Int.13:託されし切り札、新次元の火矢

「……何でアンタらまで付いて来てるんだよ、大尉」

「良いじゃないか、弥勒寺くん。僕らだって例の新兵器のこと、気になるんだ。別に付いて来たからって、減るものでもあるまい?」

「そうだよーカズマくんっ。あ、ちなみに私は雅人の付き添いって感じで」

「省吾お兄さんも、右に同じよん」

「……面倒だわ、私はノーコメント」

「何なんだよ、ホントに……」

 はぁ、と溜息をつく一真は、エマと瀬那が自分にも関わりがあることをそんな神妙な雰囲気で話していることもいざ知らず。エマに瀬那が訓練生寮の屋上へ連れて来られたのとほぼ同じ頃には、そんな風な阿呆っぽい言葉を周りの連中と交わしつつ、校舎の外に出てTAMS格納庫の方に歩いて向かっている最中だった。

 そんな一真の周りを囲んでいるのは、雅人以下≪ライトニング・ブレイズ≫の四人だ。何故かサラを除いたほぼ全員が付いて来ているのは、様々な事情があるからか。雅人の付き添いという雨宮愛美あめみや まなみと、「何だか面白そうだから」という適当な理由で付いて来た桐生省吾きりゅう しょうご。そしてこんな風なクールを装いつつも、何だかんだで例の新兵器・ガウスライフルに興味があったらしいクレア。そして中隊長の雅人といった具合だ。

「まーまーカズマちゃん、そんな連れないこと言わずにさぁ」

 溜息をつく一真に、にひひと笑う省吾が肩なんか掛けつつ絡んでくる。その笑顔は相変わらず人懐っこいフレンドリーな感じではあるが、くりんとパーマっぽい茶髪のロン毛が一真の顔に掛かってどうにも鬱陶しい。ブライアン・メイっぽい感じのパーマ風なロン毛は確かに省吾に似合ってはいるものの、こうも近くで絡まれると、絡まれる側としては鬱陶しいことこの上なかった。

「たまには俺たちと遊んでくれたってさ、良いじゃないのよっ。そーれーに、あんだけカズマちゃんの特訓に付き合ってやってることだしさー? たまには俺たちに付き合ってくれても、バチは当たらないってお兄さん思うぜー?」

「あははっ、今回ばかりは私も省吾と同意見かなっ」

「だろー? だろー? 愛美ちゃんもこう言ってることだしさ、いい加減カズマちゃんも観念しなって」

「勘弁してくれ……」

 とまあ、こんな具合にブレイズの面々(主に省吾)から執拗に絡まれつつ、一真はそれに超疲れ気味というか呆れ気味で応対しつつ。そんなこんなで雅人・愛美・省吾・クレアの四人とともに、士官学校の敷地の隅の方にある大きな半地下構造の格納庫に辿り着こうとしていた。





「――――クリス、居るか?」

 ブレイズの四人とともに辿り着いた先、TAMS格納庫は出撃の機会が暫くなかったから、忙しくもなく何処か暇そうで。しかしそれでも幾らかの整備兵たちが、主にオレンジ色の訓練機に取り掛かり、日常点検に勤しんでいるところだった。

 そこに入ってすぐ、一真が呼びかける。そうすれば少しの間を置いた後、格納庫の奥から一風変わった風貌のメカマンがこっちに駆け込んでくるのが五人の視界に映った。ガタイの良い身体をドスンドスンと地響きでも立ってるんじゃないかってぐらいに走らせ、しかしその仕草は何処か女っぽくて。そんな奇妙奇天烈極まりない立ち振る舞いのメカマンなど、ブレイズは元より一真だって一人しか心当たりがない。

「あらあら、カズマちゃんに雅人ちゃん、それに皆までお揃いでぇん! 珍しいのね、今日は一体何の御用かしらぁ?」

 …………駆け寄ってきたメカマンといえば、そんな仕草に見合ったような、しかしゴツい外観にはあまりに似合わなさすぎる女言葉でそう、一真とブレイズの四人をニコニコと笑顔で出迎え、歓迎してくれる。

 クリスだ。確か本名は三井なんとかとかいったはずだが、本人は異様なまでにそっちで呼ばれることを嫌っているから、専ら(彼……いや、彼女? どちらでもいいが、とにかく曰く"ソウル・ネーム"らしい)クリスの方の名前で皆は呼ぶ。一真も右に倣えでそう呼んでいる。というか、そっちで呼ばないと多分反応してくれないだろう。……いや、試したことはないのだが。

 とはいえ、こんな奇っ怪なクリスでも、実際はかなり腕の立つ優秀なメカマンだ。今は雅人たちの特殊部隊≪ライトニング・ブレイズ≫のメカニック・チーフ。そして嘗てはここのチーフである三島のおやっさんとともに、西條たち伝説の機動中隊≪ブレイド・ダンサーズ≫のメカマンとして世界各地を転戦していたほどだ。

「今日は、ちょっと訊きたいことがあってね。西條教官から話なりデータなり受け取っていると思うけれど、例のガウスライフルについて、クリスに色々と教えて貰おうと思ってさ」

 そんなクリスに、雅人が普段の好青年っぽい感じの柔らかい笑顔を向けつつ要件を告げる。そうすればクリスは「あー、もっちろん聞いてるわよぉん」とご機嫌そうに反応して、早速と言わんばかりに例の新兵器・ガウスライフルに関しての説明を始めた。

「ちょっと待って頂戴よ。えーと……あったあった、これよこれ。

 ……これが、今度の作戦で皆に渡される技研特製の試作兵装、試製15式ガウスライフルよん」

 一旦奥に引っ込み、すぐに戻ってきたクリスがクリップボードに挟まれた幾らかの資料を一真と、そしてブレイズの四人に見せてくれる。そこに記されていたのは技研――国防軍・技術研究本部のエンブレムと、そして"試製15式ガウスライフル"という文字。加えて、先程のブリーフィングで見せられたあの奇妙な形をしたT.A.M.S用の手持ち兵装の写真だった。

「詳しい原理とかを色々説明し始めると、夜が明けるぐらいの勢いだからね。省吾ちゃんレベルでも分かるように、適当に掻い摘まんでサラッと教えてあげるわね」

「ちょーっと待ってよクリス、俺レベルでもってどういうことなのさ」

「さーて? 他意は無いわよー?」

 何となく不満げな顔の省吾を適当にあしらった後、クリスは「こほん」と顔に似合わぬ可愛らしい咳払いをしてから、そのガウスライフルの説明に取り掛かった。

「皆、コイルガンって知ってるかしら?」

「コイルガン……?」

 聞き覚えのあるような、ないような。電磁投射砲の一種の西條は言っていたから、やはり電気関係のことだろうか。レールガンとは違うとも言っていたから、電磁誘導、左手の法則を使うアレとはまた原理と仕組みが異なるのはほぼ間違いない。コイルと言っているからには、やはりあの螺旋状に巻いたコイルを使うのだろうか。

「簡単に言えば、砲身の周りにぐるぐると導線をコイル状に巻き付けてあるのよ。それに電気を流して、その時に発生した電磁力で弾体を引き込んで加速、発射するって感じなのよ」

「レールガンは何となく分かる、前に何かの軍資料で読んだ」と、雅人。「しかし、アレとそれとでは何が違うんだ?」

「仕組み的にはまるで別物なんだけれど、省吾ちゃんにも分かる程度で言うと、レールガンは書いて字のまま二本のレールを使って電磁誘導で加速。対してコイルガンは、さっき言った通り砲身の周りに巻き付けたコイルで、弾体を物凄い速さに加速させるのよ。……まあ、どのみちいつかはレールガンに取って代わられるっぽい、過渡的なモノだけれどねぇ」

 ウィンクなんか織り交ぜつつクリスが的確に答えると、腕を組む雅人は興味深げにうんうんと頷いている。その横で省吾が「だから、俺レベルって……」と拗ねているのは、まあ今は気にしないことにしよう。

「で、この試製15式は日米共同開発の代物。こっちは技研の方で作った奴よ。まだまだ試作段階の兵器だけれど、威力の方は保証するわ」

「……どうやら、撃つには電力が要るみたいだけれど」

 と、今度質問を投げ掛けるのは、意外なことに今までだんまりを決め込んでいたクレアだった。彼女もまた腕組みをしながら、相変わらずの氷みたいな無表情を貫きつつクリスに問いかけている。

 そんなクレアの問いに、クリスは「そこは問題ないわ」と、また軽くウィンクなんか飛ばしてみせる。

「プラズマビームライフルって、多分雅人ちゃんなら知ってるわよね?」

「ああ」頷く雅人。「国連宇宙軍が使ってる、エネルギー兵器だったな。確か、大気中じゃ使いものにならないっていう」

 それに関しては、一真も知り得ていることだった。

 国連宇宙軍――現状、ロシアや中華連邦など国連軍協定に批准しなかった一部の旧東側諸国は除き、宇宙空間、主に衛星軌道上の防衛を担当している唯一の軍組織だ。一応は宇宙に領土闘争を持ち込まないという目的で、主に合衆国を初めとした国家の支援を受けつつ存在している。

 その国連宇宙軍が宇宙用の兵装として配備しているのが、先にクリスが話題に出したプラズマビームライフルだ。高純度のプラズマを絞り込み、ビーム状にして投射する超高出力の熱エネルギー兵器。既存の火薬兵器のような激しい反動がなく、宇宙の0G環境下で姿勢制御の無駄が省けることから、宇宙軍T.A.M.Sの主力装備になっている兵器だ。尤も、プラズマビームの大気中に於ける拡散率と冷却問題が解決出来ていないから、地上では運用不可能ではあるが……。

「そう、それのこと。最新のジェネラル・エレクトロニクス製MPBR-22はね、弾倉みたいな形をしたバッテリー・パックを別でライフルに装着しているのよ」

「あ、分かった!」

 クリスがそこまで言ったところで、元気よく手なんか挙げるのは愛美だ。

「それを応用したってことでしょ、クリスっ!」

「ぴんぽーん、愛美ちゃん大正解。ご褒美に飴ちゃんなんかあげちゃお」

「わーい、えへへー」

 クリスから正解のご褒美で受け取った飴玉を、ニコニコと太陽みたいな笑顔で喜びながら愛美が舐める傍ら。クリスはこほんと今一度の咳払いをした後で、話を戻していく。

「まあ、愛美ちゃんが言ってくれたように。弾体を収めた弾倉とは別にバッテリー・パックも設けることで、試製15式ガウスライフルはさっきクレアちゃんが言った、電力の方の問題を解決しているのよ」

「TAMSの燃料電池も、無限じゃないからな」と、雅人が感心した風に言う。「機体のバッテリーを不用意に消費しないのなら、俺としては電磁兵器だろうが大歓迎だ」

「……私も、雅人に同意するわ」

 続けてクレアがそんな具合に、フッとクールな笑みとともに同意を示した後で。しかしクリスは「でもねぇ」と顎下に人差し指を当てながら首を傾げ、

「一つだけ、欠点があるのよ」

「欠点?」

 一真が訊き返せば、クリスは「ええ」と頷く。

「貫通力に関しては、話にあったと思うけど凄まじいの一言だわ。狙撃滑腔砲の140mmAPFSDSの比じゃないぐらい、それこそデストロイヤーにだって対抗出来るわ。

 ……でもね、狙撃滑腔砲や戦車砲みたいに、弾の種類は選べないのよ。弾体は貫通特化の一本槍だけ。だから、そういう意味だと使い勝手はあんまりよくないのかもしれないわぁ」

 これに関しては、主に白井が聞けば嫌な顔をするだろうな、とクリスの言葉を聞いた一真は直感的に思っていた。

 状況に応じて弾頭の種類を選べないのは、確かに欠点といえば欠点だろう。白井の得意とする81式140mm狙撃滑腔砲ならば、先に話に出た徹甲弾のAPFSDSの他に、多目的榴弾のHEAT-MP、通常榴弾のHEなんかも選べる。それに一真がお気に入りの突撃散弾砲だって、通常散弾や各種スラッグ弾が選べ、使い分けられるのだ。

 そのことを思えば、貫通特化のガウスライフルは、ある観点から見れば使いづらくも思えてしまう。ハーミット種やデストロイヤー種なんかの硬い、謂わば大物狩りには今まで以上に強気で立ち回れるかもしれないが、しかし普通の……例えばグラップルやアーチャーなんかの雑魚に対しては、寧ろその過剰気味な貫通力が仇となってしまうかもしれない。いや、ひょっとすれば一撃で何体も貫通して、奥の奥まで串刺しに出来るやもしれぬが……。

 どちらにしろ、癖の多そうな試作兵装なのは間違いなかった。そのせいだろうか。一真の後ろで雅人やクレアらが、何だか微妙そうにうーんと唸っているのは。

「まあ、ザッと説明すればこんなところね。また近くなったら仕様書は皆に渡しておくし、何なら何日か待って貰えれば、シミュレータの方にもガウスライフルのデータは追加しておくわぁ。気になるようなら、そっちでも確認して頂戴よん」

「助かるよ、クリス」

 と、雅人がそんな風にクリスへ礼を言い。それにクリスが「良いのよぉ、お礼なんてぇん」と相変わらずのくねくねした仕草で満足げに返していた、そんなタイミングだった。一真たちの背後から、別の誰かの足音が近づいてきたのは。

「――――やーっぱり此処に居たのね。カズマ、用が済んだらちょっとアタシに付き合って貰うわよ」

 振り向けば、そこに立っていたのは180cm越えと長身の少女だった。燃え盛る焔のように真っ赤なツーサイドアップの尾を揺らす彼女は、腕組みなんかするせいでただでさえダイナマイト級の連山が更に強調されていて。金色の双眸から相変わらずの強気な視線を自分に向けてくる、そんな見知った相手なんて。一真に思い当たるのは、唯の一人しか居ない。

「……ステラ?」

 唐突に現れた、思えば久方振りに言葉を交わす彼女――――ステラ・レーヴェンスを目の前にして、振り返る一真は首を傾げ疑問符を浮かべることしか出来ないでいた。

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