第3話 桜

大河は、動画を見て固まっている俺を見て続ける。


「これ、純ちゃんだよな?三年の腕章してるし、お前ほど体格良い奴早々いねえしよ。・・・詳しく聞かせてくれよ」


俺は大河の目を見て頷き、事の顛末を話し始めた。




聞き終えた大河は、フーっと息を吐くと眉間に皺を寄せて話し始めた。


「なるほどな。まあ、純ちゃんの事だから人助けだろうとは思ってたが、タイミングが悪かったな。・・それにしても動画を取るだけ取って女を助けなかった奴はクズだな。動画も純ちゃんが悪に見えるように編集しやがって。」

「確かに、動画を撮ったやつが悪意を持ってやったならムカつくが、俺が女を逃がした後に騒動に気が付いた可能性もある。それより、今は星の宮の先生たちにバレた時にどう言い訳するかだ。」


俺は冷静にそう返した。


大河は眉間に皺を寄せたまま、右手で顎を触った。大河がモノを考えるときの癖だ。


「マジで、どうしよう。騒ぎになったら当然停学。最悪退学処分まであるよな」


俺は急に不安感が募りそんな不安じみた発言をした。星の宮に入ってからも30件ぐらいの騒ぎに顔を突っ込んで来たが、大事に発展しそうなのは今回が初めてだ。


「確かにな、中学の時とは違う、星の宮で言い訳が通じるかは微妙なところだよな?」


大河は俺の目を見ながら確認するようにそう聞いた。


「ああ、中学の時は悪い意味で俺たち有名だったからな、それを知ってる奴は俺が悪いと決め込むだろうな」


これって冷静に見ると絶望的な状況だよな。中学の時暴れてたやつが更生した面して、喧嘩で一方的にボコってた。なんて知れたら。


俺は無意識に視線を下に落とした。


「まあ、いざとなったら俺が全力で庇ってやるよ!」


俺の不安感を感じ取ったのか、大河は急に元気にそう言うと、俺の背中を軽くたたいた。





俺と大河は星の宮の最寄駅から、並木道を歩いて学校に向かっていた。学校の目の前の横断歩道の信号が

青になるのを待っていると、後ろから声を掛けられた。


「白石君!やっちゃったね!!」


突然のことに驚き、振り向くと桜だった。「二宮 桜(にのみや さくら)」3-bのクラス委員長で155cmほどの身長にツインテール。学級委員という役職からはイメージできないほど活発で明るい、そして可愛い!!

ただ、口が軽いのが玉に瑕だ。


俺は顔だけを桜の方に向けたまま問いかけた。


「桜、、、もしかしてあの動画か?」

「もっちろーん!!」


うすうすそうだろうとは分かりながらも、人の気も知らないで清々しく言い放つ桜には流石に少しムっと来た。でも可愛い!


桜はその返事の勢いのまま続けた。


「まあ、どうにかなるよ!」


俺は視界の端で、大河が笑いを必死にこらえているのを捉えた。





俺と大河と桜が三人一緒に校門をくぐると、もう見慣れた校舎が俺たちを出迎えた。


「星の宮高校」偏差値68 1学年400人ほどから成り総生徒数1200人。a~j組の10クラスに40人ずつの生徒が在籍している。


校門を通ると、まず正面に二つの校舎が目に入る。両方とも4階建てで左手は教室棟、右手は特別棟と呼ばれ。両棟は3階部分までは渡り廊下で結ばれている。また教室棟には1階と3階に出っ張ったスペースがあり、そこが昇降口になっている。1階は1、2年生、3階は三年生が使用している。教室棟の1階は1年生の教室、2階は二年生、3階は三年生という風に振り分けられている。

右側の特別棟には化学実験室、家庭科室、地学室、音楽室などの教室が設置されている。


校舎の奥にはグラウンド、そして校舎側から見て右側に体育館、左側にプールがある。


俺たちは3年なので、3階の昇降口だ。俺たち3人は横並びで昇降口まで歩いていたが、その途中、あからさまに視線を感じた。普段からこの慎重故に視線を集めることはあるが、今日の視線は普段のそれとは明らかに違う。


桜もそれに気が付いたのか、横から俺の脇腹を小突き


「元々、不良で有名だったけど、更に有名になっちゃうね!」


と、俺の胸中を抉る発言をしてきた。


「なりたくねえよ、、、」


俺は弱弱しくそう呟いた。

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