心の変化

「昌幸、迎えにくるの遅いし。それにお腹が減ったー」

「大友まだ続けるのかそれ?」

「そうですよ、家に着くまで先生は私の彼氏ですよ」

「でもなー」

「あーあ、残念ですね。先生と明日でお別れになるとは」

「おい、なんでそうなるんだよ」

「それは…、明日になったら先生の悪行が皆んなにバレるから」

「俺の悪行ってなに?」

「風香の弱みを握って自分の玩具にしている事」

「そんな事してないぞ俺は、それに玩具ってそんな言い方したら小倉が泣くぞ」

「そしてその事を知った友達の麗奈も先生によって弄ばれ無理矢理奴隷に」

「おい大友、終いに優しい俺でも怒るぞ」

「だって昌幸、さっきの説明じゃまったく私は全然納得出来ません」

「何でだよ、さっきの説明凄く分かりやすいだろ。小倉が俺の電話番号を教えてほしいと言ってきたから教えてあげただけだって」

ーーただ、それは彩花が俺の側にいるからだろうけど

「だから、それがおかしいの。それじゃまるで風香が先生に好意を抱いてるように聞こえるの」

「俺に小倉が好意を抱いてるのがそんなにおかしいか?」

「ええ、天使が悪魔なんか好きになる訳ないでしょ」

「えー、念の為確認するが麗奈…天使が小倉で悪魔は?」

「昌幸」

「おいそこは先生でいいだろ。」

「はい、はい。もうそんな事はどうでもいいから、どのみち先生には私にした痴漢の余罪があるから」

「あれはもう時効だろ」

「だから先生、今日は私の彼氏なんです。わかりましたか?」

昌幸の訴えを無視する麗奈

「だからって…」

「昌幸、信号」

麗奈に言われ前を向くと目の前の信号は赤。慌てて急ブレーキを踏む

「もう、しっかり前向いて運転してよね。」

「危なかった。大丈夫だったか麗奈?」

昌幸は諦め彼氏役を務める事にする

「うん大丈夫よ…昌幸、携帯かしてね」

言葉と行動は違うと言うのはこういう事だろう彼女は俺の返事を待たずにスマホを奪いさった

「はい登録終わり」

「何の登録?」

「私の携帯電話番号」

「これで昌幸も寂しくなったらいつでも私の声が聞けるね」

「別に麗奈の声聞いてもな」

「酷いわ、昌幸そんな言い方」

涙を流し急に泣き始める麗奈

「あー冗談、冗談だから。ごめん言いすぎた。」

すると麗奈はすぐに素の顔に戻った…

「嘘泣きだよ昌幸。これも私の演技上手いでしょう。もう昌幸は、すぐひかかっるんだから…。ねぇ、それより私さっきからお腹すいてるんだけどどこか早く食べに連れてってほしいな」

「何だよまったく余計な心配したじゃないか。食事かぁ、あまり高いものは勘弁してくれよ平教師の給料なんて大したことないから」

「えーそこは昌幸、やっぱりあれでしょ。…今日は麗奈の為にこの店を全て貸し切りにしてあるんだ何でも好きな物を頼むといい。とかそんな言葉があっても」

「あのな、さっき偶然にあった人間にそこまでする奴はいないぞ」

「まぁ昌幸に、そんな甲斐性が無いのはわかってるけどね。昌幸の食べたいものでいいよあわせるから」

「だったら言わないでほしいよへこむだろ。どうしような何食べに行くかな?…あ、そういえば麗奈」

「なあに?」

「親はいいのか?電話か何かしなくても。早く帰らないと心配するんじゃないか?」

ーー完全に忘れていたが麗奈は高1だ。親が心配するだろう。

「え、さっき話したじゃないの二人組の男にナンパされてるときに今日は両親いないって」

「あれ作り話しじゃないのか?」

「違うわよ、本当にいないの今朝から一週間北海道に行ってるわ。親が家に居たら私こんな時間にこんなところにいられないわよ」

「そうか。…それじゃあ行くかラーメン食いに」

「ラーメンですか…」

「嫌いかもしかして」

「嫌いじゃなくて。私、ラーメンって食べた事無いの」

「まったくないのか?」

「まったくって事はないんだけど。カップラーメンを今まで数回食べたことがある程度と言った方がいいかしら。だから外のラーメン屋さんでどうやって食べればいいのかなんて分からなくて」

「大丈夫だよ。今から行くところラーメン以外も種類豊富だから」

「いいえ、せっかくなんだからラーメンを食べてみたいな。昌幸が教えてくれれば」

ーー教えるって…ラーメンを食べるのに礼儀作法なんてないはずだが?

「あと言い忘れてた事が、俺が食べようとしてるの辛いラーメンだけど大丈夫?」

「大丈夫よ」


一時間後、麗奈は昌幸の運転する車の助手席で悶え苦しんでいた。

「口がまだヒリヒリするし、喉が熱い」

「だから言ったのに、無理して飲まなくてもいいよって」

「だって美味しかったんだもの、スープ」

麗奈はドリンクホルダーのペットボトルを手にして飲み干す

「あ、それ俺のいろはす」

「別にいいじゃないの少しぐらい飲んでも」

ーー少しって見た目、半分以上減ってるし。俺こそ少ししか飲んでないけど…

「麗奈にさっき買ってあげたのは?」

「とっくに全部飲んだわ」

まだ喉が痛いのかペットボトルに口をつけ水を飲む麗奈

「少しは俺に残しておいてくれよ」

「わかったわよ、ケチ」

自分が買ったわけでもないのに愚痴る麗奈

「麗奈ってその体の割によく食べるよな」

「美人がご飯食べちゃいけないんですか?そんな法律ありましたか?」

「そうじゃないけど、ほら…炒飯に餃子、唐揚げにラーメンとあれだけ食べて」

「だって美味しかったし、…家ではこういう物食べさせてくれないから」

声が低くなり話を続ける麗奈、静まりかえる車内

「母が色々と厳しい人でね…普段から食事も自分が料理した物しか食べさせてくれないの」

「なんで?」

「私って小さい頃は体が弱くて、よく他の子にいじめられては泣いて家に帰ってきたんだ。まあ、ハーフっていうもいじめの原因だったかもしれないけどね。その事で母は私に対して厳しく怒ったの…本当、怖かったわ。それでね、その頃からかな母が私の身体を強くする為に健康管理を徹底した食事にするようにしたのは」

さらに沈黙が続く…。

「でも、そのおかげで人から羨まれる美貌、スタイルの持ち主。麗奈ちゃんが出来上がったんだからそこは感謝しなくちゃいけないのかな」

笑ってはいるがどことなくぎこちない笑顔の麗奈

「なあ、麗奈。でも学園や今みたいに親がいない時の食事はどうしてるんだ…まさか食べてないって事はないだろ?」

「学園はサラダだけでお昼は済ましてるわ。家では母のレシピ通りに作れる様にと食材が常にあるし私がそう仕込まれてるから」

はにかみながら昌幸に話す彼女

「材料が減ってなかったら怒られるんじゃないか?」

「うん、怒られるかな。だからこういうときは捨てるかなあ…バレたら絶対怒られるけどね」

「もったいなぁ」

「それなら昌幸持って帰ってよどうせ一人で住んでるんでしょ?」

「まあそうだけど…」

「それなら決まりね。だからもうこの話はこれで終わり。」

あまり自分の苦労を聞かれたくないのか麗奈は話を終わらせた。


「ねぇ昌幸なんか音楽かけてよ」

麗奈の発言に同意した昌幸がカーナビのラジオにタッチしFMに合わせチャンネルをおす。丁度ラジオのリスナーが話を終え曲がスピーカーから流れ始めるとこだった。その曲は麗奈にも一度は聞いた事のある曲だった。二人はしばらくの間その歌に耳を傾けていた。歌が終わりリスナーがまた話を始めたところで麗奈は昌幸に聞いた。

「昌幸、今の曲ってメンデルスゾーンの結婚行進曲よね?」

「よく知ってんな、麗奈」

「当たり前でしょ女なんだから、それであの曲誰がカバーしてるの?」

「そっか麗奈はまだ子供だったか、あの歌が出た頃は、……えっと誰だったかな。」

昔の記憶を辿る昌幸

「確か、……リンだったかな。曲名はウエディングマーチだったような」

「へぇーそうなんだ」

「結構いい歌だろ」

「そうね」

そしてホテルで重雄が言った言葉が麗奈によぎる

「…結婚か」

「なんだ真剣な顔して結婚だなんて、麗奈にはまだ早いだろ」

笑う昌幸、聞こえない程度に小さく呟いたつもりだったが彼に聞こえていたらしい

「早くないですー、法律で女は16歳からでも結婚できるんですよ」

「それは知ってるけど、どうせ相手なんていないだろ。わがまま娘に」

「うわぁひっどい、もうあれね明日から昌幸は、やっぱり学園にいないわ。可哀想に」

「あー、ごめんなさい」

「謝っても、もう無駄だからね」

麗奈の顔からまた笑顔が浮かぶ

車は名古屋市を抜け国道22号線を真っ直ぐ北へと移動し岐阜へと向かっていた。

愛知と岐阜を結ぶ主要道路である22号は交通量も激しく行き交う車のヘッドライトやテールランプ、道路沿いに立ち並ぶ飲食店のなどでかなり明るい。あまり時間を気にしていなかったが時刻はすでに午後9時を回っている。麗奈は窓の外を眺めボッーと考えていた

ーー結婚かぁ

重雄からの告白の事をもう一度考える麗奈

ーーどうしてだろ、さっきは凄く嬉しかったのに今はその二文字の言葉が凄く重い

昌幸の運転している姿を横目で見る

ーー昌幸が私の事をおかしくしてるの?

ーーどうしてよ。昌幸とはついこの間知り合ったばかりなのよ

ーーわかんないわ。私が…

考えもまとまらず疲れたのか麗奈は大きな欠伸をしてしまった。慌てて運転席の昌幸を見る

ーーよかった、気づかれてないわ

その後も欠伸が続き、今日これまでの気疲れもあったのか麗奈はゆっくりと目を閉じて助手席に自分の体を預けていた。

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