ご飯を食べていた。
イレイがお盆を持って食堂のおばちゃんたちがお盆に皿を乗せていく。
今日の昼食は白米に野菜炒めと漬物だった。
イレイがジュウゴの前にお盆を置き、咳に座った。
「いただきます」
イレイが箸を持ってご飯を食べていく。
「なぁ、悩み事が遠慮なく言えよ」
ジュウゴの唐突さにイレイは首を傾げた。
「あ、いやなければいいんだ。なんか今日思いつめた顔してたからさ。もしよかったらなんて思ってよ」
ジュウゴは照れつつ頭を掻いていた。
「どうせついさっきの偵察の件だろうけど。話したくなければいいんだ。なんか悪いな、飯時なのに雰囲気悪くしちゃって。さ、食おうぜ」
ジュウゴはそう言って白米をかきこんだ。
イレイは箸を置いて深刻そうな顔で自分の思いを話した。
「ジュウゴさん。隊長の件で話したいのです」
「ん? 何だ」
ジュウゴはかきこむのをやめて箸を置いた。
「偵察任務中の件で隊長は私に罪悪感を抱いているみたいで。私のせいでもあるのに、どこかで壁を作ってるみたいなんです。どうしたらいいのでしょうか? 私はパートナーである隊長に元の調子に戻ってほしいのです」
ジュウゴは腕を組んで唸った。
イレイが真剣な目つきでジュウゴは何かを思いついたのか指を鳴らした。
「色仕掛けでなんてどうだ?」
ジュウゴの回答にイレイは顔を赤く染める。
「な、なななな。なんてこと言うんですか! 私は真剣なんですよ!」
涙ぐみながら立ち上がるイレイにジュウゴは宥める。
「落ち着けって。イレイちゃんはいつもの隊長に戻ってほしいんだろ? なら話は簡単だ色仕掛け、これに限る」
「だからどうしてなんですか!?」
「あいつはロリコン。で、イレイちゃんは隊長のお気に入り。ここまでの条件が揃っているならばただ一つ、色仕掛けをして元に戻す。他に案は思い浮かばん。あいつは何に対しても全力だが、ロリだけに対しては異常なほど全力だからな。絶対に成功する」
ジュウゴが親指を上げるもイレイは不安しか残らなかった。
イレイは作業を終えるとジュウゴの言葉を信じて色仕掛けをすることに。
ジュウゴからエルはグラウンドにいると聞いて向かうことに。
衣装は調整の際、エルが興奮したタンクトップ姿である。
「うう、いざ見せるとなると恥ずかしい……」
イレイは顔を赤らめながらもエル達が訓練をしているグラウンドに向けて歩いていく。
グラウンドには隊員たちが重しを背中に担いで走っていた。
イレイがエルを探していると休憩中のロイドに見つかった。
「よぉ、イレイちゃんじゃん。 どうしたのこんなところに来て」
イレイは戸惑いつつもロイドに「隊長はどこに?」と尋ねてみる。
「隊長? ほら、あそこだよ」
ロイドが指さしたところに他の隊員よりも大量の重りを担いで走っていたのが見えた。
「隊長は何かあればすぐに自分のせいにして抱え込んじまうけど、今日はいつもよりさらにひどくてさ」
「分かるのですか?」
「ランニングの際にどれぐらい重しを持っているかでだいたいわかるもんさ。あの量でかれこれ一時間以上走ってるんだ。全く、全部話しちまえばいいのによ」
ロイドは悲しそうにしながらグラウンドを眺めていた。
「気持ちはわからんでもないが、せっかくの小隊なんだから話せってもんだ。あ、隊長には内緒な」
ロイドは一通り話し終えるとグラウンドから遠ざかっていく。
「あの、どこへ? まだ訓練中じゃ?」
「今から04小隊のバニーちゃんを捕まえに行くのさ。隊長には黙っておいてくれよ」
ロイドは「じゃあな」と言って走ってグラウンドから走り去ってしまう。
イレイがロイドの行った先を見ていると後ろから声がした。
「イレイか?」
振り向くとそこには汗まみれのエルが重りを担ぎながら立っていた。
「隊長。お疲れ様です」
「ああ、お疲れ様。どうしたこんな場所に来て。誰かに様か?」
イレイはエルが普段通り話してくるのに寂しさを感じていた。
――普段の隊長だったら興奮してるはずなのに。してくれない。
今、イレイの目の前にいるエルは何も思わない様に微笑んでいる。
イレイが帰ろうとしたところでエルの包帯に気が付いた。
「隊長、その包帯は?」
「ああこれ? ちょっと訓練中に怪我しちゃってさ。数日ぐらいたてば治るさ」
イレイの指摘にエルは包帯を見せながらやれやれと言わんばかりに肩を落とした。
「……そうですか。ならしっかりと治してくださいね」
イレイは一瞬疑ったものの、本人が大丈夫というなら大丈夫だと思い、エルの言葉を信じ、追及はしなかった。
「そうだな。ロードが治るまでには治すさ」
エルは重りをまた背負いグラウンドに戻っていく。
「俺は訓練に戻るから。見学しててもいいぞ」
エルがまた走り出した。イレイは少し悲しくなりつつもめげずに次の作戦を考えるために格納庫に向かって走り出した。
イレイは今回の作戦が失敗したことをジュウゴに話した。
「そうか失敗か。かなり重症だなこりゃ」
ジュウゴは格納庫内で頭を掻いていると何かを思い出したかのように歩いていく」
「どこへ?」
「押して駄目ならよく引いてみろって言うがな。落ち込んでいる隊長には引くとさらに落ち込むからな。なら無理にでも押すしかないだろ?」
ジュウゴはそう言いながら道具が閉まっている棚の一番上から大きな段ボールを取り出す。箱の側面には『NO.1』と書かれている。
「これは?」
「隊長のコレクション。その一番目ってとこだな。他にもいくつかあるらしいがいろんなところに隠しているから残りは俺も知らん」
段ボールを開けるとそこにはフリルのついたスカートや衣類が防虫剤と共に入っていた。
「よくここまで上官の目を盗んで集めたもんだ。見つかったらただ事じゃないってのによ」
ジュウゴは衣装を漁っていく。
「あの、勝手に漁っても大丈夫なんですか?」
「別に売るつもりも上官にばらすつもりもないから大丈夫。それよりもあいつが喜びそうな服を探そうぜ」
ジュウゴの言葉にイレイは何だか嫌な予感がした。
「うう、こんなのってないよ」
イレイは大きなタオルを覆っており、赤面しながら誰にも見つからない様に隠れながら01小隊の部屋に向かって行く。
この時間はエルがロイドやカレンと明日のスケジュールを話している時間だ。自室に行ってもエルがいない事をイレイは知っている。
だからこの衣装をロイドやカレンに見せるとなると恥ずかしさが倍増する。
かといって自室にいる隊長に見せるといくら落ち込んでいても襲われそうなのを何となく想像してしまい、イレイは少なくともカレンなら隊長を抑えてくれるはず。
何とか01小隊のいる部屋に着くとイレイはドアノブに手を付けるも躊躇してしまう。
――無理無理! 恥ずかしすぎて見せられないよ。
いれいが迷っている間に部屋のドアが開かれ、カレンと鉢合わせしてしまう。
「あれ、イレイちゃん? どうしたのそんなところに立って。それにバスタオルなんかで体を覆ってさ」
カレンが首を傾げているとロイドが現れてしまう。
「何々? まさかその下は裸かな?」
手を動かしながら近寄ってくるロイドをカレンが止めに入る。
「どうしたの? 私に話してごらん」
「あう、えっと……」
イレイが顔を真っ赤にしながら後ずさりしているとエルが目に映る。
「どうしたんだ?」
「あうあう……」
イレイは赤面しつつ後ずさりしていると足を滑らせて転んでしまう。
尻もちをつくイレイ。思わず手を離してしまい、タオルが外れてしまう。
イレイはスタイルをくっきりさせる黒色で面積の少ない服を着ていた。
そう、スク水だ。ジュウゴが選んだ隊長が一番喜びそうな服とはスク水だったのだ。
「わお、だいたん」
ロイドが鼻を伸ばし、カレンが目を見開いている。
イレイは赤面しながら慌ててタオルで体全体を覆うのだが、隙間からはすく水が見えてしまう。
イレイは一瞬だけエルを見た。
そこには真顔で棒立ちになっており、鼻から鼻血を出しているエルの姿が写った。
「た、隊長?」
数秒後、エルは血をまき散らしながら後ろ向きに倒れた。
「た、隊長!」
イレイが慌てて立ち上がり、エルの元に歩み寄っていく。
そこにはエルは鼻血を出しながら白目で気絶していた。
イレイは元の作業着に着替えると、自分の荷物から一冊のノートを取り出す。
「イレイちゃんそれ何?」
カレンが覗き込むようにイレイの持つノートを見ていた。
「日記帳です。今日の出来事でもまとめておこうかと思いまして」
「へぇ。ちょっと見せてよ」
カレンが日記帳を奪おうとするのでイレイは急いでノートを抱き込む。
「だ、駄目です! 絶対にだめです!」
「えぇ? いいじゃんちょっとだけだからさ」
「駄目です!」
カレンから日記帳を守る様にイレイは部屋を逃げ回った。
小柄な体型のお陰かカレンから上手く避けていき、カレンの体力を着実に奪っていく。
「はぁ、はぁ、はぁ。すばしっこい」
カレンは息を荒げながら汗を拭う。
同様にイレイも息を荒げていた。
「カレンさん結構しつこいですね」
二人が対峙している中、エルを部屋に送っていたロイドが戻り、イレイの持つ日記帳を奪っていった。
「ああ! 返してください!」
イレイが背伸びして日記帳を奪い返そうとするも身長差で全然届かなかった。
ロードが日記帳を流し読みしていくとイレイに返した。
ロイドはしばし考え込むかのように黙り込んでしまった。
「軍曹?」
カレンが声を掛けるとロイドはすぐに元のおちゃらけた様子に戻った。
「あ、ああ。ごめんな勝手に見ちゃって。内容はとてもよかったよ。こう純情さって言うのが滲み出ていたね」
ロイドの感想にイレイは顔を赤くしながら部屋を出て行った。
「隊長の様子見てきます!」
イレイは恥ずかしくてたまらなく、速足で隊長の部屋に向かった。
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