第6話 あれだよ

俺は、宗田に全てを話すことにした。


まずは、動画を見せようと思い。大河に促した。大河は頷くとスマホを取り出し、宗田の方に向けた。


「この動画が、昨夜10時30分ごろtwitter上に投稿されてました。」


宗田は15秒ほどの動画を食い入るように見ていたが、フーっと息を吐き、口を開いた。


「白石を知っている人物なら、直ぐに白石だと分かるな。」

「ええ、実際にかなりの生徒の間で話題になってるようです。」

「本当か、今のところ学校には連絡は来てないが。連絡が来たら無視をするというわけには行かないだろうな。」

「ええ、この動画を見る限りだと、純が一方的に暴力を振るっているように見れます。世論の同情は見込めないでしょうね。」


宗田と大河が話し込み始めてしまったので俺は何となく桜の方を見た。桜は先ほどの自らの発言を思い返しているようで、顔を赤らめて下を向いていた。俺を庇うために恥をかかせてしまった。俺は謝辞の意を込めて話しかけた。


「桜、さっきはありがと、あんなこと言わせちゃって悪かったな。記憶から消しとくから安心してくれ。」


桜は下を向いたまま、小さくこくりと頷いた。まだ少し赤い横顔は少し幼さも残した少女のような横顔で、無性に守りたいと思わせるものがあった。


「オイ、白石。お前のことで話してるんだぞ。ちゃんと聞け。」

「はい!すんません!」


そりゃそうだ、俺が集中して聞かないでどうする。桜の横顔から視線を外し、二人の方を見た。


「どうにか俺が悪いんじゃないって事を証明出来れば良いんですけどね~。」


俺は話に入ろうと、パッと思いついたことを言ってみた。


顎に手を当てて考えていた大河は、俺の言葉を聞き終えると、それだ!というように手を叩いた。


「そうだよ!・・証明してもらおう!」


俺は恐る恐る聞いてみた。


「証明してもらうって、まさか俺が昨日助けた女の子にか?探し出すってことか?」


大河は当然だというように首を縦に振り、宗田に話しかけた。


「それしかない!ですよね、先生。」

「ああ、確かに。それが出来るなら一番確実だ。白石、顔は見たのか?」

「ええ、見るには見ましたけど、探し出すなんて無理じゃないですか?」

「そりゃ、難しいだろうけどやるしかねえよ。俺も協力してやるしよ!」

「私も私も!」


どうやら、俺が昨日助けた女の子を探し出して証言を取るという事で話がまとまりそうだ。


「まず、その女の子の特徴を整理してみない?」


と、桜が提案した。


「そうだな、純ちゃんの記憶が頼りだ。頼むぜ。」


と、無意識だろうが大河は無駄なプレッシャーをかけてきた。宗田も2,3度頷いた。


俺たちは宗田のデスクにメモ用紙を一枚置き、桜がペンを持った。俺は、昨日の少女の事を思い出そうと考え始めた。


「まず、髪型はポニーテールだった、結構長めの。髪色は黒髪で・・・・」


そこまで言った時、桜がふと俺の方を向き笑い始めた。


「白石君と、大河君て癖まで同じなんだね。顎に手を当ててる。」


桜がおかしそうにしながら、自身の顎に手を当てるジェスチャーをする。俺はそう言われて初めて自覚した、大河に癖がそれだとは知っていたが、まさか自分も同じ癖があるとは想像もしていなかった。


「ああ、ホントだな。意識したことなかったわ。」

「俺って顎触るの癖なのか?純ちゃんが顎触るな~とは思ってたけどよ」


と、大河も自身にも同じ癖があるとは気づいていなかったようだ。


桜がほほえましそうに言う。


「二人って、中学からの仲だもんね。去年の冬、寒がりの大河君に白石君がよくジャージ貸してたよね。体のデカい二人がそんなことしてるのが何となくシュールで良く覚えてるよ。」


俺は笑いながら答えた。


「そんなこともあったな。大河のジャージサイズが合わなくなってきてて、着るとすげえダサくてさ。

俺にすがってきてたんだよな」


大河はばつが悪そうに答える。


「ああ、しかも新しいジャージ買おうにも去年からデザイン変わったからさ。それ着て低学年の奴と同じにされるのが嫌だから結局新しいの買ってねえんだよな。」

「ハハ、何それ。気にしなくてもいいのに。大河ちゃん。」

「早速、子ども扱いしようとしてんじゃん!」


桜のちゃん付けに大河は少しムッとして答えた。


桜は校庭で体育をしている人たちを指さして大河に追い打ちをかける。


「あれでしょ。似合うと思うけどな大河君に」

「うるせえよ。」


大河は拗ねてしまったようだ。俺も何となく校庭の方に目をやる。


・・・・・・・あっ!!


「おいおい、お前ら無駄話してる場合じゃないぞ。白石が助けた少女の特徴を書き出すんだろう?」


見かねた、宗田が注意する。


「先生、無駄話も完全に無駄ってわけじゃなかったようです。」


俺は胸の高鳴りを押さえながら静かに言った。


「ん?どういうことだ、白石」


俺は校庭を指さして言った。


「あのジャージです。昨日助けた女の子はあのジャージを着てました。」

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