第10話極秘作戦

 エルは浴場に一番近い窓の付近で待機していた。

「頼むぞロイド。お前次第で作戦の成功率が変わるんだ」

『任せてくだせぇ。任務はしっかりこなしてこその俺ですから』

 エルは窓越しに基地内を見た。

 そこには待機している女性の軍人が五人浴場の入り口に立っていた。

 そこにワインとグラスを持ったロイドが近づいていった。

「はーい子猫ちゃんたち。俺と一緒に飲まない?」

 ロイドが女性たちにワインの瓶を見せつけた。

 女性たちは不審がってロイドを警戒している。

あのワインの瓶にはただのブドウジュースしか入っていない。

それでも誘導には十分であり、常に女を口説いているロイドこそこの役が適任だった。

「軍曹殿。今は女性陣がお風呂に入っています。どうか回れ右して帰ると私は嬉しいです」

「またまたそんなことを言って。ほら上物の酒を上官の目を盗んで買ってきたんだから一緒に飲もうぜ」

「……お誘いはありがたいのですが、お断りします」

 予想以上に苦戦しているロイドを見てエルは歯噛みしていた。

「早くしないとイレイが出ちまう」

「エル。ここはプラン2を実行した方が」

 インカム越しに02小隊の隊長がエルに提案を出すもエルは却下する。

「だめだ。俺のとこのロイドはこん何で苦戦する様な奴じゃねぇ」

 エルは神に祈る様にしてロイドからの合図を待った。

「全く。わがままな子猫ちゃんたちだ。ならこれならどうだ?」

 ロイドはそう言って何枚か写真を取り出す。

「そ、それは……」

 一人の女性隊員がロイドに近付く。

 エルは目をこらえてみると微かに青いきらびやかな衣装を着た美青年が写っていた。

「そうさ。君の好きな歌手、レン君の限定写真だ。ほしいだろ?」

「ほ、ほしいです!」

 一人の女性隊員がロイドに向かって歩いていく。

 後四人。ロイドは負けじと二人の女性を指さした。

「そこのお二人さん。近いうちに合コンを開こうと思うのだけれどどうかな?」

「ほ、本当ですか?」

「ああ、だから一緒に時間や場所を決めようじゃないか」

 見張りの二人がロイドに近付く。

 入り口付近にいる二人に関しては全く動かないでいた。

「ほらほら、そこのお二人さんも俺の所で遊ぼうぜ」

 ロイドが誘いを掛けるも二人は動じない。

「浴場を覗こうとしても無駄です。近くに仲間がいるんじゃないですか? 今日は誰を引き連れたのです?」

 一人がロイドを不審がりながらため息交じりに話しかける。

 それを見ていたエルはタイミングをうかがっていた。

「エル。もう時間が無い。早くプラン2へ移行しよう」

「やむを得ない。プラン2に……」

 エルがインカムで通信を入れようとしたところだった。

「まだだ。まだ終わっていない! 俺の戦いはまだ終わっていないんだ!」

 ロイドが叫びながら上着を脱ぎ捨てた。

 そこには一冊のノートが紐でシャツと結び付けられていた。

「お前がこちらに来ないと密かに書いていたポエムをこの基地中にばらす!」

「な!」

 入り口付近にいた隊員はロイドの方に向かって行く。

「あいつ……。あんなことをしてまで」

 エルはロイドの勇姿に敬意を表した。

「エル!」

「ああ、作戦を実行する」

 エルはインカム越しに03部隊の隊長に連絡を入れる。

「こちら01。作戦を開始せよ」

『了解。作戦を開始する』

 通信が切られると近くから人の声がし、何人もの走る音が聞こえてくる。

「よし、外の見張りがいなくなった」

エルはポケットからお手製煙玉を取り出し火をつけた。

しばらくすると真っ白な煙が上がり、エルを包み込む。

 エルは煙を吸い込まない様に軍服で口を覆い、息を止める。

「な、なに?」

 女性隊員の一人が煙に気付き、窓を開けた。

 エルはその好機を逃すことはしない。勢いよく女性隊員を引きずり込む。

「な、何でエル隊長が! まさか覗きを!」

 エルは女性隊員を地面に倒し、縄で手足と口を縛ると音を立てずに窓から侵入することに成功する。

「よし、後は入るだけだ」

 エルが浴場の扉に手をかける。

「さぁ、俺に秘宝(イレイ)を見せてくれ」

 その時だった。ロイドが女性の相手をしている中、イレイが着替えを持って現れたのだ。

「あ、あれ? 皆さん何して……」

 イレイがエルの方を見た。無言で回れ右して走り出す。

「待て! お前が回れ右したら駄目だ!」

 エルは急いでイレイを追いかけて行った。


 覗き作戦が見事失敗に終わり、エルを含めた三人は基地の周りを走らされた。

 何とか指定された十週し終え、息を切れ切れに地面に座り込んだ。

「はぁ、はぁ。まさかイレイがあんな時間に風呂に入るなんて想定外だった」

 エルは肌から流れる汗を拭いながら

「まだ謹慎処分よりはましか」

 三回目の覗き作戦の時、特攻したせいか一人負傷したことがきっかけで全員謹慎処分と給料の減額をくらったことをエルは聞いたことがあった。

「そうっすね。俺はあのとき参加しなくて正解でしたよ」

「そん時は偵察任務中だったからな」

 お互い地面に寝転がり、仲良く笑い合った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る