第8話 第3層の戦い
第3層は湿地で、あちらこちらに池や沼があり、最近上層階から流れ込んでくる川ができたため水嵩も増している。沼には背の高い葦や蒲の穂が生えていて今からの時期は水連も美しい花を咲かせるのだが、うっかり近付けば暖かくなって活発に動き始めたマムシに痛い目にあわされるだろう。
ここに来るには解毒剤は必ず必要だ。
マムシは普通の動物であり、ダンジョンの
「いいか、みんな。今日は第3層だ。近道のそのふざけた通路は冒険者ギルドとの約束で使うことができない。普通の道は半日も歩けば第4層にたどり着くはずだが、第4層突入は明日だ。急ぐことはない。すべての魔獣を叩き切って、明日への糧としようじゃないか」
「おう」
「まかせとけ」
口々に答える隊員たちに、リーダーが満足そうに笑った。
「よし。ではパーティーごとに行くぞ。上で会おう!」
10パーティー、47人の隊員がそれぞれパーティーごとに移動を開始した。最初こそ遠足のように長く列を作って歩いていたが、程なく右へ、左へとわき道にそれて獲物を探しにいく。まともな道はほぼ一本道だが、さすがに上級冒険者達の集団だ。木々の枝を伝ったり、ぬかるんだ場所を上手に避けて奥へと侵入していく。
「来るぞ!ボアだ!」
巨大なイノシシが藪から飛び出して体当たりする。とっさに避けた男たち数人がぬかるみに嵌り、二人は避けきれずにサンダーボアと接触してしまった。
「うっ」
「ああっ」
ボアの纏う静電気に感電して、痺れてしまったが、すかさず仲間が手を引っ張り次の攻撃からは避けることができた。
「油断するなよ」
「すまねえ」
サンダーボアは足を止めることなく、固まって歩いている男たちに次々と突っ込んでいく。
歩きにくい足場での集団行動が、桃旗隊に不利に働いていた。だが、サンダーボアの直撃を受ける者はなく、何度かボアの突進を避けた後は、徐々に立ち位置を定め、突進してくるサンダーボアに武器を振るう余裕ができた。
何度かの剣や槍の攻撃と、木の上からの矢がサンダーボアの厚い毛皮を切り裂き、致命傷を与えられる前にドローバックした。
「やったぜ!」
「油断するな!」
鋭い叫び声と共に悲鳴が聞こえ、木の上で弓を構えていた男が巨大な魔蛇に巻き付かれた。
ギリギリと両手ごと体を締め上げられた男は、それでも果敢に足で魔蛇の体を蹴り上げ、威力は弱いが魔法を使って魔蛇を弱らせていく。
すぐさま気付いた仲間が助けに入ったが、男は力尽きて、その場から消えた。
締め上げていた得物を失った魔蛇は、とっさに逃げることができず、他のメンバーに切りつけられ、こちらもまた、その場から消えることになった。
「くっそ」
「落ち着け、此処は死なないダンジョンだ」
「ああ。でも」
「また来るぞ!」
次々と襲ってくる魔蛇とサンダーボアに、何度か動きを乱された桃旗隊のメンバーたちだが、暫く戦えばすぐにこの場での戦闘にも慣れてきて、前へと進みながら順調に魔獣の集団を倒していく。しかし、倒しても倒しても、魔石を得ることは出来ず、魔獣たちはすべてドローバックして消えていくのだ。
「ちっ、このサイズのサンダーボアなら、かなり上のランクの魔石が手に入るのに!」
「仕方ねえさ。代わりに俺たちも死なずに済んでいるんだし」
「けど、貰えるはずの報酬が消えちゃうのは、勿体ないわ」
「だから俺たちが、このダンジョンを倒すんだろう」
「そうね」
日が沈むころ、桃旗隊は第4層の入り口手前に集合した。
4人がダンジョンアウトしたが、残った者は大きな怪我もなく、43人で明日、第4層に挑戦することになる。
この辺りには、いつもは闘技場の見学のために野営している冒険者たちがいるのだが、今日は桃旗隊以外は見当たらない。
「さすがに本格的な攻略戦に巻き込まれては大変だと、冒険者たちも登ってきていないのだろう」
「まあ、ここは狭くて、他に冒険者が居ても野営する場所などないからな。ちょうど良かったさ」
と、魔獣が居なくなった第3層で携帯食を食べながら明るく盛り上がった。
普通だったら死人や怪我人がいればそんな気分にもなれないのかもしれないが、ダンジョンアウトした4人も命に別状ない事は、通信魔道具で連絡がついている。
一方ダンジョン側は死んだ者こそいないが、この時間帯の担当だった魔獣たちの殆どが、ドローバックして淀みに送り返された。
「ふっ、随分とやられましたね。あなた方は怪我が治ったら特訓です。さあ、能天気な冒険者どもが寝ている間に、3層2班は守備に就きなさい」
闇に紛れていつの間にか、第3層にはまた魔蛇とサンダーボアの一群が佇んでいる。
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