Int.31:亡霊都市、若き戦士たちの死闘②

『さーて、行くわよカズマッ! しっかり付いて来なさい、良いわね!?』

「馬鹿言え、そりゃあこっちの台詞だぜステラッ!」

 純白の≪閃電≫・タイプFと、深紅に染まるFSA-15E≪ストライク・ヴァンガード≫。前衛機体でもトップクラスのスペックを持つ一真とステラの二機がツーマンセルを組み、至近距離で隣り合いながら敵陣の中へと肉薄していく。

 両機とも、一瞬のスラスタ噴射だった。ちょっとしたステップにも等しいような極短時間だったが、しかし8mの超巨大な体格の巨人だ。その飛翔距離は、僅かといえども数十mにも及ぶ。

『アタシが仕掛ける……! カズマ、アンタは撃ちまくりなさいッ!』

 そんなステラの言葉に一真が「了解ウィルコ!」と頷くよりも早く、一真機の目の前でステラのFSA-15Eストライク・ヴァンガードは右手に持った93式20mm突撃機関砲を眼前に突き出していて。その機関砲のアンダー・マウントに吊していたグレネイド・ランチャーから、130mm口径の榴弾をブッ放していた。

『ブッ飛びなさい、有象無象の雑魚めッ!』

 そんな声と共に、百数十mほど離れた敵の先鋒部隊。その足元に榴弾が着弾すれば、信管が作動し――――そして、爆炎が弾けた。

 凄まじい熱気を伴った爆風がソルジャー種の柔い身体を業火の如く焼き尽くし、その爆炎と共に飛散する榴弾の弾殻は、グラップル種の柔肉を容易く切り裂いてしまう。

 その爆風の余波は、一真たちをも襲い。爆風が機体のシルエットを撫で、飛んで来た弾殻の破片の一部がカンカン、と装甲に当たって弾けるが、しかしTAMSの複合装甲は通常榴弾の余波でどうこうなるほど、ヤワではなかった。

『さて、お膳立ては済んだ――――細かいのの処理は任せたわよ、カズマッ!』

 ステラはそう言えば、今の一撃で生き残った奴らは無視し、更にその奥へとグレネイド・ランチャーの榴弾をブッ放す。

「ったく、俺ァ後処理係かよ……!?」

 一真は一真でそんな具合に独り言でブツブツとボヤきつつ、右手マニピュレータで銃把を握り、左手で支える93B式20mm支援重機関砲を使い、ステラの撃ち漏らしを20mm砲弾で一匹ずつ地道に吹き飛ばしていく。

 地味な作業だが、しかし93B式にはうってつけの戦い方でもあった。グレネイド・ランチャーで大雑把に吹き飛ばし、後の残り物は多弾数のガンナー・マガジンを持つ93B式で処理していくというやり方は、一定の位置から動く必要が他の戦術に比べてあまりなく。"ヴァリアブル・ブラスト"の極悪燃費のせいで推進剤の管理が誰よりもシビアな一真にとって、実はかなり有り難い戦術なのだ。

(そこまで考えてだとしたら、流石なんだけどな)

 とはいえ、あのステラのことだ。まず間違いなく、そこまで深いことは考えちゃいない。

 そう思えば、一真は自然と苦い笑みを浮かべてしまっていた。かといって一真とて、自分も割とそういうタチなのだから、決して人のことを言えた立場じゃないのだが……。

 似たもの同士、とでも言うのだろうか。最近、ステラに対して一真はそう思うようになっていた。きっと、それはステラの方も同じことを思ってくれているのだろうとも思う。最近、自分を見る眼が変わってきているような気がしていたのだ。

(まあ、今はそんなこと、どうだっていい)

 ――――そう、どうだっていい。

 それは、今考えるべきことじゃない。今は戦闘の真っ最中なのだ。こんなことは、帰ってから好きなだけ考えれば良い。

 そう思い、一真は今まで頭に過ぎっていた思考を一気に頭の外側へと弾き飛ばし、目の前の敵を屠ることに意識を再び集中させた。

「ッ……!!」

 ――――その瞬間、一真は気付いてしまった。音感センサーが捉え、そして視界の端に映った、敵の姿を。

「ステラ、下がれッ!!」

 叫べば、一真はそれよりも早く身体が動いていた。

 ステラ機の肩を左手マニピュレータで引っ掴み、押し下げるようにしながら自分が前に躍り出て。そうすれば右手の93B式重機関砲を、何故かその砲口を上に仰がせるような格好で向けて――――そして、ブッ放した。

 チェーン・ガン機構の凄まじい勢いで撒き散らされる、20mm砲弾の豪雨。それを浴びた、ステラが全く死角の為に気付いていなかった敵――――ちょっとした雑居ビルの屋上に立っていた"ソルジャー・アンチエアー"は、レーザー光線を発射する直前でその20mm砲弾の豪雨に白いアルビノめいた身体を引き裂かれ、そして文字通りの血煙と化してしまう。

「……間に合ったか」

 一真がホッと一息ついていれば、『……借り、ひとつね』と、ステラは何故か悔しそうに呟く。

「ステラ、一旦距離を置くぞ。いい加減、俺たちも包囲され始めているらしい……」

 そんなステラの反応を敢えて無視しながら一真が言えば、言われたステラは『そうね』と素直に頷き、

『ったく、数の平押しってのも存外、厄介なモノよね。

 ――――まあ、いいわ。カズマ、いいこと? 最後にアタシがグレネイド・ランチャーを一発ブッ放す。その隙に後ろへ下がりましょう』

「了解だ」頷く一真。「ケツは俺が持つ。ガンナー・マガジンで手数の多い俺の方が、何かと便利だ」

「はいはい、好きにして頂戴。――――んじゃあ、決まったことだし。さっさとズラかるわよッ!!』

 再びステラは叫べば、一真機の横から右腕を突き出し、もう一度130mmグレネイド・ランチャーから榴弾をブッ放す。

『それじゃあカズマ、お先にッ!』

 空になったグレネイド・ランチャーのカートリッジを足元にイジェクトすれば、榴弾の着弾と同時にステラのFSA-15Eストライク・ヴァンガードはバック・ブーストを吹かし、背中向きに地を這うようにして全力で後退を始める。

「へいへい、了解……!」

 そんなステラに頷きながら、一真はそこら中に向けて93B式重機関砲を撃ちまくり。そうしてステラの後退開始からきっかり十秒が経過したところで、自分も≪閃電≫に地を蹴らせながらバック・ブーストを吹かす。

 後ろ向きに、地面スレスレを滑空するように後退する白い≪閃電≫。その手に持つ重機関砲から20mm砲弾をあちらこちらにバラ撒きつつ、一真もまた、ステラ機の逃げた先へと後退していった。

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