Int.27:淡路島奪還作戦/インターミッション
――――それから、数時間後。
「カズマ、お疲れ様っ」
離発艦する各種艦載機や、その整備に追われる甲板クルーたちでごった返している、洋上に浮かぶ強襲揚陸艦ヒュウガの全通甲板上で。その端で一真が独り座り込んで疲れた身体を休めていると、近寄ってきたパイロット・スーツ姿のエマがそう言って、彼の方にチューブ飲料の容器を差し出してきた。
「ん、悪いな」
一真がそれを受け取ると、すぐ隣にちょこんと腰を落としたエマもまた、同様のチューブ飲料に口を付け始める。それを横目に見ながら、一真も封を切った陽気に口を付けた。
「……次の出撃、いつだったっけか?」
「大体、二時間ぐらい後かな」
「二時間、か……」
その頃には、きっとこの薄暗い夕暮れも終わり、完全な真っ暗闇に閉ざされた夜闇が訪れていることだろう。一真はそれを思うと、少しだけ憂鬱な気分になってしまう。
……あの後、島への侵攻の足掛かりとなる橋頭堡の確保は、拍子抜けするほどあっさりと完了してしまった。数の暴力というものは恐ろしいもので、空爆に地上や洋上からの飽和攻撃で殆どの幻魔は吹き飛んでしまい。一真たちの仕事といえば、それらで撃ち漏らした連中を効率的に掃除していくことぐらいだった。
アレだけ気合いを入れて突撃を敢行したのに、結果がそれだったから。正直言って、一真にしてみれば肩透かしを食らった気分だった。決して悪いことではないのだが、思っていたよりも呆気なかったというか、何というか……。
まして、今まで経験してきた戦いの殆どが、小規模で大規模な敵を迎え撃つシチュエーションだったことが大きいのかも知れない。一真にとって、これほど大規模な作戦というものは初めての経験なのだ。自分たちTAMS部隊だけじゃない、総合的な火力で決着を付ける大規模戦闘というものを味わうのは、初めてのことだったのだ。
「ここまでは順調。問題は次からだね……」
そんなことを考える一真の横で、エマが小さく呟いていた。らしくもなく神妙一色な面持ちで、ポツリと独り言でも呟くかのように。
一真はそんなエマの呟いた言葉に「だな」と相槌を打つ。
「ガウスライフルもあるし、米軍やら他のTAMS機動中隊も参加するって話だ。それに、俺たちの上に空軍の一個飛行隊が支援に付くって話も」
「でも、困難なことには変わりない」
「そうだな……」と、一真もまた神妙な表情で、エマに対して頷き返した。
そうして一真までもが神妙な顔になれば、エマはフッと強張っていた表情を緩め。横顔でほんの少しだけ微笑めば「……まあ」と呟いて、更なる言葉を続ける。
「何とかなるさ、僕たちなら。どうにだってなるよ、僕とカズマなら」
彼女の紡ぎ出した、その言葉は。ある意味でとてつもなく無責任で、そして根拠の一切無い言葉だった。
だが、それでも良かった。例え気休めでも、彼女の口からそう言ってくれるだけで。それだけで、一真は張り詰めていた肩の力が、少しだけ抜けていくような気になっていた。
そう、気休めだって構わないのだ。どうせ、この先のコトは誰にも分からない。未来のことなんて、誰にも分からないのだ。
ならばこそ、気休めでも良いから安心が欲しかった。震える心を、強張る肩を。少しでも和らげて、その上で次の正念場に望みたかったから。
故に、エマの言った気休めのような言葉は、しかし一真にとっては何者にも代えがたい安堵を与えてくれる言葉でもあった。疲れた身体が、次の正念場に臨み、緊張と微かな恐怖感に苛まれていた身体から、スッと余計な力が抜け。自然体に戻っていくような、そんな気がしていた。
「……だな」
だからこそ、一真は小さな笑顔とともに、隣り合う彼女に向かってそんな言葉を返してやる。短いながらも、確かな同意の意が込められた、そんな言葉を。
「俺とエマなら、きっと大丈夫だ」
「そうそう、それで良いんだ♪ 変に心配したって仕方ないことだからね。物事、ある程度はポジティヴに考えた方が良いと……僕は、思うんだ」
ニコッと柔な微笑みを返してくれて、エマが言った。お互いに「大丈夫だ」と、自分たち自身に言い聞かせるかのように。
「……大丈夫だよ、僕たちならきっと」
夜は、段々と更けていく。厚い暗雲の向こうに、確かにあったはずの太陽は殆どが西方に没し。夜との境界線が曖昧になれば、段々と夜が訪れてくる。
完全に夜闇が訪れたとき、彼女たちは再び戦地に赴くのだろう。今までとは、直前とは比べものにならないほどの煉獄に。本気で
故に、少女は憂う。憂うが、しかし同時に願ってもいた。全員が一人も欠けずに、また此処へ帰って来られるように。またあの場所へ、還れるように。また二人で、あの場所に帰れるようにと…………。
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