第2話ロリ整備士との出会い


 格納庫に着くと近くからグリムとブレイブが交戦しているのが見えた。

「隊長。あれって」

「ああ、恐らく敵の狙いは試作機だろう。情報が早いことだ」

 エル達は慎重に格納庫に進み、自分たちの機体に近付いていく。

 歩いている最中、白い機体と紫色の機体が格納されているのを見つけた。

「あれが試作機か」

 折りたたまれた翼。獣の様な爪に頭部。白い方は細身の体躯に対して紫の方は大柄な体躯だった。

 そして試作機の近くには小柄で青い作業着を着た少女が体を震わせながら座り込んでいたのが見えた。

「ロリだと!」

 エルは自分の機体には向かわず少女の方に歩んでいく。

「た、隊長!?」

「行ってくれ。俺はあの子を保護しに行く」

 カレンは止めようとするもエルは走って少女の元に向かった。

「君、ここは危ない。早く地下へ避難を――」

 少女が顔を上げた。

 傷一つない雪の様に白い肌。ショートボブの白い髪。そして涙によって宝石のように輝く透き通った青い瞳。

 エルはそんな美術館に飾られてもおかしくはない少女の美しさに見とれてしまった。

「隊長! 何してるんですか! 早くその子を避難させてください!」

 ブレイブからの外部スピーカーから聞こえるカレンの声にエルは我に返った。

「そ、そうだ。早く避難しよう。こっちだ」

 少女は頷き立ち上がった。

 その時だった。一機のグリムが格納庫に突っ込んできたのだ。

 その衝撃でロイドとカレンの機体は倒れてしまう。

「くそ、特攻かよ」

 グリムの手が開き、そこから赤と黒のスーツを着たフルフェイスヘルメットをかぶった少女が現れる。

 少女は紫色の機体向けて走り出す。

「だめ。クレイクに乗っちゃ駄目!」

 白髪の少女は声を張り上げて紫色の試作機――クレイクの傍に走ろうとする。

「駄目だ、危険すぎる」

 エルは片手で少女を抱き寄せ、もう片方の手で拳銃を構え、標準を合わせる。

 しかし、エルは一向に引き金を引くことは出来ず、苦渋していた。

「……ダメだ。いくら敵だとしても俺にはロリを撃つなんて」

 エルが銃をゆっくりと下ろした。

 今まさに敵軍の少女がクレイクに乗り込み、ハッチを閉めるもエルはそれを見ていることしか出来なかった。

 アイカメラに緑色の光が灯り、クレイクが動き始める。

「そ、そんな。動かせたの」

 白髪の少女は唖然していた。

 クレイクは立ち上がり、ロイドのブレイブに向かって拳を振った。

「うお! なんだこいつ」

 ロイドのブレイブは地面に倒れ、地面を大きく揺らした。

 クレイクは傍に設置されている大型チェーンソーを手に持つと傍に倒れているグリムを担いで外に出てしまった。

 エルは軍服のポケットからインカムを取り出し、耳に付けた。

「カレン。紫色の機体を追いかけてくれ。ロイド、お前は対物ライフルを持ってカレンの援護に入れ」

「了解しました」

「了解したぜ。さーて、この借りは絶対に返してやるからな」

 エルは二人に指示を終えるともう一つの試作機に向かって走り出した。

「待って。まさかロードに乗るつもり?」

「ああ。あの紫色に対抗できるのはこいつしかいないだろ?」

「そ、そうだけど。でもあなた用に調整できてないの。だから乗せるわけには」

「緊急事態なんだ。あの機体が奪われるとフロウの戦力が大幅に上がってしまう。わかってくれ」

 エルは白髪の少女の頭に手を乗せて優しく撫でた。

「君は早く地下へ避難を。一人で出来るな?」

 白髪の少女は首を横に振った。

「あなたが乗るなら私も乗る。動かしながら調整出来れば何とかなる」

「駄目だ。それにあれは一人乗りだろ?」

「ううん。あれは二人乗りなの」

 少女は試作機付近に設置されている簡易用リフトに乗り込んだ。

「あ、おい!」

 エルは少女の後を追いかけるようにリフトに乗り込む。

「戦場に出ることは命を危険にさらすのと同じなんだぞ。それなのにどうして……」

「危険なのはお互い様。そうでしょ?」

 少女の発言にエルは困り果てているとリフトはコックピットの傍に到着した。

「ほら、早く行きましょ?」

 少女はコックピットに乗り込んだ。

「全く仕方無い奴だ」

 エルは呆れつつもコックピットに乗り込み、八を閉めた。

 コックピット内はブレイブと全く同じだ。

 違うところを言うなら右側に鉄製のケーブルがついた腕輪が置いてあることだけだった。

「操作方法はブレイブと一緒。だけど一つだけ違うの」

 少女は横についていたコンソールを自分の手元に動かした。

「右側にある腕輪を付けて」

 エルは指示通り右側に置いてあるケーブルがついてある腕輪を右手首に取り付けた。

「この機体はあなたの感情をエネルギーとするの。だから感情をむき出しにして」

「こんな時に冗談を言ってる場合か?」

「早く!」

 エルは少女に怒鳴られ、渋々大笑いした。

「あはははははは! どうだ」

 機体は動く気配がない。

「やっぱり動かないじゃないか!」

「心の底から出して。じゃないと起動しない」

「はぁ? 何を言って……」

「ならあなたの好きな事を想像して。そうすれば動くはずだから」

 エルは少女に言われてある事を閃いたように後ろを振り返った。

「なぁ、ちょっとお願いしていいか?」

「何?」

「後ろから俺を抱き着いてくれ」

 あまりにも突拍子もない事に少女は呆然としていた。

 数秒後、少女は自分の体を抱き寄せて頬を赤らめていく。

「……えっち」

「待て待て! 仕方ないだろ、こんな緊急事態に好きなことを想像しろなんて無理な話なんだ。もうこれしか方法がない」

 エルの言葉に少女は俯いた。

「そうよね。男の人は皆そうなのよね」

 少女はコンソールを横にずらし、荒い息を落ち着かせると姿勢を正した。

「前向いて。恥ずかしいんだから」

「あ、ああ」

 エルは高鳴る鼓動を抑えながら前を向いた。

「い、行くよ」

 首元に体重がかかり、生暖かい息が当たる。

「これで、いいんでしょ」

 横から見える細い腕。いかにも恥ずかしそうにしている声音。少女の体温がじかにエルに伝わっていく。

 エルは久しぶりに触れるロリの感触に心臓の鼓動が跳ね上がる。

 エルの目にはこれまでとは見たことも無い闘志を宿し、操縦桿を握った。

「萌えるぞ。俺の心が、体が熱く萌え上がっていく!」

 エルの声に合わせて目の前の画面にエネルギーがチャージされたことを告げる。

《エタニティ・ロード起動準備完了》

「本当に動きやがった。それにこのエタニティ・ロードって……」

「この機体の名前。私はロードって呼んでる」

 少女はコンソールを操作しながら左右に展開された画面を見ていた。

「永遠の支配者か。何とも恐ろしい名前を考えるもんだ」

 エルは操縦桿を動かす。

「ロード、行くぞ!」

 ロードはアイカメラを青く光らせながら体を起こした。

格納庫を出るとすでに敵軍はかなり遠くに撤退しており、それを追いかけるブレイブの部隊を視認出来た。

「スラスターを使う。バランス調整はこっちで行うからあなたは進路をとって」

「分かった」

 ロードのスラスター吠えるように点火。推進力によって押し出されたロードは空中をスライドするかのようにグリムの部隊に向かって行く。

「くっ!? 何だ、急に倦怠感が」

「感情を出し続けて」

「おっしゃ!」

 エルは倦怠感に負けずとつい先ほどの出来事を思い出して感情を高ぶらせる。

「うおぉぉぉ!」

 勢いをつけたロードの拳が最後尾のグリムのコックピットを貫通。

「次!」

 ロードは貫通したグリムから拳を抜き、横にいたもう一機のグリムに肘打ちを喰らわす。

「その声は隊長! まさか試作機に」

 後から来たカレンがエルの元に追いついた。

「遅くなってすまない」

「本当ですぜ。遅刻した分動いてくださいよ」

 ロードの横から対物ライフルを担いだロイドのブレイブが並ぶ。

 ロイドに続いて続々とブレイブが到着する中、フロウの部隊からグリムを押し退けてクレイクがチェーンソーの電源を入れて現れた。

 騒がしいモーター音を上げながら凄まじく回転する刃。試作機はロードに向けて構えた。

「俺と戦うつもりか。くそ、何とかあの中にいるロリだけでも助けられないのかよ」

 エルは歯噛みしながらもロードを臨戦態勢にさせながら対峙した。

 緊迫する空気の中、クレイクはロードに背中を向けた。

「……運がよかったわね。私達の上官に感謝しなさい」

 クレイクから外部スピーカー越しに年端も行かない少女の声が聞こえて来た。

 エルにはその声には聞き覚えがあった。

 四年前、エルドラで助けられなかった少女。エルのことを逃がしてくれた少女。

「その声、姫様なのですか! ネロ姫様なのですね!?」

 エルはメインカメラに映るクレイクに向かって声を荒げた。

「……姫様? それ私に言っているの?」

 クレイクの外部スピーカーから軽蔑を込められたかの様な声が聞こえた。

「そうです、そのお声は間違いなくネロ姫様。私は四年近くあなたのことをずっと悔やんでいて……。さぁ、私と一緒に帰りましょう」

「……バカみたい」

 エルはネロから聞こえてくる言葉に理解できず思わず「え?」と言葉が漏れてしまう。

「さっきからあなた私のことを姫様って呼ぶけど、本当にバカじゃないの? 私はフロウ直属第一部隊隊長、エルドラ。私の帰る場所はフロウよ。覚えておきなさい」

 ネロの言葉にエルの思考は追いつけない。一体何を言っているんだとそれしか頭には思い浮かばなかった。

「全軍撤退する。私についてこい!」

 ネロは撤収命令を出し、グリムを連れて撤退していく。

「姫様!」

 エルはロードを動かしてクレイクを追いかけようとするもカレンに止められる。

「離せカレン! あれに乗っているのは――」

「隊長。今行っても負け戦になるだけです」

「そんなもんは知ってる! だけど」

「隊長!」

 ロイドの言葉に我を返すエル。

「気持ちは察します。だけど他の隊員達を巻き込まないでください」

 ロイドに言われ、エルはどうしようもない気持ちを拳に込めて自分の腿を叩いた。

「くっそ」

 エルはフロウの部隊が撤退していった後をただ悔し気に見ていた。

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