Int.26:淡路島奪還作戦・Phase-1/Chalie don't surf.

『ヴァイパーズ・ネスト、全機の目標地点到達を確認しました。各機はそのまま前線の押し上げを。ハンター2はその援護と撃ち漏らしの処理をお願いします』

 着地、地響きを伴う激しい衝撃と縦揺れがコクピットと、そしてシートに収まる一真の身体を揺さぶる。純白のタイプF改が機体スラスタで逆噴射を仕掛けながら、砂埃を巻き上げながら、先行するブレイズたちに続き淡路島の海岸線へ着地したのだった。

 サラの指示がデータリンク通信で聞こえる中、着地に成功した一真は背中のフライト・ユニット、その幾分軽くなった翼を下方へ九十度折り畳む。そうしている間に周囲には、エマの≪シュペール・ミラージュ≫を初めとする後続のTAMSが次々と着陸し始めている。後方を低空で飛ぶ慧たちハンター2小隊の機銃掃射のお陰で、周囲に幻魔の影は少なく。アーチャーなどから多少の応戦を受けつつも、A-311とブレイズは比較的安全に海岸線へ着地することが出来ていた。

『ヴァイパー前衛各機、私に続いてください。前線を押し上げます』

 錦戸の言葉に一真は「ヴァイパー02、了解」と短く応答し。両手に握る93式突撃機関砲と88式突撃散弾砲、それぞれの砲口を目の前へと向ける。

『あーあ、いつもの狙撃砲持ってきたかったぜ』

『無理なものは仕方ないでしょうに。それに、大物を吹き飛ばしたいんなら、爆撃要請すればすぐにミサイルなり何なりで吹っ飛ばしてくれる。考えようによってはいつもより楽かもでしょう、アキラ?』

『違いねえ、ステラちゃんの言う通りだ』

 ぼやく白井の≪新月≫は、いつものようにドデカい81式140mm狙撃滑腔砲を持っていなかった。あんなデカく嵩張る物をフライト・ユニットで飛ぶ中で持ってくるワケにもいかない為、今の白井機は代わりに、93A式20mm狙撃機関砲を両手マニピュレータに携えていた。重量バランスが悪くなるのを承知で、93B式用の大容量ガンナー・マガジンを付けた格好で、だ。

『まあいいわ。アキラ、アンタはアタシの後ろに。アタシが撃ち漏らした奴、仕留め損ねた奴。全部拾いきれなかったら、承知しないわよ?』

 ステラの真っ赤なFSA-15Eストライク・ヴァンガードが、白井の新月の前にズイッと出てくる。白井は『はいはい』と小さく溜息をつけば、

『俺は何処まで行っても、女の子にゃ尻に敷かれる運命なのね』

 なんて風な冗談をひとりごちつつ、両手の93A式狙撃機関砲を≪新月≫に構えさせた。

『細かいところは僕がフォローする。カズマ、君は前だけ見て突っ切るんだ。君の突破力に任せた』

 と、その頃。一真のタイプF改、そのすぐ後ろに≪シュペール・ミラージュ≫を着かせながらでエマが言う。

 それに一真は「了解だ、エマ。預けたぜ」と微笑しながら返し。そしてブレイズの四機がスラスタを吹かすタイミングと同時に、一真もまたスロットル・ペダルを奥まで一気に踏み込んだ。

「っ……!!」

 五臓六腑を見えない手で鷲づかみにされたような、そんな強烈な加速Gが一真の身体を襲う。試製18式ターボ・スラスタの異次元めいた加速度、慣れたといえどもかなりクるものがある。対Gスーツを兼ねたパイロット・スーツを着ていても尚、肋骨がミシミシと軋むようなこの加速度に耐えられる人間は、決して多くないだろう。

「ま、慣れちまえば可愛いもんさね……!」

 強がりみたいな独り言を口にしつつ、漆黒をしたブレイズの四機、そして錦戸とともに先陣を切り、一真は態勢を立て直しつつあった幻魔集団に向け、突撃を敢行していく。ターボ・スラスタの常識外れな加速力と、それにフライト・ユニットのターボジェット・エンジンの推力まで併用しつつ。その速度に追いつける者は誰一人として居らず、ブレイズを追い抜いて先陣を切る白い機影は、まるで閃光のようだった。

『カズマ、君の背中は僕が預かる!』

『二人だけに良い格好させないわよっ! ――アキラ、着いてきなさいな!』

『分かってるって、ステラちゃん! ったく忙しい忙しい、突撃は俺の趣味じゃないってえのにさ……!』

 それに続き、エマの≪シュペール・ミラージュ≫とステラのFSA-15Eストライク・ヴァンガード、少し遅れて白井の≪新月≫も後を追うようにスラスタを吹かし、突撃を敢行する。

 青白い軌跡を残し突き抜けていく純白の機影と、ブレイズの四機。それから少し遅れて錦戸と、そしてエマたち残りのA-311小隊が続いていく。

「此処で踏ん張れなきゃあ、全部がおじゃんだ……!」

 今、この初戦を制し。無事に陸戦部隊を上陸させ、淡路奪還の足掛かりたる橋頭堡を確保出来るか否か。この作戦の行く末、いや長きに渡る戦いそのものの行く末が、今このときに懸かっているのだ。

 それを思えば、一真は操縦桿をまた強く握り締めてしまう。襲い掛かる暴力的な加速Gに身体を軋ませ、耐えるように歯を食い縛りながら。しかし双眸は真っ直ぐに目の前を、加速度的に迫ってくる敵の群れ、幻魔の大集団をシームレス・モニタ越しに見据えていた。

「俺が奴らの注意を引いてやろうっての! ――ヴァイパー02、交戦エンゲージ!」

 右手の突撃機関砲、左手の突撃散弾砲がほぼ同時に火を噴く。それと同時に白い機影、その真っ赤な双眸が獰猛な唸り声を上げた。まるで一真の意志に、湧き上がる闘志と生存本能に呼応するかのように。殺人的な加速度に身を任せながら、その紅い双眸を低く低く唸らせる。

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