交わり

「村重先生の事、どう思うかね?」

「どう思うって?」

「ほら、授業の進め方とか色々あるだろう」

「ああ、そっちね。結構みんなからの評価は高いわよ。どうして?気になる先生の事」

「なかなかいい若者だよ」

「見た感じは普通だけど…」

「人は見かけによらないもんだよ。人間、頭の回転だけが大事じゃない。ああいう他人の事を心から心配できる心情を持った若者は、今どきなかなかいない」

「ずいぶんと気に入ってるのね」

会話はずっと薄暗い部屋の中で交わされていたが、ここにきて、小さな灯が薄暗い中に明るい輪を作った。

ベットの上に備え付けてある小さなスタンドの白い光が、その中でより添っている水嶋重雄理事長と大友麗奈を照らしだした。

「…でもどうして先生の事気になるの?何かあったの?」

「君に直接的に関係ある事だよ」

「…重雄、もしかして私と先生の噂を信じてるの?」

「そうだよ」

「本当に重雄って心配症なんだから、あんなの噂に決まってるじゃないの」

「その言葉、信じても大丈夫かい?」

「大丈夫よ、私は重雄の事が大好きだし一番大事な人なのよ」

大友麗奈は、重雄の方を見る。「だいたい噂を心配するなんて、いつもの重雄らしくないじゃない」

「…それは、やっぱり彼の方が年齢的に君と近いだろ」

水嶋が不安そうに麗奈の顔を見つめる。

「私は年齢の事なんて気にしてないわよ。それに」

麗奈は色白で細い腕をのばして水嶋の頭を抱き寄せ、唇を重ね合わせる。

「こっちにも不満はないしね」

「そうか」

水嶋は手を伸ばしてベットの上に置いたカバンの中から小さな箱を取り出す。

「麗奈、私と結婚してくれないか?」箱の中身から指輪を取り出し麗奈に渡す。

「…ねぇ、重雄それって本気で言ってるの?」

「本気だが?」

「そう凄く嬉しいんだけど、二人とも裸だし急に言われても…いまいち信用が出来ないなぁ」麗奈は笑って話を続ける

「でもそういうところ重雄らしいね。ただその言葉はもっと雰囲気のある場所で聞きたかったなぁ」

「…こういう場面で話すのがいいのではないのか?告白と言うものは」

真顔で尋ねる水嶋を麗奈は苦笑している。

ーー重雄ってやっぱり女性と付き合った経験がほとんどないんだろうな。たぶん、今まで一人か二人ぐらいしか付き合ったことないんじゃないかしら

別に経験人数の事を重雄に聞いた訳でもないのだが、麗奈は何となくだが分かっていた。今日も麗奈から求めなければ重雄は誘ってこなかった筈、重雄と大人の関係を持ってから約半年が経つのに行為はまだ数回しかない。麗奈も重雄が初めての相手だったから最初はこういうものなのかとも思っていたが、クラスの同級生や雑誌などの知識から察するに違うという事に気づかされた。要するに重雄は女性に興味がないうえ、性欲そのものがあまりないのかもしれない。そうでなければ、有名学園の理事長で資産もかなりある人間が49歳にして今だに独身な訳がない。

ーー顔はお世辞にもイケメンとは言えないけど、普通かしら

「それで麗奈さっきの返事を聞いていないのだが」

「えー、ここで言わないとダメ?その返事」

「ああ、頼む」

「もう、…私は別にいいわよ結婚しても」

「本当か?」無邪気に喜ぶ重雄。

「うーんでも、私の両親がどう思うかしら?経済的には問題ないとしても、30歳以上離れた相手との結婚って」

「両親は必ず私が説得するよ」

「それと、学園は必ず卒業したいんだけど子供が出来て途中で退学だけは嫌だな」

「理事長の特権があるから問題ないだろう」

「重雄それって大丈夫?理事長を解任されない?」

「仮に辞めさせられても、金銭には余裕がある麗奈や子供ぐらいは養える。心配はするな」

ーー重雄ったらもうめちゃくちゃね。もう辞める覚悟じゃないの。

麗奈は重雄から渡された指輪を左手の薬指にはめた。かなり大粒のダイヤがきめ細かくデザインされている。…きっと物凄く高いんだろうなぁ、重雄の事だから

「重雄、この指輪…やっぱりまだいいわ」

薬指にはめた指輪を外し箱へともどす麗奈、

「気に入らなかったかい?」

「違うの、今の私にはまだ勿体ないなと思って」

「勿体ないって…美人で綺麗な君だからこそこの指輪は似合うと思うが」

「ありがとう重雄、そこまで言ってもらって。でも私まだ高校生だから」

「そうか…。」

残念そうにする重雄、

「でも勘違いしないでね重雄。指輪を受け取らなかったのは本当に私にはまだ早いかなと思っただけだから」

「いいよ、君の事は信じてるから」

麗奈はベットの上に置いた腕時計を見て、

「あら、もう夕方の6時よ。打ち合わせや食事会なんかは今日は入ってないの?大丈夫、重雄?」

重雄も仕事柄なにかと付き合いがあり忙しい。

「今日は大丈夫だ」

「そうなの」

そう言いながら、麗奈はベットの上にあるスイッチを操作して室内の照明をさらに落としていく。重雄も、麗奈が次に動き出すのをまっている、そんな格好だ。そのうち、何となく顔を見合わせると、

「若い私と結婚するんだから…3回戦も頑張ってね」

「できるだけ頑張ってみるよ…」

重雄は、目の前の唇を軽く奪い、手を伸ばして麗奈の裸身を抱き寄せた。

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