第4話 玲子ちゃん
俺たちはどうにか何事もなく、3-bの教室までたどり着いた。昇降口や階段で何度か先生とすれ違ったのでハラハラしていたが、声を掛けられなかったという事は教師陣にはまだバレていないという事なのかもしれない。
この事で多少心を落ち着いていた俺の心を3-bの連中は即座に曇らせた。
「純~!見たぜ、あの動画!」
「ボコボコにしてたなぁ!」
「白竜の復活か~?」
3-bの連中は口々にそんなことを言い面白がっている。
「うるせえ!! 後、そのダサい異名はやめてくれ!」
手厳しい歓迎に、俺は耳を塞ぎたくなった。
「思ったよりも広がってるな~、こりゃ時間の問題だな純ちゃん。」
横からそう言った大河の口調は軽かったが、顔は深刻そうだ。
クラス内の騒ぎ方を見て桜がまとめるように声を発した。
「はいはい、皆! 白石君を冷かしたい気持ちは分かるけど!」
・・・・分かるのかよ
「朝のHR始まるから座ってー!」
皆が、朝のHRのために入ってくる担任に余計なことを口走らないように
「みんな!バレなきゃ問題ねえんだ!玲子ちゃんに余計なこと言うなよ!!」
と、俺は忠告をした。
そう、バレなきゃセーフ!先生たちの耳に入らなきゃok!問題なし!ノープロブレム!ノーカンなんだ!
twitterの話題なんて2,3日もすれば完全に入れ替わる!2,3にちバレなきゃセーフだ!
今回の件が大事にならないで済む方法を強引に探し当てようとしていた時、担任が入ってきた。
「菊池 玲子」 女性にしては高い165mほどの長身に、腰ほどの長さの黒髪。若くて美人!という事で生徒たちから大人気の先生だ、玲子ちゃんなんてあだ名されている。
先生が教壇に立ったのを確認すると桜が号令をかけた
「起立、礼」
朝のHRは滞りなく進んだ、先生はいつも通りの笑顔で、見る限りでは担任を持っているクラスの生徒が暴力沙汰で話題になっているなどとは知らないように見えた。
配布物も配り終わり、後は号令だけ。どうやら玲子ちゃんの耳にはまだ例の件は入っていないようだ。ホッとして玲子ちゃんの号令を促す声を待っていると、玲子ちゃんは予想だにしなかった言葉を発した。
「白石君はこの後、職員室に来てくださいね~。」
バレてたーーーーーーーー!玲子ちゃん、普段通りのそぶりをしながらキッチリ情報は握ってやがった!
玲子ちゃんの突然のこの発言にクラスはざわつき、笑い声も起こった。
こいつら分かってねえんだよ、喧嘩で呼び出されるってことがどれだけ絶望的か。喧嘩もしたことねえ奴らがほとんどだから、分からなくても無理はねえが。少なくとも面白がってられる状況じゃねえよ!
「はーい!じゃあ、号令お願いしまーす!」
俺の思考やクラスの笑い声を遮るように、玲子ちゃんはそう言った。
朝のHRが終わった直後、俺の席の周りには多くの人が集まった。
「バレてたな!」
「ヤバくね!」
「何であんなことやったんだよ~」
口にする内容は、三者三葉、十人十色だがどいつもこいつも大事だとは思っていない口ぶりだ。
「おまえらなあ、、、、」
と、俺が応対に困っていた時、後ろから肩を叩かれた。見ると、大河だった。
「悪いなみんな。俺らは今から職員室だ。事の顛末が聞きたきゃ後でいくらでも話してやるからよ。」
この大河の発言に周りは一層ざわついた。
「何で大河も?」
「白竜に黒虎のそろい踏みかよ!」
中学の頃の俺たちのあだ名を引き合いに出して冷かしてきた奴に対して、大河は冷静に言い放った。
「純も俺も、身勝手な喧嘩なんてしたことがない。今回だってそうさ、純は人の為に喧嘩した。正しいことは正しいと「証明」しなくちゃならない。それの手伝いをするだけさ。」
普段は軽口ばかり叩いている大河の真剣な一言にみんなは顔を見合わせ一転。
「頑張って来いよ!」
「俺らも庇ってやるさ!」
などと、励ましの言葉をかけてきた。
・・・・こいつら・・・・悪い奴らじゃねえんだよなあ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます