Int.52:純白の炎と紅蓮の焔、激突する魂の一閃③

「っ!?」

 微かな衝撃を感じると同時に、FSA-15Eストライク・ヴァンガードのコクピット内に鳴り響くけたたましい警報音。今まであれほど元気よく吹かしていたスラスタは途端に息切れを起こしその勢いを衰えさせ、機体の速度と高度が加速度的に低下していく。

「ちょっと、どうしたのよっ!?」

 イレギュラー過ぎる事態に、流石のステラとて混乱の色を隠せない。スラスタは幾ら吹かそうがうんともすんとも言わず、視界の端に網膜投影されるのは無情な背部スラスタ・ユニットの破壊判定表示のみ。

(なんでよ!? アイツが持ってたのは、ダブルオー・キャニスターの散弾砲でしょ……っ!?)

 そこまで考えて、漸くステラは気が付いた。

 奴が撃ったのは、ダブルオー・キャニスター弾ではない。撃っていたのはあくまで牽制と囮。本命の方はスラッグを装填していて、たった今FSA-15Eストライク・ヴァンガードのスラスタを撃ち抜いたのだ……!

 APFSDSかHESH(粘着榴弾)か、HEAT-MPかまでの詳しい弾種は分からない。だが考えられるとすればやはりスラッグ弾の直撃以外には考えられない。ダブルオー・キャニスターの豆粒程度では、この距離でスラスタを一撃で撃破することなど不可能なのだ。

 ともかく、ステラはもう空中での三次元機動が使えなくなる。なんとかしてアイツも、一緒に地面へ道連れにしなくては……!

「ああもうっ! こんなことやりたくないけど……!」

 でも、仕方ない――――!

 ステラは意を決し両肩のサブ・スラスタを吹かすと、なけなしの推進剤を全部燃やし一気に地面へ機体の背中を叩き付ける。

「っっっ!!」

 強烈な衝撃がFSA-15Eストライク・ヴァンガードを揺さぶり、コクピット・シートに座るステラも大きく揺さぶる。吐き気すら覚える強烈な衝撃だが、ステラは歯を食い縛ってそれに耐えた。

 FSA-15Eストライク・ヴァンガードのあまりに突拍子のない落下に拍子抜けをし、一真の≪閃電≫が勢い余ってステラ機の真上を通り過ぎる。ステラはニッと不敵な笑みを浮かべ、両腕の突撃機関砲の砲口を≪閃電≫の背中に向けた。

「素人にしちゃあ、悪くない一撃だったわ。褒めてあげる」

 両手に握り締める操縦桿の、そのトリガーに人差し指を掛けるステラ。

「でもね――――」

 そして、トリガーを引き絞り、

「一歩、詰めが甘かったわよッ!!!」

 ステラの視界の中で激しすぎる閃光が瞬くと、蒼穹を往く一真の≪閃電≫、その背中へ向け大量の20mmペイント砲弾が殺到した。





「きゃあっ!?」

 そんな二機の様子をライブ中継で眺めていた美弥が、思わず悲鳴を上げて両手で顔を覆いしゃがみ込んだ。

「ちょっとオイ、今のやべーんじゃねえのか!?」

 流石の白井も狼狽し、マジな顔で声を上げる。

「…………」

 しかし瀬那は無言のまま、腕組みをし試合の推移を見守っていて。彼女の見るモニタの中では、背中に大量の20mmペイント砲弾を喰らった一真の≪閃電≫がその白い装甲のあちこちをピンク色の塗料で汚し、地面に墜落していく口径が映し出されていた。

「……スラスタ、やられたね」

「うむ」隣の霧香が呟く言葉に、瀬那が軽く頷いて同意する。

「だが、一真も彼奴あやつのスラスタを仕留めた。もしこれで撃墜判定をまだ喰らってないとしたら、勝負はこれで五分になる」

「……得意の空中、三次元機動戦を封じられたからね、あの。ひょっとしたら、瀬那。一真にも、勝機、あるかもよ……?」

「撃墜判定を頂いてなければ、だがな。どのみちこうなってしまえば、我々に出来るのは祈ること以外にない……」

 腕組みをしながら、瀬那は隣に立つ己が従者・霧香と共にただその推移を見守る。胸の奥では、彼の勝利を祈り続けながら。

(一真よ、其方は斯様かようなところで朽ちる男ではなかろう。立て、立って彼奴あやつと、ステラと決着を付けてみせよ)

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