取り憑いた少女

12月の始め

俺はある事情から以前住んでいた都内から引っ越す事を考え故郷に帰ってきた。


故郷といってもここは俺の生まれ故郷ではない。

俺の親は二人共、俺が小学生の時に事故でなくなっている。

その後、母親の祖父母の元へ預けられ、この街にやってきた。


しかし、俺が中学生になってすぐ祖父母も亡くなり、俺は身内もなく一人となってしまう

…で、その時たまたま祖父母と交友のあった近所の人が、刑事の川上おじさんだった。


おじさんは、不憫に思った俺を、高校卒業までは俺が面倒見ると言い張り自分の家族に紹介をする。

紹介と言っても、もともと近所で顔見知り交流も以前からあったためか、おじさん家族は俺を暖かく迎えてくれた。

おじさんには子供が二人いたが、長男は社会人となり、家にはいない。

もう一人、高校二年のお姉さんがいたが、他人の俺を嫌がるどころか「急に弟ができたみたいで、嬉しいわ」と喜んでいた。


そのお姉さんは美人で他人には?親切で優しかった為、同級生や上級生の男女から人気があった。まあ、おじさんに似なくて良かった。おばさんに似て。

ただ…、それは外面だけがよかったお姉さんの偽の姿であった。

本当の性格は残念なことにおじさんに似てしまったらしく…、お姉さんの高校卒業まで俺は二年間色々とかわいがられた………。

思春期真っ盛りだった俺の純粋な心が、美人や美少女に対して…恐怖心…いや違うな、服従心的な感じを植え付けられてしまったのも

その時のおかげ?だろう。

で、そのお姉さんも高校卒業後はに東京にいってしまっていた。


故郷に帰り懐かしく、痛々しい過去のトラウマを思い出しながら俺は適当な不動産屋に入った。


「広くて、比較的新しく、安い物件で。」

と無茶な要望をしたが。意外にもちょうどいい物件があるとの事だった。


不動産屋に連れられ紹介された部屋

…綺麗でとても明るく、清潔感が溢れる部屋

そう俺の目には映った。

断わる理由がないこの部屋を気に入り俺は超格安で借りる事に決めた。


ただ借りる前に不動産屋は、

「殺人事件のあった事故物件ですが、、、」

とは言っていたのだが…。



年末の12月30日、俺は新しい新年をのんびり過ごしたかったので、引っ越しを年内にして部屋の後片付けを急いで終わらせる。

引越し作業が終わり、疲れの為か普段はあまり飲まない酒が飲みたくなりテレビを見ながら飲んでいた。


ーピンポーン

玄関のチャイムが鳴った。


ーピンポーン

もう一度鳴った。


「誰だろう?こんな時間に」


ーーこんな時間にと言っても、まだ夜の九時前だが、…おじさんかな、そんな訳ないか。まだこっちに引越した事伝えてないし、他の誰か知り合い?いや、まだ誰にも教えてないな。

ーーそれじゃ隣の住人か?隣の住人は確か昼にすれ違ったおばちゃんだった筈、うるさそうなおばちゃんだったから早速文句の一つでも言いに来たのだろう

そう思い、俺は玄関を開けた。


「すいません、助けて下さい。私、怖い人に付けられてるみたいで。」


ドアを開けた向こうに立っていたのはおばちゃんでもなく、おじさんでもなかった。

ものすごい美少女だった。その彼女はびしょ濡れだった。


ーー高校生か、この制服どこの高校だったかな?


一瞬戸惑いはしたが、酒の酔いのせいか、思考回路があまり正常に働いてないらしく、彼女をすんなり部屋にいれてしまった。

…別に変な下心があった訳でもなく。

そして、俺はその彼女にとりあえずびしょ濡れのままだと風邪をひくからとりあえずお風呂に入ってきなさいと勧めた。

……だから、本当に下心はないから。たぶん…。

少しだけためらっていたが彼女は納得し、スゥーとお風呂場に消えた。

……?今思えばあの時の彩花、脱衣所の扉を開けずに消えたような。それに、雨なんか降ってなかったよな、あの日……。

俺は彼女の為に、白いタオルとジャージを置いといた。


脱衣所の扉が開いて?

…やっぱり開いてないような気が。

そして彼女がでてきた。


「ちょっとまった。何でタオルだけ巻いてでてきたの?」

俺は焦った。美少女がタオルを一枚だけ巻いただけで風呂場から出てくるとは思っていなかった。


『え、駄目でした。ジャージじゃなかなかイメージが出来な……そうじゃなくて、湯上りで暑かったから』


「でも今、冬だから風邪ひくよ。それにその格好だと俺の目のやり場に困る。」


すると、彼女は少し照れて。


『あ、もしかして私の事、可愛いと思ってます先生?』


「え、そりゃ凄く可愛いくて、綺麗だと思うぞ。」

俺がそう言うと彼女は顔真っ赤にしていた。


ーーあれ?…俺、彼女に先生だって事はなしたか、?


少し疑問に思って考え込んでいると、いつの間にか彼女が目の前にいる。

表現があっているのか分からないが、風呂上がりの彼女は制服を着ていた時より、すごく魅惑的な体つきだった。髪をあげている為か、首のうなじが色っぽい。タオルから出ている肩は色白く透き通って見える。胸も決して大きくはないが小さくもない。体とのバランスがとれている。

目の前にいた彼女が俺の近くに寄り添う。


『ねぇ、だったら先生が、私の体を暖めてくれませんか』


突然の彼女の言葉に動揺を隠せなかったが、

別の意味で俺は次の瞬間、言葉を失う事になる。

彼女はよほど自分が言った言葉が恥ずかしかったのか、顔が真っ赤だ。

それは別に問題ない。ただ問題なのは別の場所も真っ赤になっていた事だった。


真っ白なタオルは、所々から真っ赤な模様が浮き上がり始め、最後には赤色に染められたタオルになった。

そして、タオルから出ている肩からは真っ赤な血が吹き出し、色白だった肌は見る影もなくなっていた。

彼女の顔を見返すと、彼女は精一杯の笑顔をして涙を流していた。


ーーそうか、彼女がここの住人か。かわいそうに……。

そう思いながら俺は、涙を流して気絶をしたらしかった。


朝、起きると俺は気絶したリビングのソファーで目が覚めた。毛布が掛けられ、暖房がつけられていた。小さなテーブルにコーヒーが

注がれていい香りがする。その横に、制服を着た彼女がいた。


『昨日は、すいませんでした。驚かせてしまって。気を抜くとどうしても。上手いこと見せられなくて。』


「いいよ別に。でも、そっちに連れてかれるのかと思ったよ。」

どうしてこんなに冷静に話せるのかって、それは彼女が生きている人間にしか見えないからだ。


『で、…先にいっておきますね、先生。私の名前は立花彩花と言います。そして、ご存知のとおり私は死んでます。』


「あ、やっぱり例の事件の……えっと、立花さんでいいのかな、」


『彩花でいいですよ、先生。』


「しかし、呼び捨ては…」


『幽霊なんで、別に呼び捨てでいいですよ』


「…分かった。じゃあ彩花はどうして俺の前に現われたのかな?そして高校の先生だという事も知っているのかな?」


彩花はニコッとして、

『それは、先生が私のかた、命の恩人だからです。村重昌幸先生。…それで、先生に取り憑く為に。』


「え、やっぱり俺呪い殺されるのか。彩花に」


『冗談ですよ先生。前半は大体合ってますが、後半の話しは嘘です。それに、呪い殺すって、人聞きの悪い。そんな感じに見えますか私?』


「んーとりあえず今は、見えません。」


『と・り・あ・え・ず?』


彩花の大きなな瞳が俺に冷たい視線を送ってくる。


「全然、まるで天使のようだよ。」


『ですよねー。…まあ冗談はこのくらいにしてですね、本題です。私が先生の前に現われたのは、私を殺した犯人を一緒に捜してほしいからです。私、殺された時の記憶がなくって困ってるんです。』


「…俺に殺人犯を探してくれと、俺なんかじゃ一生見つからないかもしれないよ。なんで俺?」


『それは……先生でないとダメだからです。』


「もし、俺が嫌だと言ったら、」

俺は流石に犯人を捜すのは無理だろうと、その話から逃れようとしたが……、彩花の素敵な笑顔のカウンターが先に入った。


『手伝ってくれないと、…私、

一生先生に憑きまといますよ。』


…俺には逃げるという選択肢は存在しないのであった。



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