第15話 安全性

 コイルの突拍子もないアイディアをもとにいろいろと打ち合わせていたら、夜明け前になった。フェイスさんに転移陣の設置できる場所を聞くと、ダンジョンの外でなければ設置できないと言われ、慌ててソラに別れを告げる。


「明日、もう一度来るから」

「ええ。私もできるだけ準備して、待っています」


 小さい島なので第二層から第一層の船着き場まで戻るのにそんなに時間はかからない。未明の人のいない港を海に向かって歩いていくと、海に入るほんの少し手前で境界を過ぎたのが分かった。


「フェイスさん、ここに転移陣をお願いします」

「承知しました」


 頭の中に声が響き、目立たない小さな目印が岩の隙間に現れる。

 コイルがそっと魔力を注ぐと、一行は見慣れた自分たちの聖域へと、一瞬で戻っていた。


 ◆◆◆


「よう。いきなりの帰還だな。まだ出かけて三日しかたってないが、マイは人化できるようになったのか?」


 帰還した先は第六層の中心近く。フェンがごろんと横になったまま声をかけてくる。


「それが、秘薬がちょっと危ない薬みたいでさ」

「なんだ。じゃあ人化はあきらめたのか?」

「安全が分からないと、マイに飲ませるのは怖いから。でもさ、人化はマイが外で修行するためだったんだよね。だから修行する方法、考えてみたんだ」


 その前にちょっと寝かせて……そう言うと、コイルとリーファンは寝室に行って仮眠をとる。これまでの経緯の説明はマイとカガリビに任せておけば大丈夫!


 そしてゆっくり休んで昼過ぎに目覚めたら、みんなが待ってた。


「ごめんごめん」

「いや、マスターはちゃんと寝ないとな」


 マイが心配そうにそう言った後で、フェイスさんが口を開いた。


「飛びウサギ島ダンジョンについての計画を考察しました。一点だけ安全性に問題があります」


 フェイスさんの指摘は、コイルも気になっていたことだ。

 コイルの計画は交換留学。

 飛びウサギたちが野菜を拒否すれば、いままで静かだった島に争いが起きるだろう。それはもちろん、飛びウサギたちにとっては良いことだ。魔物とはそうあるべきものだから。けれど飛びウサギたちは非力すぎて、きっとすぐに制圧されてしまう。

 そこで、こっちから聖獣を向こうのダンジョンに送りこみ、冒険者たちの相手をすればいいって考えたんだ。ついでにマイを送り込んで修行させれば一石二鳥だと思う。そして向こうの飛びウサギたちにはこっちのダンジョンで鍛えて発散してもらえばいい。


 問題はフェイスさんに指摘された安全性だった。

 ここ薬草の森でも一番大変だったのは、いかに人も魔物も死なないシステムをつくるかということだ。

 同じようにすればいいと思ったが、ダンジョンの規模が小さすぎて、強力な冒険者たちに攻め込まれれば怪我をした魔物の避難する場所がない。


 もちろん解決策は一つ思いついた。

 怪我をした魔物や聖獣を、ここの聖域に飛ばせばいいのだ。今のままでは無理だけれど、聖域とダンジョンの間に何か強いつながりを持てばいい。

 例えば……マスターが同じ人物であるとか。


 ……。


 悩みながらも、時間は過ぎる。

 そしてその夜、闇に紛れていくつもの影が転移陣の中に消えて行った。

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