Int.30:亡霊都市、若き戦士たちの死闘①

『シーカー・オープン! ――――ヴァイパー09、FOX2フォックス・ツーッ!!』

『ヴァイパー07、FOX2フォックス・ツー……!!』

 接敵と同時にまどかが叫び、霧香が視線を尖らせれば。小隊の後方に控えた彼女らの≪叢雲≫と≪新月≫、ダークグレーの二機が肩に背負う90式ミサイル・ランチャーから大量の対地ミサイルが物凄い白煙の尾を引きながら飛び出していく。

 その数、合わせて二四発。全ての中身は、大量の小爆弾が収まった広域殲滅用のクラスター弾頭。それが二四発といえば、外皮の柔らかいグラップルやソルジャーに対しての掃討力は、想像を遙かに絶するものだ。

 クラスター弾頭を搭載した対地ミサイル群は、ある一定の高度まで尻のロケット・モーターを吹かし飛翔した後、小さな補助翼を使って向きを下方へと向け。そのまま、重力に従い眼下の標的群へと落ちていく。先頭部分の赤外線画像シーカーで各々の目標を捉えながら、自動で向きを修正しつつ。

『対空砲火、開始! ――――当たってくれよ……!』

 その対地ミサイルが迫る敵集団の、その比較的傍の低空でホヴァリングをし観測を続けるスカウト1の声が、無線越しに聞こえてくれば。それと多少の前後をしつつ、敵の群れの中から上空へ向け、苛烈な対空迎撃行動が始まった。

 "アーチャー"のマシーン・ガン器官から生体弾が撃ち出され、地を這う小振りな白い"ソルジャー・アンチエアー"が天を仰ぎ、レーザー光線を照射する。

 叩き付けるみたいに降るスコールのような猛烈な勢いで撃ち出されたそれらは、その多くがミサイルからは外れていた。だが、一部は命中してしまい。霧香機とまどか機から撃ち出された二四発の内、そのおおよそ半分がクラスター子弾をバラ撒く前に、空中で爆発四散してしまう。

 だが――――それでも、半分は生きていた。

 生き残ったミサイルの弾殻が空中で外れ、そこからバラバラと膨大な量の子爆弾が散布され始める。それは、遠くから見ていれば、まるでひらひらと宙を舞う紙吹雪のようで。しかし一瞬は美しく見えたそれらも、一度何かに触れてしまえば、途端に殺意の塊へと変貌する。

 大爆発――――。

 そうとしか言い表せないような爆炎と衝撃波が、まどかたちの視界を覆い。そして爆風の余波は、前衛に立つ一真たちにまで襲い掛かってきた。

「くっ……!」

 断続的に立ち上る火柱と、それに伴う凄まじい爆風。ビル風のように建物同士の合間を縫って吹き付けてくる物凄い突風に、一真は≪閃電≫・タイプFを全力で踏ん張らせながらそれに耐える。

『やれやれ、これじゃあ僕らが勝ったとしても、街はもうダメになっちゃうだろうね……!』

 そうすれば、少し後方で中衛遊撃のポジションに着くエマも、≪シュペール・ミラージュ≫を踏ん張らせながらそう、少しばかり苦い顔でひとりごちる。それに瀬那も『で、あるな』と返せば、

『勝つも地獄、負けるも地獄……。全く、いくさというのは虚しいばかりよの』

 いつもの凛とした顔を浮かべながら、しかし少しばかり顔を苦くもしながらでそんなことを口走る。彼女もまた、一真機の傍で藍色の≪閃電≫・タイプFに爆風を浴びながら、それを踏ん張らせていた。

『スカウト1、効果確認を急げ!』

 そうしていれば、データリンク通信越しに聞こえるのは西條の怒号だ。それにスカウト1は『……了解!』と神妙な声音で頷くと、

『――――おおよそ、三分の一は削れている! ……クソッ、市街地の入り組んだ地形が仇になったか……!』

 次にスカウト1の口から出てきたのは、そんな口惜しむような苦々しい声だった。

(アレだけの爆撃で、たった三分の一しか削れてないのか……)

 とても、信じたくない話だと一真は思っていた。これだけの爆発、地表に到達して弾けたクラスターの子爆弾の数は尋常じゃないだろう。しかし、スカウト1はそれでも全体の三分の一程度の数しか削れていないと言うのだ。

 やはり、たった今スカウト1が口走った通り、ここが市街地という入り組んだ地形なのが痛手だったか。爆発の効果が建物によって勢いを削がれたせいで、思ったよりも敵が生き残ってしまっていたらしい。

『ヴァイパー01より前衛各機、近接戦闘用意。中衛遊撃は砲撃支援をよろしくお願いします』

 しかし、そう言う錦戸の語気は、実に平静としていて。焦りの色は欠片も見受けられなかった。左の目尻に刀傷めいた縦一文字の傷を走らせる、そんな厳つい顔付きに似合わない、こんな好々爺みたいな温和な顔をしていても。やはり根は西條の右腕。あの白い死神と共に幾千幾万の修羅場を潜り抜けてきた、文字通り百戦錬磨のエース・パイロットであるということだ。

『……今回は市街地という地形上、交戦レンジは極端に狭くなります。各機、ツーマンセルでの行動を徹底してください。互いに背中を護り合わなければ、一瞬で刺されます。……それが、幻魔との市街戦というものです』

 そんな錦戸の言葉には、何処か血の滲むような説得力があり。暗黙の内に訴えかけてくる凄まじい勢いに、前衛部隊の面々はただ息を呑むことしか出来ず。一真もまたそれは同様で、彼は小さく『……ヴァイパー02、了解』と頷くことしか出来なかった。

『加えて、ヴァイパーズ・ネストよりも通達します。ミサイル着弾点付近はクラスターの不発弾の危険性がある為、あまり敵を深追いしすぎないように。過度の前進は控えるようにお願いします』

 淡々とした声音の美弥の声が聞こえてくれば、続けて『そういうことだ』と西條の声も一緒に聞こえてくる。

『不発弾を踏めば、幾らTAMSといえタダでは済まん……かもしれん。とにかく、気を付けてコトに当たれ』

 そんな風に西條が告げれば、小隊内から次々と了解の声が上がる。

(市街戦……)

 初めての経験じゃない。前に何度だって経験した。

 しかし――――それでも、身体は自然と強張ってくる。見晴らしの良い平地で戦うのとは、ワケが違うのだ。地形が入り組んでいれば自然と敵との距離は近くなるし、それだけ格闘戦の頻度も上がってくる。

 格闘戦自体は、決して苦手じゃない。寧ろ得意な部類だ。だが、問題は……。

("ヴァリアブル・ブラスト"……。推進剤が、何処まで持ってくれるか)

 それだけが、気掛かりだった。

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