第5話 嵌められた

俺と大河は特別棟2階の真ん中あたりに位置する、職員室の前に辿り着いた。職員室の前に移動するまでの間、俺の足取りは重かった。これから起こるであろうことを想像してナーバスになっていた。中学時代にはこんな呼び出し何度もあり、当時は慣れていたが、今回は話が違う。高校は義務教育ではない、公立高校とは言え暴力沙汰には厳しく対処するだろう。


俺は意を決して、職員室の引き戸に手を掛けた時、渡り廊下の方から声が聞こえてきた。


「二人とも~!私も一緒に入るよ!!」


桜だ、俺たちの姿が見えたので引き留めるために大きな声を上げたのだろうが、少しデカすぎだ!


そんな俺の不安を具現化したかのように、職員室のドアが開けられた。


「もう、授業始まってるぞ!! 何して・・・・」


職員室から顔を出して注意の言葉を発したのは体育教師の宗田だった。最悪だ、こいつは星の宮で一番厳しい教師、こいつの授業は軍隊なんて呼ばれている。


宗田はドアの前に立っている俺と大河の姿を認めると注意の言葉を途中で飲み込み。低い声で言った。


「来たな、白石。 何で黒羽がいるんだ?」


大河は姿勢を正し答えた


「純の付き添いです!」

「付き添い?まあ構わん。二人とも入れ。」


宗田がそう言った時。職員室前に辿り着いた桜が、ワンテンポ遅れて謝罪の言葉を述べた。


「うるさくしてすいません!」


宗田は少しムッとした様子だったが


「ああ、もういい。二宮も白石の付き添いか?」


桜は2度首を縦に振った。


「入れ」


俺たち三人は、俺を先頭に職員室に入っていった。




「何で呼ばれたか分かるか?白石?」


俺たちは、校庭側の窓際に位置する宗田のデスクの前に立ち、宗田は椅子に座った状態で俺に問うた。


「ええ、俺が不良達に暴行を加えた件ですよね?」


宗田は俺のその言葉を聞くと眉をしかめた。


「あ?何の話をしてるんだ白石?」


宗田のその言葉を聞いた時、後ろに立っている大河と桜の緊張感がmaxに張り詰めたのを感じたのと同時に、俺は察した。


勘違い?! 玲子ちゃんが言ってたのは喧嘩の件とは別件だったってことか!そうなってくると、今の俺の発言は完全なる墓穴!掘ってしまった自ら!深めに墓穴を!


「増田先生からは、どういう件で純に話をするように言われたんですか??」


俺が自分の墓穴を掘ってしまったことに気づいた大河は、素早くフォローの言葉を発した。かなり強引な話題展開だが、だんまりよりはるかにまし!! グッジョブ大河!!


「ん? ああ、最近白石に気合が足りないから、説教してくれ、って言われてな。良く意味が分からなかったんだが、とりあえず実際に白石を見てから判断しようと思ってな。」


何だよそれ!!てか、これ玲子ちゃんの罠じゃね?!玲子ちゃんはtwitterで例の動画を見てて、朝のHRで意味深な発言をした。俺は当然、喧嘩の件だと勘違いする、しかも相手は宗田、俺は完全に勘違いして墓穴を掘ると踏んだんだろう。そして実際にそうなった。宗田は最初「何で呼ばれたか分かるか?」と

聞いたが、喧嘩の件を知ってるなら「何で呼ばれたか分かるよな!」ぐらい強気に来てもおかしくはない。


あの女! だが、今は玲子ちゃんを恨んでも仕方ない。どうにか切り抜ける!!


「いや、そんなことはどうでもいい。白石、不良に暴行がどうとか言ってたがどういう事だ?!」


まずいいいい! 矛先が俺に!桜!!頼む!!


そんな俺の心を察したのか桜が口を開いた。


「先生!違いますよ!不良膀胱です! 膀胱ですよ、膀胱!」


「そうですよ!膀胱です!!」


大河も同調し、わざわざ膀胱の位置を指した。



これは酷い!!二人が恥を忍んだで庇ってくれてるのは嬉しいが、さすがにひどいぞ!!特に桜!やめとけ!


宗田は最初、桜の言葉の意味が分からず眉間に皺を寄せていたが、大河のジェスチャーで察し、顔を赤らめて大声を上げた。


「バカ!やめろそんなことを言うのは!!」


そりゃあ、年頃の女の口からこんな言葉が連呼されたら顔を赤らめたくもなる!宗田、あんたの気持ち分かるよ!


宗田は二人を落ち着かせると、俺の方を少し力が抜けた目で見ながら言った。


「白石、、、これ以上友達に恥をかかせるな。お前が中学時代に人助けで喧嘩してたことは知ってる。

今回も、不良から何かを護るために喧嘩でもしたのか?話してみろ、聞いてやるから。」

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