Int.57:Fの鼓動/最終評価試験、激突する金と白銀の狼たち②

『敵機、まっすぐそちらに接近して来ています。……やっぱり、捉えられちゃいましたね』

「多分、瀬那の機体のセンサーで補足されちゃったかな。でもその辺りは僕も予測済みだ、問題ない。サポートの方は任せたよ、美弥」

『分かりましたっ!』

 そんな会話を戦術管制担当の美弥と交わしながら、エマはスロットル・ペダルを踏み込み≪シュペール・ミラージュ≫を急上昇。市街地フィールドの中でも一際高いビルの屋上まで上昇すると、スロットルを戻しそこに着地。屋上の際で膝立ちになると、眼下に広がる市街地フィールドを頭部ユニットの双眼式カメラ・アイ越しに見下ろす。

「さてと、向こうの布陣はどんな具合かな……?」

 ひとりごちながら、エマは≪シュペール・ミラージュ≫の索敵センサーをフル稼働させて敵機の位置を捜し始める。その間は無用な動きをせず、出来る限りセンサーに悟られぬように心掛けておく。尤も、試作二号機の強化された索敵センサーが相手では、これも何処まで通用するか微妙なところだが……。

「……ふふっ、見つけたよ」

 一機はすぐに場所を見つけ出した。この速さとド直球な進み方、間違いなく一真の機体だろうとエマは悟る。

「瀬那の方は……っと、もしかしてこの反応かな?」

 もう一機の方は中々発見できなかったものの、しかしそれらしい動体反応を≪シュペール・ミラージュ≫のセンサーがキャッチした。本当に微妙な反応だが、恐らくは徒歩での移動だろうと推測する。スラスタを吹かしていないのなら、ここまで静かな反応なのも納得出来るというものだ。基本的にTAMSという機動兵器は燃料電池で動いているから、立てる騒音は図体の割に少ないのだ。

「美弥、それらしき反応は掴んだよ。そっちでも見えてるよね?」

『あ、はいっ』

「どう思う?」

『……接近して来ている方が一真さん、上手く隠れている方が瀬那ちゃんだと思います。きっとサラさんなら、一真さんを囮に使うはず』

「僕も同意見だ」通信越しの美弥に、エマが小さく微笑み返す。「だとして、君ならどう仕掛ける?」

『一真さんを上手くあしらって、その場を離脱。真っ先に瀬那ちゃんを狙いますね。あの索敵力は、正直厄介すぎます』

「その点に関しても、僕も同意見だ。……案外、僕と美弥って気が合うのかもしれないね」

『あはは、かもしれませんねっ。

 ――――とりあえず、私の方からはそういう方法を提案します。最終決定は、経験豊富なエマちゃんに一任しますけれど』

「良いさ、美弥に従うよ。僕も異存はないし、それにCPオフィサーは美弥、他でもない君なんだ。君の言うことなら、僕は概ね従うつもりだ」

 微笑みとともに言いながら、その間にもエマは正面にあるコントロール・パネルの液晶モニタに指を触れていた。とりあえず、今の内に装備の詳細と、そして推進剤の残量なんかを確認しておく。

 今、ビルの屋上で膝立ちになって息を潜める≪シュペール・ミラージュ≫の右手には93B式20mm支援重機関砲が一挺と、左の背部マウントにはそれ用の予備弾倉になる多弾数ガンナー・マガジンが一つ。加えて右のマウントと左腰ハードポイントに88式突撃散弾砲が二挺、右腰には73式対艦刀を一本だけ吊している。散弾砲は右の背部マウントの方にダブルオー・キャニスター通常散弾、左腰の方にはHEAT-MPスラッグ弾のカートリッジを装填してあった。

(牽制し、攪乱し。そして瀬那を潰すには十分だね)

 そして、最後に両肩に装備したかなり小振りな三連装ランチャーの表示を見て、エマはふふっと微かな笑みを湛える。二人と、そして星宮・サラ・ミューアの算段を出し抜くだけの自信を秘めながら。

「性分的に、僕はどうしても手加減ってものが苦手なんだ。二人とも、悪く思わないで欲しいな」

 ニヤリと不敵に笑い、エマはパイロット・スーツのグローブで包まれたほっそりと華奢な両手で操縦桿を握り直す。そして、

『――――待たせたなァッ!!!』

 青白い炎と尾を引く白煙、そして凄まじい速度で流星のように飛び上がる機影をエマと≪シュペール・ミラージュ≫が捉え。追うように見上げると、そこには蒼穹を照らす太陽を背に、恐ろしいほどの勢いでこちらへと飛び込んで来る純白の狼――――彼の駆るタイプF改・試作一号機の姿があった。

「遅かったじゃないか、カズマ!」

 歓喜の笑みとともに、エマは立ち上がらせた≪シュペール・ミラージュ≫が銃把を握る93B式重機関砲の砲口で空を仰ぎ、閃光のような勢いで飛び込んで来る一真と相対する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る