第11話暴走

 翌日、イレイがいつものようにロードのレポートを書いていると一通の手紙が届いた。

 裏を見ると兵器開発局からの手紙だとわかった途端、イレイは嫌そうにしていた。

「……今更手紙送ってきて何の様なの」

 イレイが封を開けて中に入ってある紙を取り出して内容を読んだ。

「……クレイクとロードのFPSを作ったのは私なのよ。偉そうにして」

 イレイは手紙をくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に捨てた。

――あんな人は父親なんかじゃない。

 イレイは大きくため息を吐いているとエルが部屋に入ってきた。

「おはようイレイ。上官の命令で偵察任務に行かなければならないが、大丈夫か?」

 エルは毎度の様に自分を気遣ってくれる。

 イレイにはそれが嬉しく、そして同時に不安を膨らませていく。

――隊長は私を気遣ってくれている。もしロードで体に異常があっても私に言わないかも。

 イレイは不安を取り払い、荷物をまとめた。

「はい、大丈夫です」

 イレイはエルに不安なところを見せまいと笑顔で話しかけた。

「分かった。俺は格納庫にいるから準備が出来次第来てくれ。ごめんな、戦場に向かわせちまって」

 エルは苦笑交じりに部屋を出て行った。

――FPSはまだ試作段階。隊長の為にも早く完成させないと。

 イレイは荷物を片手に部屋を出て行った。

 

 イレイが到着したと同時にエルは軽いミィーティングを始める。

「よし、全員揃ったな。今から今回の偵察任務の詳細を教える」

 エルはそう言ってキキョウに言われた作戦内容を告げた。

「ここから約三百キロメートル離れた区域にグリムらしき機体が発見したと情報が得た。そのため我々01小隊はこれからその偵察任務を行う事にする。何か質問はないか?」

 エルが言い終えるとロイドが手を上げる。

「偵察中、相手が怪しげな行動を示した場合はどうすればよろしいのでしょうか?」

「殺して構わん」

 エルは質問がない事を確認すると「各自搭乗せよ」と指示を送った。

 エルとイレイは簡易リフトを使ってロードのコックピットに乗り込むと席に座った。

「そういえばロードに武器ってないのか? もう一つの試作機はチェーンソー持っていたはずなのにこっちは素手だからおかしいと思ったんだが?」

 エルの質問にイレイは申し訳なさそうに視線を逸らしていた。

「す、すいません。ロード専用の武器は今急ピッチで作ってますので少々お待ちください」

「いや、別に急かしてるわけじゃないんだ。ゆっくりと待つから気を落とさないでくれ」

 エルはイレイを宥めながら腕輪をはめた。

 エルは目を閉じてロードにエネルギーを送るために妄想しようとするも昨日の事を思い出して集中出来なかった。

――今、姫様は大丈夫だろうか? 早く助けないと

 いつの間にかネロのことしか考えられない様になってしまい、ずっと思っていると突然肩を叩かれた。

「エネルギーチャージされました。 そんなに夢中になる程いかがわしいことを考えていたんですか?」

「え?」

 エルは目の前にあるコンソールを見ると確かにロードのエネルギーがチャージされていることを示していた。

「ほら、ロイドさんとカレンさんは準備できていますよ」

 イレイに急かされてエルはロードを動かして偵察任務へと出て行った。


 エモンから少し離れた何もない山岳地帯が01小隊の偵察任務場所だった。

「こちらポイントA異常なし」

「了解。ロイドはそのまま高台から偵察してくれ。何かあれば報告する様に」

「りょーかい」

 ロイドの通信を聞いてエルは一息ついた。

「顔色が悪いみたいですけど。体調の方は大丈夫ですか?」

「あ、ああ。大丈夫、ちょっと寝不足気味だけだから」

 エルはイレイに心配かけまいと強がった。

 実際のところ、エルの体調はあまり良いとは言えなかった。

――ロードを動かすたびに吐き気がする。乗り物酔いか?

 エルは吐き気をこらえながら待機しているとカレンから連絡が入る。

「隊長。ポイントBにてグリム数機発見」

「了解した。ロイド、ポイントBに向けてライフルを構えて待機だ」

「了解したぜ」

 ロイドに指示を送るとエルはポイントBに向かってロードを動かす。

「はぁ、はぁ、はぁ」

 エルの呼吸は浅く、顔色もだんだん青ざめていく。

「隊長。本当に大丈夫ですか? 息が荒いのですけど……」

「問題ない。ただイレイの裸を妄想して興奮してるだけだ」

「それはそれで嫌ですけど。無理はしないでくださいね」

 イレイが不安そうに声を掛けていると奥の方から銃声が聞こえて来た。

「隊長。ポイントCにグリムの小部隊を発見。どうします?」

「了解。俺もすぐそちらに向かう。カレンはそのまま見張ってろ。ロイド、今の聞いていたな。ポイントCに標準を合わせろ」

「「了解」」

 エルは急いで走っていると吐き気によって誤って操縦桿を倒してしまう。

 ロードが前のめりに倒れ、コックピットが大きく揺れた。

「す、すまん。大丈夫かイレイ」

「わ、私は大丈夫ですけど。隊長やっぱり変ですよ。一旦撤退した方が――」

「問題ない。すぐに終わらせるからよ」

 エルはロードを立ち上がらせるとポイントCに向けて慎重に歩いていく。

 カレンの乗るブレイブを見つけ、隣にロードを座らせる。

「状況は?」

「はい、何やら実験をしている最中見たいです。どうしますか?」

 得るはイレイに「メインカメラをズームさせてくれ」と指示した。

イレイはエルの指示通りにメインカメラをズームさせ、フロウの少数部隊に向けて標準を合わせる。

 そこにはフロウの連中が何やら実験している最中で、大掛かりな機械と沢山のコードが一機のグリムに接続されていた。

「何やってんだあいつら」

 エルはメインカメラに映るフロウを凝視しながら作戦を練っていた。

「カレン、ロイド。奇襲を行う。俺の合図で攻撃開始だ」

 二人に指示を送るとエルは奇襲するタイミングを伺った。

 少し待つと見張りのグリムが遠くに行き、残りはコードに繋がったままのグリム一機のみとなった。

 エルは好機を逃すことなく二人に合図を送った。

「今だ!」

 エルとカレンが物陰から勢いよく飛び出す。

メインカメラ越しにグリムを間近で見たエルは心の奥底からどす黒いものが湧き上がっていくを感じる。

「グリム……。あいつらのせいで」

 どす黒い感情は怒りや憎しみに変わり、心の奥底に沈んである思いを浮上させていく。

「あいつらのせいで姫様を!」

 エルは怒りと憎しみを込めた瞳でグリムを睨み付ける。

「お前らのせいで!」

 ロードの掌がグリムの頭部を鷲掴みし、頭部を握り潰す。

「姫様を! 姫様をどこに隠した!」

 エルは怒り任せに目の前にいるグリムを殴り続ける。

「た、隊長?」

 カレンが声を掛けるもエルの耳には届いていない。

 周りにいたグリムが仲間を助けようとマシンガンをロードに放った。

「邪魔なんだよぉ!」

 ロードは腰に取り付けられたマシンガンを手に取り、コックピット目掛けて放つ。

 マシンガンの餌食になったグリムはコックピットから火花を散らしながら動きを止める。

「はぁ、はぁ。くそ、くそ!」

 エルは獰猛な獣如く目の前の敵に向かって殴り続ける。

「ロイド軍曹! ポイントBに来てください! 隊長の様子がおかしいです!」

「わ、分かってる。今そちらに向かって移動してるから少し待っててくれ」

 エルが通信を聞かずに殴り続けていると急にロードが動かなくなった。

「イレイ! 何をした!」

 エルの怒りにのまれた顔に体をびくつかせるもイレイは気を強く持って理由を話した。

「ロードを強制的に停止させました。隊長、今すぐにでも撤退を――」

「余計なお世話だ!」

 エルは力任せに操縦桿を動かす。

「動け、動けよ!」

 そこにロイドのブレイブが到着し、ロードの片腕を持った。

「カレン、そっちの腕を持て。撤退する」

「了解」

 カレンのブレイブがロードの腕を持つ。

 撤退しようと元来た道を戻ろうとするがカレンは動きを止める。

「どうしたカレン。早くしろ!」

「ロイド軍曹。何か聞こえませんか?」

「何が?」

 遠くから何かが走る音が聞こえてくる。

「おいおい、敵さんの援軍かよ」

 前方から来るのはグリムの中部隊。

 ロイドの通信を聞いたイレイは顔を青ざめていく。

「私のせいだ。ロードに索敵レーダーつけてるのに。私が電源を落としたから」

「イレイちゃんのせいじゃねぇ!」

 ロイドは大破したグリムからマシンガンを手にすると前方から来るグリムに向かって標準を向けた。

「カレン、弾幕を張りながら撤退だ。今の状態じゃとてもじゃないが勝てる相手じゃない」

「了解!」

 カレンがマシンガンのマガジンを取り換え、弾幕を張った。

「撤退? 誰がそんな命令した」

 エルが操縦桿を動かすのを止める。

「誰がそんな命令したと言ったんだぁ!」

 エルは怒りを込めて雄叫びを上げた。

 その時だった。イレイによって強制停止させられていたロードがまるでエルの雄叫びに合わせて動き始めた。

 体のところどころにまるで血脈の様に赤い光の筋が浮き出る。

「くそがぁ!」

 エルはカレンとロイドのブレイブを払いのけ、グリムの部隊に突っ込んでいく。

「な、何でロードが動いてるの!?」

 イレイが慌てて何度も緊急停止の信号を送るもロードは止まる気配はない。

「うおおぉぉぉ!」

 ロードの蹴りがグリムの胴体を大きくへこませる。

 次にグリムの所持していた巨大な鉄剣を持ち、次々となぎ倒していく。

 その姿は凶暴な獣だった。荒れ狂うロードの姿に敵味方関係なく恐怖を感じていたのだ。

 暴れ狂うロードを見たグリムの部隊は恐れをなしたのか外部スピーカーから悲鳴を漏らしながら撤退していった。

 それをエルは見逃さなかった。操縦桿を倒し、グリムの部隊に急接近すると一人ずつ確実にコックピットを粉砕していく。

「姫様……姫様……」

 敵を全滅させるとロードの動きは止まった。

 戦場にエルの悲痛な叫びが辺り一帯に響き渡る。

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