第14話 作戦会議
「じゃあまずは、野菜が運ばれてくるまでに、どれだけ時間があるかだけど」
「いつもの年と同じですと、あと数日後といったところだと思います」
この島の飛びウサギたちは、とても大人しい。大人しすぎる。コイルたちは遠くからこっちをじっと見ている飛びウサギたちを見てそう思った。けれどこれでも、一年の中で一番活発で攻撃的な時期なのだという。
島に撒かれる野菜を食べた後は、数日はただただ眠くて、動けないらしい。
その話を聞いて一つだけ、希望が持てることがある。
おそらく、時間が経てば薬の効果は切れるのだ。年に一度撒かれるその野菜を食べなければ、いつかは普通に元気な飛びウサギたちに戻るはず。
あと数日の間で考えなければならないことはふたつある。
ひとつはどうやって野菜を食べずに済ませるか。
もうひとつは、普通の飛びウサギに戻った彼らがこのダンジョンを維持する方法だ。
さいわいコイルたちには薬草の森の改革をした経験があった。
「きっといい方法があるよ。一緒に考えよう!」
全員が力強くうなずいた。
◆◆◆
そのまま話し合いを続け、お腹が空いたので食事にしたりダンジョンの第二層を見て回ったりして、気がつけばもう日が沈みかけていた。
良いアイディアはまだ浮かばない。
そしてコイルのダンジョン滞在時間は十時間。
まだ十二時間以上も余裕があるとはいえ、このまま最終の船に乗らないと、朝には丸一日を超えるんじゃないのか?
そう気がついたときはすでに時は遅く、渡し船の最終便はすでに出港した後だった。
「リーファン、どうしよう?」
「うーん、このままだと、このダンジョンもコイルが乗っ取っちゃう?」
「私としてはそれでもかまわ……」
ソラがまた危ないことを言いかけた。コイルはとりあえずソラの口を押さえておいた。
「最終手段としては、フェイスさんに聖域に呼び戻して貰うっていうのはできるんだよ」
「旅を中断して振出しに戻るわけじゃな」
「うん。でも一つ困ったことがあって……」
コイルたちがこの島に渡ってきていることは、渡し船の記録に残っている。特にロバや大柄なマイ、変わった衣装のカガリビを連れた奇妙な一行だ。一緒に島に渡ったみんなの記憶に残っているだろう。
それが帰りの船にも乗らずこの島から消えてしまったら、どんな騒ぎになるか想像に難くない。
ダンジョンとはいえ平和な島だけに、捜索と行方不明の原因究明のための調査はきっと大掛かりになるはずだ。それだと余計にソラ達に迷惑をかけてしまうかもしれない。
悩んでいると、カガリビが助け舟を出してくれた。
「マスター。忘れておるかもしれぬが、マスターの権限でダンジョンの外に一か所だけ、転移陣を設置することができるのじゃ。初めて薬草の森に来たときに、フェイスが言っておったであろう」
「ああ、そういえばそんなのがあったね。転移陣なら一度聖域に帰って、それからもう一度こっちに来ればいいのか。でもその転移陣って、全然使ってないから忘れてたけどデルフ村にもう設置してなかったっけ?」
「デルフ村は今はすでに聖域に取り込まれておるゆえ」
「あっ」
「あの転移陣とは別に、ひとつ設置できるようになっていよう」
「それをここと繋げればいいんだね。あっ」
コイルがソラから手を放して、急に立ち上がった。
「あのさ……僕、ちょっと思いついたんだけど」
「おー! 何を思いついたの?」
「あのね。交換留学って、どうだろう?」
コイルの思い付きは、聖域にも大きな変化をもたらすことになりそうだ。はたしてそのアイディアが上手くいくのかどうか。
コイルのダンジョン滞在時間は十二時間を超えた。
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