第2話ヤバくね?!

薄目を開けて枕元の時計を見ると午前7時だった、今日も時間通りだ。


俺はベットから降りると大きな伸びをして背骨を鳴らした


「うっ」


と、自然に声が出る。


俺は前日、不良たちをシメた後、真っすぐ家に帰りコンビニ弁当を食べて、風呂に入って寝た。久し振りの喧嘩で一瞬気持ちが高ぶったが、俺の生活リズムはかなり堅固なようだ。


ドアを開け、少し頭を下げて部屋を出て、一階に続く階段を下りて洗面所に向かう。家に響くのは、俺の足音で建物が軋むかすかな音だけ。俺が立ち止まってしまったらこの家の時間は静寂に飲み込まれてしまう。


冷たい水で顔を洗い歯を磨いた後、リビングに入りコーヒーを飲むために薬缶を火にかけた。薬缶のお湯が沸くまでの間、俺はリビングの隣の和室の仏壇に手を合わせた。仏壇には俺の両親と母方の祖父母の遺影が置かれている。


その後、短パンに上裸という格好から制服に着替える。幸い昨日のケンカではワイシャツに血は付かなかった、中学の頃に一度それでひどい目に合ったので喧嘩をした日には必ずチェックするようにしている。


沸かしたお湯でコーヒーを淹れ、それを飲みながらトーストが焼けるのを待つ。これが、この家で一人で暮らす俺の毎朝のルーティンワークだ。


小4の頃に両親が亡くなって、その後は小6まで母方の祖父母と暮らしていたが、その祖父母も小6の夏に熱中症で二人とも亡くなった、俺が修学旅行に行っていた時の事故だった。それから高校三年生までの6年間の間、1人で・・・・そう一人だけで暮らしている。近所の人が面倒を見てくれたり、両親が残してくれたこの家と幾ばくかのお金、さらに祖父母の遺産も受け取って、俺が大学を卒業するまで一人で暮らしていくには十分すぎるほどのお金がある。両親は車両事故で亡くなったと記憶している、死体の損傷が激しくて、とても面影は無かったそうだ、俺は確認しなかった、どうにか両親の死という事実から目を逸らしたかった、ただ逃げていた。




俺はトーストを食べながらニュースを見て、髪をセットして8時に家を出た。学校までは駅から3駅で家からは30分ほどだ。


いつも通る道を通りながら、俺は何となく昨日助けた美少女の事を思い出していた。今まで数えきれないほどの厄介ごとに首を突っ込んで来たのだから、綺麗な女性を助けたことも何度もある。


が、声を掛けた事は無かったし、それを後悔したことも無かった。昨日の少女に声を掛けなかったことも後悔しているわけではないのだが、何となく気になって考えてしまう。


そんなことを考えていると後ろから声を掛けられた。


「オーイ!純ちゃん!!おはよう!」


振り向くと「黒羽 大河」だった。


「おう!おはよう!」


と、手を挙げて返事をする。


大河は俺の横に走り寄ってきて、俺たちは2列で歩く形になった。大河は俺の横に並んだ後、口を開いた。


「今日、数学の補講あんだけど~、マジダリィ~。」

「前回のテストの結果悪かったのか?」


俺は笑いながら返す。


「まあな、元々無理して入った高校だから、頑張らねえと離されちまう」


と、言い終わると同時に大河は足元の小石を蹴った。


「純ちゃんは大丈夫だったのか?」


と、大河は続けた。


俺は意味深に笑いながら大河の方を向き、言い放った。


「ダメだった!!」

「ダメだったのかよ!その意味深な表情、マジでツボだわ。」


そう言うと大河はしばらく笑っていた。



電車に乗ると、俺たちは隣り合わせの座席に腰を下ろした。大河も180cmぐらいあるので俺と大河が並んで座ると、中々異様な光景になる。


俺と大河は中学1年からの付き合いで、同じ「星の宮高校」に進学した。そこから3年間、今の3-bに至るまで同じクラスなのだから少し奇妙なほどだ。


横に座ってスマホに視線を落としている大河を横目で見る。生まれつきの茶髪で軽い天パ、とても地元最高峰の星の宮の生徒には見えない。


実際、俺たちは中学二年の冬までロクに勉強もせずに喧嘩ばかりしていた。俺は俺の都合で、大河は大河の都合で。そんな中、中二の冬に大河が、星の宮を目指すと言い出した。


「正しい事は、正しい立場でしなきゃ意味がない。」


確か大河はそんなことを言っていた。



そんな大河に付き合う形で勉強を始めたら、幸か不幸か俺も星の宮に受かってしまった。内申書も重要だったはずだが、俺たちがカツアゲされそうになっている少年少女を助けて5,6度表彰されていた事が内申書を補ってくれたのかもしれない。


とにかく、俺は大河のおかげで星の宮に入れたようなもので、友人の少ない俺としてはこれからも仲良くしていきたい友人の一人であることは確かだ。


俺は、ふと昨日のことを話しておこうと思い口を開いた。


「大河、実は昨日の夜な・・・」


と、ここまで言いかけた時、スマホを見ていた大河が画面をこちらに向けてきた。


「これ、だいぶヤバくねえか~?」


血が逆流したかのような衝撃が俺の体に走った。それは、twitter上で再生されている動画のようで、二回ほどの高さの場所から見下ろすようにとられていた。


そこには、俺が昨日、商店街の広場でヤンキーたちを一方的になぎ倒す様子がバッチリ映っていた。

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