サキュバスな彼女
『ゆっくん、……今晩2人でゆっくりとお話ししたい事があるので色々。』
俺は今、クラスの担任になる1年A組の教室前に理事長と一緒にいた。
彩花は今の言葉を最後に俺に話さなくなった。その代わりに無言で背後から俺を抱きしめて?……ではなく締めつけている。
ーー彩花、体中が痛いのですが…それやめていただけないでしょうかね。
彩花からの返事はもちろん無い。代わりに殺気に満ちた息づかいだけが聞こえる
ーー本当に怖いんですが彩花さん。
俺はこのまま彩花に縛り殺されるのではないかと真剣に考えていた……。
「村重先生、どうかしましたか。体調、悪そうですけど」
俺の後ろから可愛らしい声が聞こえた。…もちろん彩花ではない
「心配してくれてありがとな大友。でも大丈夫だよ、少し緊張してるだけだから」
「そうですか。先生でも緊張するんだ、可愛い。」
可愛いと言う言葉で彩花からの締めつけがきつくなる。……彩花、俺真面目に死にそうなんでやめて。
そう、彩花が無言で俺を締めつけている原因は後ろの彼女にあった。
彼女の名前は大友麗奈。
理事長室で散々待たされた揚句、ようやく戻ってきた理事長の後ろにひょっこりついていたのが彼女だった。
俺は理事長の後ろにいる彼女を知っていた。どうすればいいか反応に困っていた俺を見て彼女は先に行動した。
「先日はどうもありがとうございました。先生」
…先日はありがとうございました?俺が困惑していると彼女のはっきりとした目が「私に任せなさい」と俺に訴えかけてくる
「あ、ああ。別に大した事はないから」
話の行く末が分からない俺は適当に言葉を濁した。すると2人の事が気になったのか理事長が口を開いた。
「君達は知り合いだったのか?」
返す言葉が見つからない俺に代わって麗奈が返事を返す
「はい。先日ショッピングモールで痴漢に狙われていたところを助けてもらいました。」
「助けていただいたお礼にモール内のカフェで少しお話しをしましたから、そうですよね先生。」
彼女が俺に同意を求める。話を合わせる俺
…もうこうなったら彼女に合わせるしかないな
「そう、だったね」
俺は全てを彼女に託した。
「そうだったのですか、これはどうも我が学園の生徒を助けていただいて申し訳ない」
理事長が俺に礼を述べてくる
「いえいえ、困っている女性を見捨てるわけにはいかないので、当然の事をしたまでです。」
俺は当たり障りのない返事を理事長に返した。
「そういえば私達、自己紹介がまだでしたよね先生。」
急に彼女が話題を変える。
ーーああ、確かにまだだった。肝心なこと忘れてた。
「すいません。あの時は助けてもらったのに名前を言うの忘れてしまって…先生の楽しいお話に夢中だったもので、私は1年A組の大友麗奈です。」
「そうか、俺の名前は村重昌幸。今日から大友の担任になるかな。よろしく頼むよ」
「はい、分かりました。こちらこそよろしくお願いします。……でも、偶然って凄いですね。私を助けてくれた人が学校の先生で、しかも担任だなんて…なんか運命の出会いを感じますね。村重先生。」
ーーえ、これどうやって返せばいいんだ俺?
「…運命は言い過ぎだろ大友、ただの偶然だ偶然。」
「そうですか……ちょっと残念。」
麗奈はそう言いながらも楽しそうに話を続けている。
ーーしかし、モールの彼女がまさか高校生だったとは、しかもまだ1年生。世の中はよく分からない……でも、制服を着ている彼女はまた別の魅力があるな。
…麗奈と話している内に彼女のペースに持ち込まれた俺はすっかり彩花の事を忘れてしまっていた…当然、真横からくる殺気じみた冷たい視線を浴びせられていたが…、それに気がつく余裕もない俺。
麗奈の偽トーク話しを一生懸命に合わせようとした結果…教室の前ではもうあの状況となっていた。
そのうえ俺はこの時すでに彼女、大友麗奈から主導権を完全に奪われてしまっていたらしい。ただその時は全くその事実を知る由もなく、かなり後になってから気がついたのだった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます