第4話 『ガールミーツガール2』
「――それじゃ、わたしここだから」
「…………えっ?」
すたすたと先行するサミュちゃんに着いて、人気のない建物内を進んだ先にて。
俺は一つのドアの前で立ち止まった彼女が発した一言に、困惑の声を漏らしていた。
「またあとでねっ」
そう言って、ドアノブに手をかけるサミュちゃん。ちょっ、あとでね、ってどういうこと!?
ガチャリ。
「シオーン、ただいま~」
訳が分からぬまま硬直する俺にかまわず、ドアが開かれるとほぼ同時に。
「おせぇですよサミュ、もうおなかがぺこぺこですっ! ……って、後ろの金髪、誰です?」
部屋の奥からショートヘアのロリっ娘がひょこっと出てきて、こちらに気づく。てか、初対面の人を金髪呼ばわりって……。
「あっ、この子はリリィちゃんって言って、森の中で会ったんだけど――」
「ふーん、見ない顔ですね。何年ですか?」
「えっ、シオンも? わたしたちと同学年らしいんだけど、わたしも知らなくて」
「えっ、そんなはずは……」
俺の話がされているはずなのに、当の本人が置いてけぼりな気がするのだが。俺のこと知らないのは当たり前じゃないの? もはや、ここどこっ!?
俺がそのやりとりを眺めながら、呆然としていると……。
「――あっ、ああぁっ!?」
「ふぇっ!? ど、どうしたのシオンっ!?」
唐突に、シオンと呼ばれていた子が大声を上げた。
「もしかして、あれじゃないですか!?」
「あっ、あれって?」
「ほら、今朝テレスが言ってたやつですよ」
「えっ……? あぁっ! 思い出した!」
うん。さっぱりわからん。
「えっと……どういうこと?」
俺はおずおずと口を開き、二人に問う。
こういうとき、俺はなんにも悪いことはしてないのに、悪いことしてる気分になるのはなぜなんだろう。
「あっ、ごめんごめん。わたしから説明するね」
得心した表情で、サミュちゃんがこちらに向き直る。ボクも早くなるほどしたいので、解説よろしくです。
「実は今朝ね、わたしたちの先生が『もし見覚えのない金髪ロングの女の子を見かけたら、あたしのところに連れてくるように』って言ってたの。それで、リリィちゃんがその女の子かもしれないって思って。同じ学年なのに見覚えがなかったから」
「な、なるほど……」
違う学校の生徒である可能性とか、そもそもここがどこなのかとか、ツッコミどころはあるが、詳しいことはその先生が知ってそうだ。
「それじゃあ私は、そのテレス先生って人のところに行けばいいんだね?」
「うん、正確にはテイレシアス先生だけどね。ちょうどこれも渡しに行かなきゃいけなかったし、わたしが案内するよ」
手のかごを掲げながら、あいかわらずの柔らかい笑顔でサミュちゃんが言う。と。
「ちょっと待つです」
「ん? どうしたのシオン?」
目の前を遮った手の主に、俺とサミュちゃんが振り向く。
「リリィ、とかいいましたか。小汚ねぇので、先にシャワー浴びてくるです」
そこにいたのは、ビシィっと親指でドアの向こうを指さし言うシオンちゃん。
いや、確かに今の俺はみすぼらしい服装だけども……小汚ねぇって……。
「――そしてッ!!」
「し、シオンっ?」
次にシオンちゃんは、鬼気迫った面もちで、ズイとサミュちゃんに迫る。
ゆっくりと開かれるその口を前に、俺とサミュちゃんは固唾を飲むが……。
――ぐうぅぅぎゅるるる。
「あぁっ! ……うぅぅ」
最初に沈黙を破ったのは口ではなく、お腹だった。
顔を真っ赤にして、シオンちゃんがサミュちゃんから勢いよく離れる。その姿にサミュちゃんは、ポンと手を叩き。
「シオンお腹空いてたんだねっ! じゃあ食堂に行こっか!」
「うぁぁっ! だからさっきから腹減ったって言ってるじゃないですかっ! もうみんなとっくに行っちゃったですよっ!」
「でもそんなに減ってたなら、先に行ってても良かったのに……」
「――っっ! いや、それは……その……」
まくし立てたかと思えば、唐突に歯切れが悪くなった。――はは~ん。さてはこの子、サミュちゃん大好きっ子だな?
そんな微笑ましい光景を眺めながら、ほんわかしていると。
「おっ、おい! そこの金髪! ちょっと来やがれです!」
「……ん? 俺……じゃなくて、私っ!?」
あっぶねぇ! まだ意識してないと反射的に男言葉が出ちゃうな。
部屋の中から手招きされたので、おじゃましまーす……と呟きながら、おそるおそるドアをくぐる。
「ここがシャワーです。大浴場は別にあるですけど、今はここでガマンしろです。タオルは、こっちで身体を洗って、こっちで拭くです。石鹸は中のを勝手に使えです。着替えは……仕方ないから、これでも着てると良いです」
俺が入ると、シオンちゃんは箪笥から服やら何やらを取り出し、俺に渡してくれた。
なんだ、言葉遣いは乱暴だけど、面倒見の良い優しい子じゃないか!
「上がったら、てきとうにくつろいでてかまわねぇです」
「うん、ありがとう! シオンちゃん!」
「シオンのことはシオンで良いです。ちゃんはいらねぇです」
「わかった! ありがとう、シオン!」
俺が満面の笑みで言うと、どこか照れくさそうな顔をして、シオンはサミュちゃんの下に戻った。
「それじゃ、わたしたちは行ってくるねっ」
「部屋荒らすんじゃねぇですよ!」
そう言い残して部屋を後にした二人を見送り、俺はシオンに教えてもらった扉に向かい合う。
さぁ……シャワーの時間だ!
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