休憩時間
1限目の古典の授業が終わり、2限目の授業に向けての休憩時間。準備を始める生徒や友達と話をする生徒、お手洗いに行く生徒で静かだった教室も騒がしくなる。
そんななか大友麗奈は1人、窓の外を眺めていた。1人だからと言ってクラスから虐めを受けているとかそういう訳ではない。
学力優秀、美人で綺麗、日本人の父とロシア人の母から生まれたハーフであり、冷酷でクール。間違っている事は例え相手が教師であろうと容赦はしない存在の麗奈。
その為か、周りからは女王様扱いされ(ただし、麗奈は全くそんな事思っていない)女子、男子から近寄りづらく話し難い存在となっていた。
麗奈本人は別段それについては気にもしていない。何故なら、それは彼女が小、中学校の時から今までと何も変わっておらず、今さらどうでもよかった。
いつもならここで唯一の友達である風香が話をする為、麗奈の席に来るのだが今日は学級委員の仕事があるとかで授業終了のチャイムが鳴るとすぐに教室を出て行ってしまっていた。
なので、何もする事がない麗奈は1人、考え事をしながら窓の外を眺めている。
ーーはぁ、こんな時に彩花がいたらな、楽しかったのに。
ーー休憩時間にはいつも彩花と風香、私の3人で楽しく話をしていたな。
ーー彩花と私は趣味や興味がほとんど一緒だった。でも、話が一旦食い違うと私達はいつも必ず衝突して。最後には必ず風香が間に入って2人を止めていたかな。
ーーそれで結局、私がいつも言い負かされていた。身長では私の方が勝っているのに…。
ふと、彩花の事を思い出し懐かしさに笑みを浮かべる麗奈。
ーー彼女は私にとって数少ない友達だった。本当に信頼がおける友達だった。
ーー風香よりも色々と話し合っていたかもしれない。周囲からは私が姉で彩花が妹と思われるぐらい仲が良かった。
ーー実際にはその逆だったのだけど…。
ーーただ、彩花にも悪い癖があり…。好奇心が人よりもかなり強く…、だからその時だけは私が姉として注意していた…。
彩花、麗奈、風香の彼女達3人は容姿だけでなく、性格面でもいいバランスが取れていた。
ーーでも、…なんで彩花を急に思い出したのだろう。…もう彩花がいなくなって半年以上経ったのに。
「麗奈ちゃん、ちょっといいかなぁ」
麗奈が懐かしい思い出に浸っていると華菜が話しかけてきた。隣りには雪菜もいる。
麗奈が雪菜を見つめると彼女は華菜の後ろに隠れてしまった。
ーー…、あのね、隠れなくても。そんなに恐いのかしら、今の私って…。
華菜の後ろに隠れてしまった望月雪菜。
彼女は黒色の髪をポニテールに結び、童顔の華菜とは対照的に大人っぽく美人である。ただ麗奈と比べると全体に見劣りする。胸のサイズも彩花とほぼ同じだ。背もそこまで高くない。そして決定的に違うのは麗奈には華があるのだが 雪菜にはそれがない。少し影がありそうな美人と言った方があっているかもしれない。
この2人も一応は?麗奈の友達になっている。
…何故なら、彼女達は彩花が強引に麗奈達のグループに引き込んできたので、麗奈の中では華菜と雪菜はごく普通の会話が出来る友達という扱いになっていた。
「それで、どうかしたの華菜?」
「そんなに、冷たく聞き返さなくても。麗奈ちゃん。ほら、雪菜も怖がってるから」
ーー私はいつもこんな感じなのよ、まったく華菜は。雪菜なんて私が話す前から隠れてるじゃないの。
実際のところ麗奈は華菜が苦手であった。
誰とでも仲良く話す。いわゆる八方美人的な彼女の性格は麗奈は受け入れ難いものだった。そして、名前の語尾にちゃんをつけるのも。
…だけど、いつも隣りにいる雪菜にはちゃんづけをしていない。
その事を不思議に思った麗奈は、華菜に以前その理由を聞いた事があった。
華菜からの返事は、「雪菜はねー、幼稚園からずっと一緒の友達だからいいの。」と言っていた。
ーー友達だから。何がいいのなんだろう?
「分かったから。要件は何?早くしないと次の授業始まるわよ」
「えっーとね、雪菜が古典で分からないところがあるから教えて欲しいんだって」
「分かったわ。今は時間がないからお昼にね。でも、私が教えるより華菜が教えてあげた方がよくない。」
華菜の後ろに隠れている雪菜を見て、麗奈は思う。本当のところ、雪菜に勉強を教えるのもあまり乗り気でない。
「えへへ、実は私もあまり分かってなくて…麗奈ちゃん」
「じゃあ、村重先生に聞けばよかったのに。」
「えー、私だって初めての先生には聞くのに勇気がいるんだよー。」
「そう、それなら仕方ないわね」
麗奈が諦めると、華菜が話を突然変えてきた。
「あ、そうだ。麗奈ちゃん。
……そういえば、初めてだよねぇ」
「何が?初めてなのよ」
気落ちしていたところに華菜が意味不明な事を話すから麗奈は少しイラついていた。
「え、気づいてないの。麗奈ちゃん」
「だから、何がよ」
ーーもう、だから何がよ…。イライラするわね。
「何がって…このクラスになってからねぇ、授業中に1度も先生に指摘しなかった(文句を言わない)事、麗奈ちゃん今まで無かったでしょー。」
「え、そうだった私、毎日授業中1回は先生に指摘(文句)してた?」
「うん…、毎日。どの教科の先生にも。だからね、さっきの授業も当然するのかなぁって授業前にみんなで話してたんだけど…。
それなのに麗奈ちゃん、村重先生に挙手してお礼まで言ってたから、どこか体調でも悪いのかなってね。」
麗奈が周りを見回す。クラスメイトの視線が痛い。
「それは……そう、たまたまよ。たまたま。それに授業時間もそんなになかったでしょ。」
「そうなんだ。ざんねん。」
「何が残念なのよ。」
「だって、麗奈ちゃんが先生に文句を言ってたらさ、私がその間に入って助けるつもりだったのにぃ。」
ーー私を利用して華菜はどうするつもりなのかしら。
「助けて、村重先生の好感度でもあげようとしたのかしら。華菜」
「えぇ、違うよー。麗奈ちゃん酷い。私、そんなんじゃないから。ただ先生に少しでも、お話が出来たらなと思っただけなのにぃ」
ーー本当にそれだけならいいけど。
「あら、そう。ごめんなさい。少しいい過ぎたわ。」
「別にいいけどー。でも、麗奈ちゃんもしっかりとお礼が言えるんだね。」
明らかに仕返しのような言い方をする華菜。
「……華菜、私をなんだと思ってるのよ。失礼ね。私だって相手にお礼ぐらいするわよ」
「ごめん。麗奈ちゃん」
麗奈の怒った態度に、華菜は素直に謝った。
ここで、次の授業開始のチャイムが鳴り始める。麗奈は急いで話を進める。
「ほら、もう次の授業が始まる時間じゃないの。それで、お昼休憩でいいのかしら?華菜。」
「うん、いいよ。ご飯食べてからでいいよ。…そうだ、麗奈ちゃんも一緒にお昼食べようよ食堂でね、お願いだから。」
「嫌よ。と言いたいところだけど、分かったわ。」
「やったー。久しぶりに麗奈ちゃんとお昼だ。」
「だから、もう華菜、席に戻りなさい。片山先生教室にいるから。雪菜もそれでいい?」
華菜の後ろに隠れていた雪菜が顔を出す。
「うん。」
……
「島村、望月。もう授業時間始まってるぞ。早く席に戻りなさい」
「すいません片山先生。もう席に戻ります。」
ーーはぁ、もう疲れるんだから。華菜は毎回…。
先生に注意され、慌てて席に戻る華菜と雪菜を見て、麗奈は深いため息をついていた。
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