Int.04:セレモニー/若き勇士たちの捧げし誓い
――――そして、迎えた入学式当日の朝。
「さて、まずは諸君におめでとうと言っておこうか」
体育館に集められた国防陸軍・京都士官学校の今期新入生一同はズラッと並べられたパイプ椅子に腰掛け、壇上に立つ西條教官の言葉を聞いていた。昨日もそうだったが、西條は医官でもないのに何故か白衣を羽織っている。しかしそれを咎める者は他の教官らも、まして新入生にも存在しない。
「これで、晴れて諸君らは我ら誉れ高き国防陸軍の一員となる。TAMSパイロットを目指す者も居れば、戦術オペレータを志す者、または整備メカニックの道を歩まんとする者も居るだろう。
――――だが、どの道であろうと、諸君らは等しく我が軍の、ひいては地球人類にとって最も貴重な人材であり、そして最も重い責務を負う立場でもある。我々人類の行く末を担うのは、他ならぬ諸君らの双肩に懸かっていると言っても過言ではない」
偶然にも一真の臨席だった瀬那も、真剣な眼差しで壇上に立つ西條の言葉へ耳を傾けている。
「無論、諸君らにも相応の期待と責任を背負って貰うことになる。それを重荷に感じ、押し潰されそうになることもいずれはあるだろう。
――――しかし、押し潰されて貰っては困る。徴兵か、志願か。動機が何であろうと関係ない。ここの門を叩き訓練生となった以上、君らには一人たりとも欠けること無く、立派な
バンッ、と西條が目の前の演台に両手を叩き付ける。突然の激しい音にビクッとした連中が、何人か驚いて身体を震わせるのが見えた。
「いいか、これだけは言っておく。――――我々に、降伏は無い。我らの敵が物言わぬ侵略者である以上、我々地球人類に残された道は二つのみ。勝利か、死かのみだ。
……出来ることなら、私の教え子たちには一人も死んで欲しくはない。しかし、これは戦争だ。互いの種の存亡を賭けた絶滅戦争である以上、死は避けられぬファクターだ。
だからこそ、私は諸君に言っておきたい。諸君らがこれからどのように戦い、そして死んでいくとしても。我々に提示される選択肢に、降伏の文字はあり得ない」
――――降伏は無い。
その言葉の重みが分かってか分からずか、集められた新入生たちは一様に緊張した面持ちでいた。それは一真も、そして隣の瀬那も変わらない。敵が起源不明・コミュニケーション不可能の敵性生命体である以上、降伏はあり得ないのだ。相手は人間じゃない、人間よりも、もっとずっと厄介な敵なのだから……。
「……とまあ、少々脅しすぎたか。そう気負う必要は無い。よっぽど戦況が劣勢にひっくり返って、京都が戦場にでもならない限り、ここを卒業するまで諸君らに実戦の機会が与えられることは無いだろう。確約は出来ないが、しかしひとまずは安心してくれて構わない」
雰囲気を解すように西條が言葉を付け足すと、新入生たちの間に張り詰めていた妙な緊張の糸がホッと和らいでいく。
「この辺りで、私からの言葉は終わりとしよう。そろそろ時間も押してきているみたいだからな……。
それでは、最後のアレをやってしまうとするか。――――新入生、起立!」
ほぐれていた表情を一気に引き締めた西條の号令で、一真ら新入生たちが一斉に立ち上がった。そして、全員の口から宣誓の言葉が紡ぎ出される。
「『我らは祖国を護りし盾となり、仇敵を撃ち滅ぼせし剣とならん。この身を等しく祖国の礎とし、見敵必殺の志の元、我が身朽ち果てるまで
左胸に拳を当て、各々が一字一句違うことなく記憶した誓いの言葉を、ここに集いし訓練生たちはそれぞれの想いを胸に暗唱する。それは一真も、瀬那とて同じことだった。
ここまでやって来ては、もう後戻りは出来ない。無力な一般人としてではなく、一人の戦士として、死ぬまで人類の敵――"幻魔"と戦う運命を辿ることになる。
だが、一真の胸に後悔は無かった。これは、自分で望んだことだ。巨人の姿をした鋼の鎧・TAMSを駆って戦場に赴き、幻魔を一匹残らず狩り尽くすこと。それこそが一真の望みであり、この陸軍京都士官学校へとやってきた
(もう、昨日までの無力な俺とは違う)
無力だった弥勒寺一真は昨日、ここの門を潜る前に死んだ。今ここに立つのは
そんな想いを胸に、一真は誓いの言葉を口にする。行き着く先がこの世の地獄になるだろうことは、とうに承知のことだった。
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