少女の気持ち

初めての学園の授業も無事に終え、職員室に戻る廊下を一人歩いていた俺、昌幸は酷く悩んでいた。

悩んでいる原因は2つ。

1つは、大友麗奈の存在。2つ目は……、


「なあ、彩花。いい加減機嫌直してくれないかな……。」

彩花は隣りで、俺を軽蔑の眼差しで見ていた。


「そこまで怒らなくても…。」


『……なんか言った。あの光景を間近に見せられて怒らない人っていますかねぇ』


「ごめんなさい」


『ゆっくんが、まさかあそこまで麗奈と仲が良かったなんて。』


「それは、モールでスマホを忘れた俺に彼女がわざわざ届けてくれたからで…、別にそれ以上でも以下でもなくて」


『そう……?私にはそれ以上に見えて仕方がなかったけどね、それに……、それ以下でもなくってどういう事よ』


「断じて違うから、……それ以外でもないってのも間違いだから…。」


『……そう。だったら、ゆっくん。私の事はどう思ってるの?』


「……えっ?」


俺は突然の彩花の質問に戸惑ってしまった。


ーー彩花が、まさかそんな事聞いてくるなんて……。


『早く、応えて。』


苛立った表情で彩花が俺に問いかけてくる。ここはあの言葉で彩花の機嫌をとるか。


「か…可愛いと思うよ。」


…恥ずかしすぎて言葉が詰まってしまった。


『うーん。何か求めてた言葉と違う感じがするけど…、本当に私の事可愛いと思ってます?』


「何を言ってるの?彩花以外に可愛い子なんて世界中探しても見つからないよ」


『……ゆっくん。それ、凄く大げさすぎですよ。……でも、嬉しいなぁ。あと、声大きすぎですゆっくん。誰かに見られたら変な人と思われるよ。』

廊下には俺と彩花だけで誰もいなかったから良かったが、かなり大声をだしていたらしい。顔をほんのりピンク色に染めて彩花が俺に注意する。


「ごめん。…それはそうと学園にきてなんか思い出せたか?」


ーーそう、目的を忘れかけていたが俺と彩花は殺人犯の手掛かりを探しにこの学園にきているのだ。


『それがやっぱり思い出せなくて、ただ…この学園に何か関係していたような気がする…それが私の友達四人がらみの事だったのかはイマイチですけど』


「ま、初日だし急に思い出せと言われても彩花だって困るよな。時間かけて思い出せればいいと思うよ」


『私が思い出せればですけどねー。思い出せた頃にはゆっくんおじいちゃんになってたりして。』


「それは困るなー。」


『その時は私がしっかりあの世へとエスコートしますから心配しないで下さいね。まあ、そこまでいったら完全にバッドエンドですけど…。」


ーーだろうな、犯人が見つからずに彩花と老後まで一緒でしたって話になるなら何の意味も無くなる。…それだけは避けなければ。


『さっきの話、犯人探しの件になるんですが、一つだけ気になってることがありますよ。学園と関係してるかどうかは分かりませんが』


「何か思い出したのか?」


『いいえ、思い出すとかではなく、私が死んで(殺されて)から目を覚ましたときベッドの上に置いたはずのスマホが机の上に置かれていた事です。』


「それってただ記憶違いをしているだけじゃないの?机の上に初めからあったとか?」


『私も最初はそう思いました。ただ、私のスマホはピンクの手帳式スマホカバーがしてあってその中にプリクラの写真なんかもいれてあったんです。それがベッドの上に散乱してたのは覚えていて…。』


「つまり、犯人がスマホを触ったと?」


『そうじゃないかなと、正確には触らざるを得なかった。』


「えっと……、それは彩花の知り合いだった人が怪しいと、そう思ってるのか?」


『別にそんな風には思ってません。ただスマホに何らかの手掛かりがあったのかなと思って。』


「彩花の言ってる事が正しかったら、スマホに手掛かりがあったかも知れない。ただスマホだったら警察だって調べてると思うよ。」


「それでいて半年たった今も進展が無いところを見るとスマホからは何も得られなかったじゃないかな。」

残念そうにする彩花。


多分俺の言った事は間違いない筈だ。警察だって馬鹿ではないもちろん彩花のスマホを確認し発着信やデータを調べて気になれば連絡したりしている。それでいて何の音沙汰もないところを見るとスマホからは何も得られなかったんだろう。


『そっかー、やっぱり難しいね犯人捜すのドラマやゲームみたいに上手くはいかないか』


「ドラマやゲームみたいだったら警察要らないと思うよ」


『それもそうだなぁ』

彩花は少し落ち込んでいる。


ーーそうだよな、自分で犯人探そうにも何も手掛かりがなければそうなるよな。


「…ま、気にするな。もし駄目だったら俺がバッドエンドまで付き合ってあげるから」


『ありがとう、ゆっくん。』


ーー彩花だけさみしい思いをさせるのはかわいそうだ。俺一人が犠牲になるなら安いもんだろう。


『ゆっくん、ゆっくん。』


「どうしたの彩花?」


『職員室すぎてるよ。』


どうやら彩花と話に夢中になり職員室を行き過ぎていた。


昌幸は職員室の扉を開け自分の机に向かおうとする。すると、他のクラスで授業をしていた先生が俺に声をかけてきた。


「お疲れさん」

声をかけてきたたのは、五十代ぐらいの白髪の混じった優しい叔父さん教師。彼は歴史担当の片山先生だ。


「お疲れ様です。」


「久しぶりの授業だったから緊張しなかったか。」


「ご心配ありがとうございます。でも大丈夫でしたよ」


「そうか、それなら良かった」

片山先生は次の授業があるのか自分の席に戻り準備をし始めた。


職員室に入るのは実際、今日で二度目になる。

初めの一回目は理事長室に向かう前、化学教師の栗本(彩花はエロオタクと呼んでいる)に連れられ、他の教師の顔合わせをさせられた。


「村重先生、どうでしたかこの学園の初めての授業は?」

昌幸が机に向かって書類関係に目を通していると一人の女性が声をかけてきた。


「そうですね、この学園の生徒はみんな真面目な子ばかりで助かりますよ。僕が前にいた学校と比べものになりませんね」

実際そうであった。前、赴任していた高校は公立で荒れてはさほどいなかったが授業を真面目に受けている子が半分ほどだった。まあ、大半が卒業後就職する子ばかりだったから仕方ないが。


「そうなんですか。私、教師になって初めての学校がここですから分かりませんが大変そうですね。」

彼女はそう言うと淹れたばかりのコーヒーを俺の机に置いてきた。


「どうぞ。」


「ありがとうございます。霧島先生」

俺は軽く礼を言ってコーヒーを口に含む。…………あま〜。

彼女の名は霧島美波。英語の先生だ。

金髪のロングヘアーにバランスのとれた体は、俺が受け持った1年A組の五人と比べてもひけを劣らない。

そして何より彼女の最大の特徴は顔が幼く先生に見えない。制服を着せればこの学園の生徒と見間違えるぐらい若く見える事だ。

その為か生徒達からは教師と言うよりは同級生感覚で話をしている子が多く人気を得ていた。まあ、美波先生の場合、生徒達からだけでなく先生達からも人気(特に男)だが。


……ただし、彼女には一つ大きな欠点があった。それはかなり天然が入ってるという事実だった。



彼女の淹れたものすごく甘いコーヒーをすすりながら俺は廊下で彩花と話をしていた犯人について考えていた。


ーーベッドから机に移動していたスマホ、つまり犯人はスマホの中の何かを消したかった。何だろうか?……。


ーーでもまて、よく考えたら別にその場でわざわざ消す作業なんてしなくてもスマホを持って逃げれば早いのでは?


ーー持って逃げた後に処分すれば問題ないだろう。俺ならそうするが、あそこまで大胆に彩花を殺した犯人なのだから証拠を残すなんてへまはしないだろう。スマホのデータなんて消去しても本気で調べようとしたら何もかも分かるはず。


ーー何故?ベッドから机に移動させたのか、分からない。


「…先生、…先生、、村重さん」

ハッと俺は我にかえった。見ると彼女、霧島美波が真横で俺を呼んでいた。


ーー霧島先生近すぎます。


呼んでも俺が全然気づかなかった為か、彼女はしゃがみこんで俺の耳元近くで呼んでいた。

その為、俺が霧島先生を上から見下ろす形になり首元の開いた服の隙間から赤色の下着が見えてしまった。


ーー先生派手すぎませんか…。


俺の視線に気づいたのかは知らないが霧島先生は慌てて少し離れた。


「それで、霧島先生どうかしましたか?」

俺は何事もなかった様に彼女に聞き返す。


「あ、えーとですね。もう次の授業のチャイム鳴ってましたけど村重先生は次は無いんですか。授業?」

少し取り乱していた霧島先生だが平静を保っていた。


「次は授業ありませんよ。」

だからこんなにゆっくりしているのだが…。


周りを見回すと他に職員室に残っている先生は四人だった。教頭と俺を含むと六人になる。


ーーえっと、そういえば彩花は?……いた。


彩花は職員室に飾ってある卒業生や在校生の全体写真を見ていた。


ーー彩花。みんなの写真なんか見てやっぱり寂しいんだろなぁ。


なんて考えながら彩花をぼっーと見ていたが、…どうもさっきから視線を感じる。彩花ではない、彼女は今写真を見ている。


俺はもう一度周りを見回すと三人の教師と目があった……。目があったというよりは睨まれていたという表現がこの場合正しいかもしれない…。


一人は体育教師の三島貴之先生、三十半ばらしい。彼は体育教師と言われなければ絶対に見えない。普通、体育教師と言うとむさ苦しそうな感じがするが彼の場合は全くの逆だ。普通より少し痩せぎみの体に優しそうな目つき、話をするとか細い返事が返ってくる。俺が朝初めて会った時に体育教師と聞いてかなりのギャップに驚いた。その三島が睨んでいるのかいないのか分からない目つきで俺を見ている。…あの人はムッツリかもしれない。俺は勝手にそう思った。


二人目は鈴木知宏。数学教師二十六歳だ。こいつはかなりのイケメンだ、しかもこいつは自分はかっこいいと言うことを棚に上げ人を見下すところがある。

朝、会った時もそうだった。明らかに人の顔を見て勝ったって顔したかと思うと、「僕、この学園の女子生徒には人気があってね。生徒の事で困ったら僕に話をしてくれればいい。生徒も僕の事なら聞いてくれるから」なんて話を堂々とする。うざいイケメン教師だ。ただ、その時心配になった俺は彩花を見たが、彼女は完全に無関心だった。で、その鈴木も俺の事をにらんでいる。明らかに敵意丸出しで。俺は少し勝ち誇った気持ちで気分がいい。


最後三人目だがこの人は紹介しなくてもいいだろう…。紹介するのが面倒だ、一応言っておくなら化学教師のエロオタク栗本だ。彼もこっちを気持ち悪い目つきでにらんでいる。


ーーあの三人がこっちを見ている原因はとっくに気づいてはいたが隣りにいる当人が気づいてない。


それなので美波先生は気にせず俺に話しかけてくる。あまり、初日から面倒な事は避けたいのですが…。

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