勇者魔王イセカイガー

ふだはる

勇者魔王転生

「よお? 気分はどうだ?」


車の窓の外からアニキが尋ねてくる。


「いい座り心地ですよ。ベ◯ツだけに、痔にもならずに、お通じが良くなりそうです」


窓の外からワンパン入れられた。


「おまえの減らず口は嫌いじゃないが、今はもう、ムカついて、しょうがねぇな」


そう言いつつアニキはニヤニヤ笑っている。


ここはプレス工場。

俺はニコイチの高級車の運転席に乗せられていた。


「しかしまあ、舎弟の分際で人の女に手を出すとはな……。つまんねえ結末だったな、おまえの人生も」


助手席にはガムテープで顔の下半分をグルグル巻きにされた女が一人。


「んーっ! んーっ!」


目や鼻から、あらゆる汁を出して声にならない哀願をアニキに向かってしている。


「自分の物なのに、あっさり捨てるんすね?」


「舎弟のチ◯ポ突っ込んだマ◯コなんざ、指だって入れたくねーわな。用済みのオモチャは一緒に処分だ」


「俺や、この女、アニキにとってはバ◯以下って事ですか? 」


「俺のウッ◯ィは他にもいるからな」


俺は女を見る。

血走った呪いの目で俺を睨んできた。


「風呂にでも沈めりゃ、まだまだ稼げそうですけどねえ」


「客に何吹聴するか分からん様な爆弾を店で使えるかよ。もって回った言い方で女を助けようとするのは、やめろや」


アニキはニヤニヤ笑いを止めて不快そうに俺を睨んだ。


そして、またニヤニヤと笑い出す。


「ま、お互いヒーローに憧れていた少年時代を経ていたから、気持ちも分からんではないがな」


アニキは窓に慈愛に満ちた顔を近づけて言った。


「残念だよお? おまえは、この業界で唯一アニメやゲームや漫画や特撮の話が出来る、俺と趣味が合う良い奴だったのにな……」


「そいつは、どーも」


俺にワンパン入れてアニキは窓から顔を離した。


アニキの背に満月が見える。


「さて、月に代わってお前を押し潰してやる前に何か言い遺したい事はあるか?」


「アニキ」


「なんだ?」


「この女、アニキのソ◯ンよりも俺のデカ◯ンの方が気持ちいいって腰振ってましたぜ?」


「んんんんんんんんんんんっ!!」


助手席から慌てた様に大きな非難のくぐもった怒声が聞こえてくる。

窓から俺の顔面にアニキの蹴りを入れられた。


「大した呆れたを通り越して気持ち悪い奴だな……。普通は、そこの女みたいに泣き叫ぶシーンだろうによ」


「ご期待に添えなくて、すいやせん」


女の目が更に血走る。


「仕方ねーだろ? もう助からねーんだし、命乞いが効かないならイヤミの一つでも言わせろや」


女はアニキでなく俺に何か言いたそうだった。

だが両手を袋付きで縛られているので、ガムテは外してやれない。


「じゃ、さよならだ。お互い次の人生はヒーローに生まれ変わりたいもんだな」


アニキは指を鳴らして合図を送る。

その所作がオタクっぽくて、俺は苦笑い顔になった。


車の上からミシミシと言う音がして、天井が迫って来る。


少しずつ、いたぶる様に車内が狭くなっていく。


頭蓋骨が、こんなに痛いのは、いつ以来だろう?


「歯医者振りかな?」


そして俺は潰された。




目が醒めると原っぱの上で横になっていた。


「あ、起きました?」


地獄や天国の割には、感触がリアルだ。


「ねえ? 目覚めたんですか?」


うるせえな。

なんだ、このクソガキは?


しかしよく見ると、そのクソガキは女で、しかも可愛らしい部類に入る奴だった。


「誰だ? お前は?」

「私の名はルーシー、この世界を守る女神です」


俺は、おもむろにルーシーの腕を掴むと袖を捲って注射痕が無いか確かめた。


無かった。


「なんだ、てめえは? 吸ってんのか?」

「いえいえ、いたって正気ですよ?」


取り敢えず、こちらの意図と質問の意味を理解するだけの知識は持ち合わせているらしい。

ガキのくせに。


「で? ここは何処だ? お前は俺に何の用だ?」

「ここは、とある異世界です。貴方には、この世界を滅ぼそうとする脅威から異世界の人類を守って欲しいのです」


脅威?

世界を守る?


面白そうだな。

退屈しのぎには、いいか。


「ははははっ! 俺はヒーローに生まれ変わっちまったのか!?」

「ヒーロー? うーん、そうですね。勇者と言えなくも無いかも……」


勇者。

いい響きだ。


「それで、俺は何をすればいい? 脅威とやらは何処だ?」

「こちらです」


紅くて太くて長い三つ編みを振りながら、ルーシーは走って行った。

俺は歩きながら跡をついて行く。


原っぱが先の方で無くなっている辺りで、ルーシーは立ち止まって手招きした。


その下は崖だった。

眼下には瓦礫の都市が拡がっている。

そこを◯ヴァ量産型そっくりの白い羽根を生やした巨人どもが蹂躙していた。


地には人々の悲鳴が木霊して辺りは燃え盛っている。


ガチじゃねぇか。


「私は魔神ルシフェラ」


ルーシーは改めて俺に自己紹介してきた。


「……フェラ?」

「そこだけ抜いて聞き返さないで下さい」


「俺の名前は田手神赤樹たてがみあかき、ただのチンピラだ。あんなの相手に出来るかっ!」


俺は自分の何十倍もの身長を持つ巨人どもを見る。

ざっと十数体はいるな。


しかしルーシーは聞いちゃいねえ。

勝手に現在の状況を説明しだす。


「しかし神様ってば酷いんですよ? せっかく私が苦労して作った堕落した人類による退廃しきった世界なのに潰そうとしてるんです」


なんだって?


「お前も神様なんじゃないのか?」


「まあ女神でもあり魔神でもありますがカテゴリとしては所謂悪魔ですかね?」


「つまりなんだ? お前が散々オイタをした挙句に救い様が無くなっちまった世界なもんだから滅ぼされかけていると?」


「正確には破滅と破壊による救世ですけどね」


ルーシーは、やれやれといったポーズを取る。


「じゃ、あれは何だ?」


俺は巨人どもを指差した。


「神の使い、天使です」


「俺は黙示録直前の世界に住む堕落しきった人類を守る為に、天使とガチバトルする様に悪魔に異世界転生されたと?」


「その通りです」


ルーシーは俺を指差した。


「貴方には我が力を分け与え魔王となっていただき、この世界を天使の攻撃から守って欲しいのデス!」


デスじゃねーよ。

気持ち悪くてリバースしそうだよ。


俺は眼下の滅びかけ……神の手によって救済されかけている世界を見た。


ルーシーに向き直って質問する。


「逃げちゃダメか?」


「駄目デス」

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