褐色肌の淑女
俺は量産型そっくりの天使勢を見て呟く。
「あいつらの頭って仮性包茎そっくりだよな?」
ルーシーは尋ね返す。
「親近感がわきますか?」
「わかねーよ!」
俺は否定した。
ルーシーは含み笑いをしながら何も言わない。
「いや、わかねーよ? わかないから!? 俺は違うし!」
俺は、くだらない感想をヤメにして核心に迫る質問をする。
「で? どうやって俺にアレと戦えってんだ? 魔王の力がどうこう言ってたが?」
「これを使って下さい」
手渡されたのはバ◯ブだった。
「これを高く掲げて『
俺はバ◯ブを地面に叩きつけた。
「ああっ! 何をするんですか!?」
ルーシーは変身アイテムを拾うと、頭の部分に息を吹きかけて土埃を落とした。
そして大事そうに亀の先を片手で撫でる。
なぜか目付きがエロい。
「もうちょっと、人に見られても恥ずかしく無い変身アイテムは無いのか?」
「人に見られながら変身するヒーローなんて、余り聞いた事がありませんよ?」
しょうがないなあ、という感じでルーシーは何か別のアイテムを取り出した。
なんかカラー◯イマーみたいな奴だな。
「これを胸に付けて『
「こりゃ何だ?」
「私の力を貴方に流し込む為のアクセスポイントの様な物です」
「お前自身が戦えばいいじゃないか? 強いんだろ?」
「いいえ、ちっとも。この身体では私の力を少しでも受けると直ぐ崩壊してしまうんですよ」
「身体を換えれば、いいじゃないか?」
「世界に干渉するにあたっての制限事項がありまして、替えた所で同じ結果に……まあゲームのルールみたいなもんです」
ゲームと来たか。
さしずめ俺は、駒なのだろうか?
ま、いいや。
「職喪っ! イィセエェカイガァー!!」
『ピッ! 音声を認識できません。正しく発音して下さい』
無情な返事がタイマーから響いた。
「あ、そういうタテノリで過剰な演技とか要らないデス」
俺はフェラの頭をゲンコツで殴った。
「職喪! イセカイガー!」
タイマーの縁が割れて、中から細い無数の管が俺の身体に刺さってくる。
痛みは無かったが、俺は一時的に意識を失った。
次に気が付いた時は視界が変わっていた。
足元を見下ろすと小さなルーシーがいた。
どうやら俺は巨大化したらしい。
掌を顔の前に寄せた。
真っ白な硬そうな皮膚がまとわりついていた。
身体を見回すと鎧の様な昆虫の様な真っ白な殻で全身を覆われていた。
なるほど。
無職と無色を引っ掛けた駄洒落か……。
「これで奴等と闘えるのか?」
『そうっすよ? 超ヨユーっす!』
脳内に直接ルーシーの声が響いた。
下にいる奴を見るとニコニコ笑ってた。
フムン。
俺は屈伸すると跳躍をした。
天使の一体に向けて片足を伸ばしたまま蹴りを入れると、そのまま皮ごと踏み潰した。
そして両手で掴んで持ち上げると頭の後ろに乗せて真っ二つに、へし折る。
「……」
『無理にドイツ語で数を数えなくてもいいですよ?』
「やかましい!」
しかし仲間を殺されたというのに天使どもは、こちらを見ずに空を見上げると、一斉に羽ばたいて飛び去った。
「逃げた? 勝ったのか?」
『いいえ、あいつら別の都市に向かいましたね』
なんだって!?
「直ぐに後を追うぞ!?」
『ヒーローに浸っている所を済みませんが、ゆっくりでいいですよ?』
は?
「なんでだよ?」
『あいつらが向かっている所って結構今まで、たまたま無傷で済んでいるんで……ある程度死んでから助けてやった方がいいんデスよ』
「どうして!?」
『まだ結構神様を信じている連中が多いんで、その信仰心をへし折って、悪魔に魂を捧げても自分だけは助かりたいと願う悪魔崇拝者を増やしたいんです』
「……」
『私ら魔神と神様にとって信仰は空気や米みたいな物なんですよ。摂取しろとゴーストが囁くんです』
「……」
『だからまあ、私らのご飯の為に、満腹中枢の為にも、ここはひとつ二百万人ほど人類滅亡しない程度に犠牲になって貰って……』
「どこのヴェ◯ターラントだよっ! おまえはオーベル◯ュタインかっ!?」
奴等の後を追って新たな都市に来た。
幸い、まだ被害は軽微の様子だ。
だが天使どもに蹂躙されるのも時間の問題だろう。
「おい!」
『なんですか!?』
「◯ィヴァイディン◯ドライバーとか無いのか?」
『……これですか?』
目の前に虹色に光る球体が現れて中からドライバーが出て来た。
一番ウッドだった。
俺はドライバーを地面に叩きつけた。
「ちっがあああああぁーうっ!!」
『なんなんですか? もう! 何が欲しいのかハッキリ言ってくださいよ!?』
「こういう市街戦の時に周囲に被害が及ばない様にする為のアイテムだっ!」
『だから二百万人くらいに死んで貰わないと……』
「あーあー聞こえないー聞こえないー」
脳内にルーシーの溜め息が聞こえて来た。
また虹色に光る球体が現れ、中から巨大なワンタッチ傘が出て来た。
『今、使い方の説明を……』
「よっしゃあぁ!!」
俺は傘を掴むと地面に突き刺してボタンを押して開いた。
空間が歪んで地面が割れ始める。
『ああっ!? 使い方が違うっ!?』
傘の中心から結界が拡がって周りの建造物を押した。
拡がる球体に押し潰されていく都市。
周囲から人間の悲鳴が聞こえた。
『それは傘みたいに持って上に向かって開くんですよぅ……』
「先に言え!」
『説明しようと思ったら、先に使われて……』
「出す前に言え!」
『……はーい』
なんで傘の形してるのに地面に突き刺すかなあ?
そんなルーシーの独り言が脳内に響いた。
うーん、マズい。
前世よりも比べ物にならない位の数の人を殺してしまった。
もうヒーローじゃないな。
これからはアンチヒーローを名乗ろう。
うん。
とりあえず圧迫された建物と建物の間に挟まれていた天使どもの頭を潰してトドメを刺す。
そして俺は他の天使勢に襲われている地区へと跳んだ。
着地した俺は今度こそ傘を上に向けて開いた。
先程の球体が上空に現れて、ゆっくりと降りてくる。
今度は押し潰される様な事は無かった。
『ノアの箱船の建材にも使われた時間凍結の魔法です。これで幾ら建物を殴っても壊れ始める時間が流れないので、ほぼ破壊不可能になります。中の人も同じですよ』
「中に人などいない!」
『……いますよ?』
「……それは置いておいて、俺や天使に影響は無いのか?」
『まあ超越的存在には意味のない魔法ですからね』
よし!
これで、ようやっと暴れ放題だな!
(早送り)
俺は最後の天使の頭を皮ごと踏み潰した。
「終了ーっと」
俺は、新しい都市から近い位置にある高い山の頂に、いつの間にか立っていたルーシーを見て言う。
「おい! 全部倒したぞ!? この後は、どうすればいい!?」
『は? 何を言っているんです? まだ一匹も倒せていないじゃないですか?』
……なんだって?
周囲の首なし天使勢が起き上がり始めた。
そして再生を始める。
空から別の天使勢も飛来した。
最初に潰した奴もいるみたいだ。
みんな同じ姿だから分からんけど……。
なるほどな。
そりゃそうだ。
天使が、そう簡単に死ぬ訳がない。
そもそも死ぬ事が有り得る連中な筈がない。
「どうすれば倒せるんだ?」
『それを考えるのは貴方です』
投げっぱ!?
天使達が俺の周りを取り囲み始めた。
腰を落として両手を前へダラリと下げている。
下げていた腕を俺に向かって上げると一斉に爪を槍のように伸ばした。
やっと、こちらに注目してくれたのは嬉しいが……。
なす術が無いな。
天使勢が一斉に俺に襲い掛かって来た。
しばらくは反撃できていたが相手の数が多過ぎる上に倒しても再生してくるのでキリがない。
とうとう俺は仰向けに寝かされて、首と両腕と両足を五体の天使に抑えられてしまった。
一体の天使が俺の腹の上に跨って爪で突いてくる。
『外皮装甲は強度が高いので天使の攻撃にも耐えられるでしょうが……』
白い甲冑の様な部分は爪を弾き返していたが、僅かな隙間に偶然爪が入った。
「ぐっはあぁっ!」
巨人になったままで頭部の外皮装甲の隙間から俺は盛大に吐血した。
『あーあ、こりゃ致命傷ですね……』
また殺されるのか?
短い間でもヒーローになれた気分は最高だった。
だから死んでも悔いは無い。
あるとすれば大勢の人を、うっかり死なせてしまった事と……。
この糞天使勢を一匹だけでも屠れなかった事だ!
「おい! ルーシー! 俺は死んでも構わない! だが、こいつらに一泡吹かせる何か良い方法は無いのか!?」
『まあ致命傷でしたからね』
俺の脳内イメージの中にボタンが一つ浮かび上がった。
『それを押して下さい。自爆スイッチです。天使達も巻き込んで蒸発させられるでしょう』
ポチッとな。
俺は躊躇わずに脳内の自爆スイッチを押した。
光が中から溢れる感覚と中央に溶け込んでいく感覚。
そして意識が霧散していく。
その広がり消えゆく意識の中で俺は、ルーシーの横に立つ一人の褐色肌の女性を見た。
『やはり、貴方達の協力が必要な様ですね』
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