Int.51:純白の炎と紅蓮の焔、激突する魂の一閃②
「……始まったか」
一方、二機の激突する平野フィールドから少し離れた嵐山演習場内のとある簡易格納庫内。そこに設置されたモニタに映るクラス代表決定戦の行く末を腕組みをしながら見守る瀬那が、ポツリと呟いた。
「だな……」
その隣で、白井もその様子を固唾を呑んで見守る。一真にステラ、二人の戦いはフィールド内の各地に設置された定点カメラ、或いは上空を飛ぶクアッドローター・ドローンから空撮されたものがライブ配信されており、学園でも同じように一部で流されているはずだ。ここまで規模をデカくするのは、やはり仮にもクラス対抗TAMS武闘大会の前哨戦めいた一戦だからなのか。
「一真さん、大丈夫かなあ……?」
その様子を、美弥もまた心配そうな面持ちで見守っていた。何せ彼女の立てた作戦はこの勝負の勝敗を決するかもしれないのだ。その責任感からか、他の二人よりも美弥の顔色は少しだけ重い。
「……大丈夫。一真なら、多分、できる」
そんな美弥の頭をポンポンと撫でながら、真後ろに立つ霧香が静かに呟いた。振り向いた美弥が「そ、そうかなぁ?」と不安げに訊くから、霧香は続けてこう言う。
「……私たちがやれることは、大体やった。だから後は、一真次第」
「でも、もっと出来ることがあったんじゃないかなって」
「……今から考えても、意味無いよ…………。それより、今は一真を信じる方がいい……」
「うむ、そうだぞ美弥よ。ステラには悪いが、私たちとしてはこの戦い、一真に勝って貰わねば困る」
「瀬那ちゃん……!」
「そうだぜ、美弥ちゃん! ――――信じようや、アイツを。俺たちの一真が、勝ってくれるってよ!」
そんな白井の言葉は、遠巻きにモニタを眺める西條の耳にも届いていた。西條はフッと笑うと、咥えたマールボロ・ライトの煙草を吹かしながら試合の推移を見守る。
「勝ってみせろ、弥勒寺。お前ならその機体を、タイプFを扱いきれるはずだ……」
吐き出した紫煙が舞い上がり、やがて大気の中に霧散していく。簡易格納庫の壁にもたれ掛かる西條はただ、試合の推移を煙草を吹かしながらじいっと眺めていた。
「うおおおおおっ!!!」
試合開始の号令直後、一真は雄叫びを上げながら≪閃電≫の背部スラスタを全開で吹かし、右手の突撃機関砲を撃ちまくりながらステラの
『短絡的、ええ実に短絡的……!』
勿論、その無鉄砲な砲撃をステラは一瞬スラスタを吹かすと当然のように回避。サイドステップを踏むように小刻みに吹かしつつ、≪閃電≫の右方に大きな円を描き回り込むような機動を取りながら、両手マニピュレータに握る二挺の93式突撃機関砲の掃射を始めた。
「ちいぃっ!!」
ステラの放つ20mmペイント砲弾の何発かが、≪閃電≫の装甲を掠める。一真は大きく舌打ちをするが、しかし致命傷には至っていない。だがジリジリと距離を取られ、深紅の
このままではステラの得意な遠距離レンジの砲撃戦に持ち込まれ、ジリ貧になってしまう。どうにかしてチャンスを掴み、距離を詰めなければ……!
――――"当てずに、敢えて逸らしたところを狙うんです"。
「ッッッ……!!」
刹那、脳裏に駆け巡ったのは美弥の一言。美弥は確か、砲撃を当てる必要は無いと言った。当てずに敢えて狙いを逸らし、ステラを追い詰めていけと……!
「ああ、そうかい! 分かったぜ美弥ァッ!!」
一真は叫ぶと、ステラ機の未来位置――とは少し逸れた場所に向けて突撃機関砲を掃射する。
『ッ!?』
しかし、丁度一真機の撃ち放った20mm砲弾の火線上にステラ機は滑り込みそうになり、ステラは慌ててスラスタを逆噴射させると紙一重の所でペイント弾の直撃を免れた。しかし装甲の端に擦ったらしく、右肩の端辺りに幾らかピンク色の塗料が滲んでいる。
『ビギナーズ・ラックも良いところッ!』
「それはどうかなァッ!!」
一真は地面を抉りながら激しく着地しつつ、右手の突撃機関砲を撃ちまくりながら同時に左手の88式75mm突撃散弾砲を撃った。撃発されたダブルオー・キャニスター弾から飛び散るペイント弾仕様の散弾が広い範囲に散らばり、ステラ機向けて殺到する。
『ああもう、面倒なっ!』
ステラは慌ててスラスタを上方向に向けて噴射し、
「貰ったァッ!!」
一真はその隙を見逃さず、機関砲と散弾砲、両方をいっぺんにステラ機へ向けて撃ちまくった。
――――しかし。
『――――なーんてね、詰めが甘いんだよッ!!』
ステラ機は脚部だけで小さく横っ飛びに飛ぶと、肩が地面に触れる寸前といったところでスラスタを最大出力で噴射。一気に飛び上がり、一真の渾身の一撃を簡単に避けてしまった。
『甘い、甘すぎるわっ! 所詮はビギナー、この私に敵うはずもなし!!』
上空高く飛び上がったステラ機はスラスタを切り、自由落下を開始。一真は無防備に降ってくる
「っ!?」
ステラはあろうことか、太陽を背にし降ってきていた。突然の逆光のせいで機体カメラの露出が狂い、視界が滲む。
時刻に応じた太陽の位置、そこまでを計算しての落下ポイントだ。やはりステラ・レーヴェンス、対人戦のプロだけあって侮れない――――!
『今度はこっちの番よ、頂くわッ!!』
(マズい――――ッ!)
一真は咄嗟に側方に向けてスラスタを噴射し、降り注ぐ20mmペイント砲弾の雨からギリギリで退く。しかし落下を続けながらもステラの射撃は正確の一言で、≪閃電≫を追う火線の未来予測は的確そのもの。一真は乱数機動めいたジグザグでランダムな機動でなんとか回避していくが、しかし機体の所々に擦ったペイント弾が、段々と白い装甲を汚し始める。
「ッ!?」
とした頃、唐突にコクピットにアラート音が鳴り響いた。最初は致命傷を喰らって撃墜判定を喰らったかと思ったが、違う。
見れば機体は無事だが、右手の93式突撃機関砲の側部に数発、ペイント弾を貰ってしまっていた。お陰で機関砲は破壊判定を喰らい、使用不可でロックが掛かってしまう。
「嫌らしいトコばっか狙いやがって!」
毒づきながら一真は右手の機関砲を投げ捨て、スラスタを吹かし高速移動を繰り返したままで散弾砲を右手に持ち替えつつ、ダブルオー・キャニスター弾でステラ機に応戦する。
『二度も同じ手は喰わないわよっ!』
しかしステラ機は、広範囲に広がるペイント仕様の散弾をスラスタの短噴射で回避。また大きく土埃を上げて地面に着地すると、今度は地面スレスレを這うような高度で一真機に向けて突進を仕掛けてくる。
一歩間違えれば、機体が地面と激しいキスをカマしてお釈迦になりかねないような超低高度だ。しかしそれをステラは平気な顔でこなし、弾倉交換を終えた突撃機関砲を乱射しつつ一真の方へ肉薄してくる。
「っ……!」
一真は美弥の作戦を遵守しながら、背部マウントから左手で新たに取り出した93式突撃機関砲を使ってなんとかステラの行動を制限しようと試みる。しかしステラ機の動きが一真の予測を遙かに超えているものだから、中々上手くいかない。
直線的な弾道の突撃機関砲でなんとか牽制しつつ、散弾砲のダブルオー・キャニスター弾で面ごと妨害しなんとかステラ機の動きを逸らす。一真が慣れてきたから段々とそれは上手くいってくるが、しかしそれでも、ステラ機との間合いを数歩分縮めるぐらいにしか役立たない。
やがて、突撃機関砲の弾が切れる。しかも運悪く散弾砲まで同時に弾を切らせてしまったものだから、一真は思わず冷や汗を流した。
「畜生っ!」
慌てて弾倉をイジェクトし、背部のロボット・アームを使って予備弾倉を装填させるが、
『隙が大きすぎるのよ、素人っ!』
そんな余裕を、ステラが許してくれるはずもなく。ここぞとばかりにスラスタを吹かし距離を詰めて来ながら、ステラは一真機向けて突撃機関砲を撃ちまくってくる。
「ヤベえ……ッ!」
慌ててスラスタの噴射方向を変えて回避するが、しかし右腕を中心に結構な数を貰ってしまう。
コクピットに鳴り響くアラート音。右腕のダメージ蓄積判定が重なり、また一歩撃墜判定に近づいていく。ついでと言わんばかりに二挺目の突撃機関砲まで破壊判定を喰らってしまったせいで、またロックされる。
「折角マグチェンジしたのによ……!」
泣く泣く機関砲を投げ捨て、一真は背部右側マウントを展開。88式突撃散弾砲を二挺持ちする格好になる。
――――突撃散弾砲は失った。こうなればやることはただ一つ。出来る限り接近し、格闘戦に持ち込めるチャンスを切り拓くこと……!
「うおおおっ!!」
両手の突撃散弾砲からダブルオー・キャニスター弾を同時に撃ちまくりながら、ジグザグめいた軌道を取りつつ一真の≪閃電≫は
『っ……!』
二挺同時の散弾掃射は流石のステラも荷が重いようで、突撃機関砲の斉射をやめると彼女は舌打ちをしつつ回避行動に専念する。
「どうしたどうしたァッ! 尻尾巻いて逃げようってか!?」
『ったく、これだから下手くそは……! 散弾砲しか使えない下手くそに、付き合ってあげる義理はないっての!』
「そりゃあ結構! なら無理矢理にでも付き合って貰うぜェッ!!」
逃げるステラの
途中で弾倉交換をし、左手はそのままダブルオー・キャニスター弾を再装填。しかし右手の突撃散弾砲は敢えてAPFSDSスラッグ弾のカートリッジを選択した。ダブルオー・キャニスターのように拡散はしないが、しかし強力な徹甲弾の一種。当たれば致命傷間違いなし、即撃墜判定も夢じゃない。
そうして一真は左手の散弾砲で逃げ道を塞ぎつつ、ステラ機の背中に右手の88式突撃散弾砲の照準を合わせようとする。
『ああもう! くどい、付いてくるんじゃないわよこのストーカー!!』
ステラは背部マウントを自律制御で動かし、二挺懸架していた予備の突撃機関砲を後方の一真機向けて掃射してきた。確かに良いテクニックだが、自動制御だから精度は劣る。不意打ちの為に一真は脚部へ四発程度貰ってしまったが、それ以上は喰らわない。
(集中しろ、この一撃を逃せばチャンスはない……!)
APFSDSスラッグを装填した方の散弾砲を構えながら、一真は額に汗を流していた。
ステラは今、一真が持つ散弾砲の片方がダブルオー・キャニスターでなく、AFPSDSスラッグ弾を装填しているとは知らないはずだ。完全な不意打ちだが、構ってはいられない。
不意打ちということは、裏を返せば次はないということだ。流石に対人戦のプロ、一度逃せば対策をすぐにしてくるだろう。当てるならば、この一撃しかない――――!
右の操縦桿を握る手に、自然と力がこもる。生唾を飲み込みながら、しかしキッと目を見開いた一真は覚悟を決め、逃げるステラ機の背中に狙いを定めた。
「頼むぜ、当たってくれよ――――!」
操縦桿のトリガーを引き絞る。連動して≪閃電≫・タイプFの右手マニピュレータが動き、88式突撃散弾砲のトリガーを引いた。
撃発された75mm口径のAPFSDSスラッグ弾が、ライフリングの無いスムーズ・ボアの砲身を潜り抜けて外界へと飛び出す。音の壁を突き破る速度で飛翔する砲弾は途中で邪魔なサボット部分を切り離すと、ダーツの矢のようなスリムな形状になって大気を切り裂き突撃する。
そして、一真の放ったAPFSDSスラッグ弾はステラの、
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