第7話 桃旗隊

 攻略隊は王国内の各地から集まった10のパーティーで結成された。

「桃旗隊」と名乗る彼らは、今や岡山村の南町では広く知られる存在である。メンバー集めも派手だったうえ、公的機関の多くはダンジョン攻略に反対だったので準備に手間取ったからだ。住人やダンジョン目当てに集まった人々からは、迷惑半分、興味半分で、出発の時はそれなりの数のギャラリーに見送られた。


 ギャラリーのあいだではもちろん、賭けの対象になっている。

「なあなあ、何日目で攻略できるのに賭けた?」

「いくら半分がA級とは言え、1週間以上ははかかるんじゃないか?だが俺は大穴を狙って3日に賭けたけどな」

「ばっか、おまえ、上まで登るだけで3日以上かかるじゃん」

「だから大穴なんだって。そもそもはした金で堅実に当たり狙ってどうするんだよ?つうか、実際カガリビ様に勝てるわけないじゃん」

「あー、それに最近ガライの剣の連中がウラに突っかかってるけど、全然勝ててないよな」

「つうか、桃旗隊が登って行ったら、闘技場どうなるんだ?俺、今週のマイ対ダンク戦は本気でダンクに賭けてんだけど」

「ああ、なんでも、普段通りに対戦するから、遠慮なく見に来いって、ギルドのダンジョン速報に。ついでに攻略戦も見せてくれるらしいぜ」

「まじか?!あー、俺も護衛雇って登ればよかった」



 お祭り気分の一般人と比べて、薬師ギルドは最初から桃旗隊に強く抗議している。ダンジョン内で採れた薬草を使った薬を桃旗隊に売らないという非売運動が起こり、それが桃旗隊の出発の遅れの一番の原因にもなった。先日ようやく、急に態度を軟化させて薬を販売して、出発することができた。態度を軟化させたタイミングが、コイルたちが準備を整え終わったのと一致したのは……そういう事も有るだろうとだけ言っておこう。




 ボビーと美女達……というパーティー名では無かったかも知れないが、エリカの知人である彼らも桃旗隊に参加していた。


「ねえボビー、大丈夫かな?」

「え、何が?」

「だってほら、あそことか、あそこにも、いっぱい魔獣がいるじゃない。本当に無視して進んで大丈夫なのかなあ」

「ああ。サキが心配するのもよく分かるよ。でも、桃旗隊の方針だからね。万が一後ろから襲われたって、俺がサキを守ってあげるよ」

「ボビー!」

「私もだ、サキ!それにボビーだって危険な時には私が守る。私はボビーの騎士なんだから」

「ありがとう、ターニャ。けど、ターニャだって女の子なんだからね」


「私も、私も」と他のメンバーも嬉し気に声を上げる。そんな幸せ者ボビーのギフトは「家内安全」。家族認定した者に対して、安心と安全と調和をもたらす。パーティーは家族同然だから。

 そして冒険者としては剣技も上手いのだが、パーティーのチームワークが抜群なのだ。A級の名に恥じない強さを持ったチームである。

 周りを歩く者たちは少しウンザリしているようだけれど。


「けどなあ……」桃旗隊に参加している一人の男が呟いた。

「桃旗隊のことを、ダンジョン側は知っているらしいじゃないか。こんなにすいすい通すなんて、怪しくないか?」

「おまえ、心配しすぎだって。何処のダンジョンでも低層は雑魚ばっかだろ?入り口入ってすぐにドラゴンが出てくる所なんて無いんだし、次の第3層の魔物は攻撃してくるからやる気も出るってもんよ」


 笑いながら仲間の肩をたたく冒険者達。怪我もなく、多少疲れてはいるがゆっくり休める場所もある。勝てば薬草の宝庫、まさに至れり尽くせりではないか。

 明日は早朝から第3層に入り、アスレチックではなく……これは冒険者ギルドから、アスレチックは絶対に壊さないようにというお達しがあったため、普通に道を歩いて登ることになっている。第4層に突入する前にもう一泊野営をするので、1日かけて第3層の魔獣を掃討する予定だ。



 そんな桃旗隊の面々に、同じ場所で野営している常連冒険者と薬師の一団は不満げだ。安全に薬草が採れて、しかも各種イベントが楽しめる。岡山村の薬師たちに大きなチャンスも与えてくれた。今まさに我々の時代が来ようとしているのに、宝の山を壊されてはたまらない。

 薬師たちはギルドの上役に、攻略隊を解散させるよう訴えたのだが、薬師ギルドとしても、この先ダンジョンがいつまでも人に優しい仕様のままだと断定も出来ず、力を削げるときは削いだ方がよいという思いもある。

「ま、腹黒秋瞑が何とかしてくれるだろうよ」


 ……表にあまり出なくなっても、秋瞑の評判、相変わらず。

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