Int.56:Fの鼓動/最終評価試験、激突する金と白銀の狼たち①

『02、行動を開始してください。03は現刻より二号機のセンサーで索敵を開始。十秒後に02を追従してください』

「ヴァイパー02、了解だッ!」

『03、心得た。……広域スキャニング・モード起動。彼奴あやつの位置はこちらで追跡する。一真、其方にもデータリンクで確認できる筈だ』

 一真の白い≪閃電≫・タイプF改/試作一号機が大地を蹴り、背中の試製18式ターボ・スラスタを吹かし超低空で疾走。その背後では瀬那の藍色をした試作二号機が立ち尽くしたまま、追加された高感度センサーをフル稼働させ、遠く離れた場所で行動を開始したエマの≪シュペール・ミラージュ≫を追う。

『……む、エマめ。随分とすばしっこい』

 瀬那の言葉の意味は、彼女の機体が収拾する情報がデータリンクで共有されている為、一真にも理解出来る。確かに彼女の言う通り、二号機が捉えた動体反応の動きはかなり早く、高低差のあるところを縦横無尽に駆け巡っている。この閉鎖空間でこれだけの機動、従来のTAMSの索敵センサーでは確実に捉えきれない。エマもそれを理解しているからこその行動だろう。

 だが、彼女の知識と技能を、技術の粋を尽くした二号機の最新鋭センサーが打ち破った。試作機の面目躍如といったところだろう。後はこの情報を元に、一真が何処まで戦えるか、だ。

(勝敗は、俺がどこまでエマを抑えられるかで決まる)

 一真自身も自覚していることだった。彼の試作一号機が攻撃特化の改修であるのに対し、瀬那の二号機は良くも悪くも後方支援寄りに改修されている。瀬那のパイロットとしての技量自体は一真を上回っているが、しかし相手が悪すぎる。普段の彼女と接していると忘れがちだが、エマはあれでもエース・パイロットに数えられる一人なのだ。この世の地獄と揶揄される欧州戦線で戦い続け、生き残り続けてきた彼女の実力、伊達ではない。

 ――――自分が抜かれれば、瀬那に勝ち目は薄い。

 奢りでもなく、誰の眼から見ても明らかなことだ。恐らくはサラもそれを見越して、一真に先行させたのだろう。瀬那機を後方に陣取らせ、シールド持ちで頑丈な一真機を盾代わりにしておけば効率的に戦える。正しい判断だ、と一真はサラの判断に内心で感心していた。

「……散弾砲と刀一本、何処までエマと渡り合える?」

 今ある兵装といえば、88式75mm突撃散弾砲が一挺で、装填分も含めダブルオー・キャニスター通常散弾のカートリッジが三つ、APFSDSスラッグ弾が一つだ。加えて訓練用に入れ替えた試製17式対艦刀に、後は固定兵装のアーム・ブレードとアーム・グレネイド。後は武器でもないが、左腕に装着したシールドぐらいか。

 十分なように思えるが、しかし相手があのエマ・アジャーニであることを鑑みれば、これでも心許なく感じてしまう。一度きりではあるものの、実際に彼女と刃を交えた一真がそう感じているのだ。まず間違いなく、この程度の量じゃ間に合わない。せめて後三つは手持ち兵装が欲しいというのが本音だ。

 ――――だが、無い物ねだりをしても仕方がない。

 それに、こちらには性能差のアドヴァンテージがある。タイプF改・試作一号機と≪シュペール・ミラージュ≫、単純なスペックではほんの僅かに過ぎないが、タイプF改の方が上回っているだろう。機動性の面でも背中のターボ・スラスタのお陰でかなり素早くはなっているし、プロペラント・タンクがあるから燃料問題も解決している。

(勝ち目は、十分にある)

 それらを鑑み、一真は勝てると最終的な判断を下した。更にここに瀬那の援護が加われば、勝ち目は更に濃厚になってくるだろう。問題は、エマがどこまで一真の予想を超えた戦い方をしてくるか、だ。

『……03、行動開始。02はそのまま動体反応を追い込んで』

『承知した』

「02了解! 言われんでも、エマの相手は俺の役目だ!」

 コントロール・パネルのモニタに表示される瀬那機の光点が動き出すのをチラリと見ながら、一真は機体背部のターボ・スラスタ、その噴射口の向きを下方へと逸らし、上昇を開始。叩き付けるように襲い掛かってくる凄まじい加速度を歯を食い縛って耐えながら、瀬那機が捉えたエマの動体反応へと上空より奇襲を敢行せんと、太陽を背に一気に上空へと飛び上がった。

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