第六夜
再会
死んだ人と会うって話は、古今東西いとまがないと思います。
軍隊で亡くなった祖父がお彼岸に帰ってきたとか。
死に別れた両親が夢枕に立ったとか。
その真偽はともかく、聞かない話ではないわけです。
さて、彼──M氏(仮名)もまた、Nさん(仮名)と離別して、長い時が経過していました。
幼いころからの悪友といいますか。
まあ、ふたりは特にウマが合い、同じ道を歩み、結婚まで至ったのです。
しかし、とあることをきっかけに、別れは唐突に訪れました。
以来、M氏は孤独に生きてきました。
ある夜のことです。
突然、海が見たくなったM氏は、車を飛ばしたのです。
一番近場の海岸まで行った彼は、ただぼぅっと、夜の海を眺めていました。
ちらちらと、ウミホタルでもいるのか、潮の満ち引きに合わせて海が淡く光ります。
ふと、彼が隣を見ると、見知った顔が、立っていました。
ずいぶんと昔に別れたままの姿の、Nさんがそこにいたというのです。
「どうして」
と、彼が尋ねると。
「そういう日だから」
と、彼女は返します。
M氏は一度頷いて、そのあとその女性と話し続けました。
女性はNさんしか知らないはずのことをいくつも知っていて、話はどこまでも盛り上がりました。
やがて、夜が明けるころ、女性は霧がほどけるようにして消えていったのだそうです。
女性が消えたことを確認したM氏は、スマートホンを取り出し、どこかへと電話を掛けました。
長いコール音の末に、不機嫌な女性の声で
「はい」
と、応答がありました。
M氏は、その女性に告げました。
「いまおまえと会ったよ」
「はぁ?」
「別れたころのおまえにそっくりだった。でも、すぐにおまえじゃないってわかったね」
「なんでよ」
「だってさ」
M氏は、肩をすくめながら、こう答えました。
「だって、整形する前のおまえだったんだもん。あれが理由で、俺はおまえと別れたんだからさ」
死んだ人と出会うという話は枚挙にいとまがありませんが。
生きている人と出会うという話は、そこまで多くない気がします。
つまりは、これは、そういうお話。
第六夜 再会
今宵はここまで──
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