1.少女霊は世界を救いたい

Ep.4

目の前で、階段が崩れ落ちる。

「……っ!」

なけなしの反射神経で、踏み出しかけた足を引っ込めると、傍らで少し、舞依の笑う気配。

「世界滅亡ってどういうことだよ……!」

「うーん……舞依もよくわかんないんだけどね。私みたいな、幽霊とか妖怪はね、ほんとは魔界ってとこに居なきゃいけないの。それでね、そこの……王様? みたいな人が、命令? みたいのを出したんだ。『人間界はもうすぐ終わるから戻ってこい』って」

叔父か、あるいは祖母なら、この話を正しく理解出来たかもしれない。が、俺には全くもってちんぷんかんぷんだ。

「それでね、舞依、前にも言ったけどちゃんと死んでないから、その命令、受けてないんだ」

ちゃんと死んでない。それはつまり、もしかして。

「うまく思い出せないんだけど、舞依、多分車に撥ねられちゃったみたい。それで今幽霊なんだけど、なんかね、幽霊の仲間にね、舞依は幽霊じゃないって言われちゃって」

舞依は恐らく、まだ生きている人間だ。俺もそういう事には、詳しくないけれど、幽体離脱みたいな事が起きているんじゃないだろうか。

「でも、みんなが逃げ始めた時にちゃんと聞いておいて良かった。―ねえ、お兄ちゃん。舞依、このまま死にたくない。この世界でまだ生きていたい」

舞依のポニーテールが揺れた。薄い色の瞳が、真っ直ぐに俺を捉える。

「……なんで、俺なんだ」

「お兄ちゃんだけなの。舞依の事、ちゃんと見てくれたの、お兄ちゃんだけ」

見えない奴もいるし、見えても無視する奴もいる。俺だってそうだ。けれど。

「お前みたいな、小さい女の子ほっとけるわけないだろ」

俺がそう言ってやると、舞依はその大きな目をぱちくりさせた。

「なにそれ! ……お兄ちゃん、ロリコン?」

小学生め、なぜそんな単語知っている……!?

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