第19話 新しいルール
巨大迷路の出口はよっつある。ひとつは地底湖から海に出るコース。これは地下にあった美しい鍾乳洞を通る観光用になっている。海からは岩場を通って砂浜まで戻れるし、出口から逆走することもできる。
ふたつ目とみっつ目は地下から地上の樹海迷路に出るコースだ。樹海は複雑に絡み合った木々が道を阻み、迷路を形成している。樹海の出口はふたつあって、ひとつは崖から宿屋のそばに滑り落ちるようになっている。つまり振出しに戻るってこと。もうひとつは第二層の入り口へと繋がっている。ここは何重にも罠と聖獣たちの守りで固められている。
そしてよっつ目の出口が闘技場へと繋がっていた。
まだまだ簡易の小さな闘技場だ。戦うステージを取り囲むように観客席が置かれている。
今日は手伝うためにたくさんの聖獣たちが島に来ていて、手の空いた者たちが観客席に陣取っていた。
「なんだここは」
「あー、マスターから説明しろって言われてたんだった。あたしはそういうの苦手なんだけどさ」
マイがつっかえながら告げたのは、このダンジョンの新しいルールだ。
1.ダンジョンの入り口付近の砂浜、宿屋がある草原は人が使ってもよい。
2.地下迷路で迷った時は目玉ライトを呼ぶこと。
3.樹海迷路で迷った時は笑い袋を呼ぶこと。
4.闘技場では観客席にいるものを攻撃しないこと・観客席から攻撃しないこと。
目玉ライトと笑い袋は、このダンジョンの淀みから生み出す罠だ。地上には笑い袋を、地下迷路にはたくさんの目玉ライトを置いて、雰囲気を出してる。
コイルはこのダンジョンでも、みんなに殺し合いをさせるつもりはない。聖域と同じように体力が八割を切った者は振出しに転移させるように設定した。だがそれはルールとして書いてもあまり意味がないんだなって、薬草の森ダンジョンを作った時に思った。
書かなくてもすぐに身をもって理解できる。攻めてくるならくればいい。だが楽しもうと思う者には、思いっきり楽しんでほしい。
そんなルールだった。
調査隊の冒険者たちにとっては、拍子抜けで意味が分からないものだったのだろう。首をかしげながらも武器を構えなおした。
「早く始めろー」
「ぴーっぴーっ」
観客席からヤジが飛ぶ。人型の聖獣たちが仮面をつけているのは、一応聖域の者たちだとバレないための対策だ。
きっとすぐにバレるけど。
観客は聖域と同じように楽し気にワイワイと騒いでいたが、ヤジに怒った冒険者の一人が、観客席に向かって矢を射てしまう。まあ、誰一人動揺はせずに避けていたけれど。
動揺したのは冒険者たちのほうだ。矢を射かけた者が急に膝をついて倒れかけたかと思うと、その場から消えてしまったので。
「あーあ、だからあたしがルール説明しただろ。観客席に攻撃したらダメなんだって」
「あいつをどこにやった!?」
「そいつなら、ダンジョンの入り口近くに放り出されてると思うぜ。ここじゃ、そういうルールだから。体力ごっそり減ってるはずなんで、もう戻って来れねえよ」
マイは木刀をブンブン振り回しながら、残った六人の顔を見回した。
「さて、残ったお前らはどうする? あたしと戦うかい? その穴から逃げ帰ってもいいんだぜ」
「くっ」
冒険者たちは結局、マイを倒そうと動き始める。聖域の闘技場は一対一で戦うことが多いが、久々の乱闘にマイも顔を輝かせた。
◆◆◆
調査隊の冒険者たちが全員入り口に飛ばされると、聖獣たちはまたせっせとダンジョンの整備に取り掛かった。オープン当初は色々と調整しないといけなくて、大変なんだよ。
そうして働く中には、元ダンジョンマスターのソラと、現ダンジョンマスターのコイルももちろん混じっている。一緒に汗を流して、ああでもないこうでもないと言いあいながら、新しいダンジョンを作り上げていくのだ。
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