幽霊になった美少女

名前の知らない彼女との出会いにより帰りが遅くなってしまった昌幸は急ぎ自宅マンションへと車を走らせていた。


岐阜県の西部に位置する淡墨市、平成の大合併と呼ばれている際に三つの町と一つの村が合併してできた市。隣には県庁所在地の岐阜市がある。

この市は、日本の住みよさランキングと言うどこかの統計で一度だけトップを獲った事があり。その後も10位圏内、若しくはその付近をここ数年キープしているようだ。

先ほど俺が買い物をしていたショッピングモールも同市内にある。

以前は、このモールと同じように映画館等がある大型ショッピングモールがもう1店舗あったが今は閉店し建物も解体されていた。


ーーまあ、当たり前だろな、市といっても人口四万にも満たない市なのだから当然だろ。


コンビニも歩いてすぐの位置にあり、大型商業施設も車で5分ほど。都内に住んでいる時と比べても生活に不便さは感じられなかった。

(ただ、自動車免許と車を持っている事が大前提になるが)

そして、明日から俺が赴任する私立桜川学園も同じ市内にあるが、中心部からは少し離れている。

中心部から北に向った周りの土地より高くなった場所、山を削って開けたであろうその土地には高級住宅街があり、その中心に私立桜川学園は建っていた。


自宅であるマンションに着いた昌幸は二階の部屋前まで来ていた。

カードキーを通す

(ガチャ)

……前にあいた。


ドアをゆっくりと開ける。


『ゆっくん、遅いよ。もう!』


目の前には可愛らしい美少女が制服を着て立っていた。


『夕食の準備出来てるんだからね。』

綺麗な長めの黒髪をツインテールにし、幼さの残る顔、目元はクリっとしていて人形みたい。

まだ発育途中である胸はちょっと残念だが、全体的に小ぶりな彼女には丁度バランスがとれていた。


『何かあったんじゃないかと心配したんだから』

腰に手を当て私は怒ってますよアピールをする彼女…可愛い。


「ごめん、ごめん。ちょっと痴漢に間違われそうになって…。」


『痴漢?ヘェ〜ゆっくんもするんだそうゆうこと』

彼女の眼差しが冷たい。…というか怒ってる。


ーー何かさっきも似たような事が、デジャブか?


「してない。してない。だから勘違いだったから」


ーー俺は慌てて否定をする。怖い、怖い。


『ですよねー。ゆっくんはそんな事出来る様な人じゃないから』

『私は信じてましたよ。ね、ゆっくん』


ーーいや今、完全に怒ってたよね


『それはそうと、早く靴脱いで上がって下さい。夕食冷めちゃいますから』

そう言うと彼女はすっーとキッチンの方に消えていく、、、


キッチンに消えていった彼女の名前は立花彩花。

この部屋に半年前まで住んでいた美少女で現在女子高生。

それでいて…、半年前にこの部屋で起こった殺人事件の被害者でもあった。


キッチンに入ると彩花はサラダの盛り付けをしていた。


ーーこれには俺も、始めは驚いた…。

幽霊が見えてる人やいると言う人は多少なりともいたので彩花の姿が見えて、話せる事には驚きはしたが、一応は納得できた。

……だが、幽霊である彼女がご飯を作れる訳がない。さすがにこれは納得ができない。

もしかしてこれは何かのドッキリではと思い彼女の手を握ってみようとしたが、やはり

掴むことができなかった。

それでも納得が出来ないので理由を彼女に聞いてみたところ…。


彼女曰く、『ポルターガイスト現象が派手になったと思えば気が楽ですよ』との事だった。


なので俺はもう驚きもしない。むしろ俺には幽霊である彼女の姿もしっかり見えているのであまり気にはしていなかった。


ーーでもこの風景、他の人が見たらきっと怖がるだろうな…。


『はい、どうぞ』

盛り付けが終わったサラダがテーブルの上に並べられる。

今日のメインは彩花の得意なチーズハンバーグだった。


「今日の料理も美味しそうだね」


『えへへ、ありがとうゆっくん。明日からの学園でのお仕事を頑張って貰おうといつもより豪華に作りました。』

『あ、それでもやっぱり味見はできないので味の保証はできませんが』


「大丈夫だよ、味見してなくても彩花の料理は美味しいから」


『嬉しいです。ゆっくん』

仔犬のような眼差しで俺を見て彩花は微笑んだ。

豪華な夕食を食べ終え昌幸は食後のコーヒーを飲んでいた。料理が空になったお皿をいつも通り彩花が洗ってくれている。

彼女のお気に入りなのか、いつも同じ鼻歌を歌いながら。

最近では見慣れた光景となっていた。

そして、そんな彼女を見ている昌幸も、いつもと同じ事を考えていた。


ーーどうして、こんないい子が殺されなければならなかったのだろう。


彩花と出会ってから、一週間ほど経つ。

昌幸は彼女の笑顔を見るたびに彼女の不遇さに胸を痛めていた。

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