第6話 秋瞑<龍王<マツ<秋瞑

 花園に通じる小道にお気に入りの防水布を敷いて、フェイスに薬草茶を淹れてもらいながら会議を始めた。

 昼間なので多くの魔獣はあちらこちらの階層を守っている。今上に来ているのは秋瞑とフェン、龍王、マツの四人だ。

 こういう場面には大抵顔を出す天花だが、最近何故か矢羽達を束ねて、隊列飛行するのが日課になっている。今日も第1層で薬草摘みの冒険者たちに、タイミングを揃えて羽根を飛ばし、運悪く当たった冒険者をイライラさせているので、会議には不参加だ。


「昨日伝えた通り、近いうちに攻略隊が来ます。A級、B級の冒険者たちで結成された、50人規模の集団になる予定です。メンバーの詳しい情報は今、ミノルさんが調べています」


「なあなあ、それってジャンケン勝負?それとも俺様が全力で遊べるほどの奴、いるの?」


「それはミノルさんの調査次第だけど……龍王の全力って、ダンジョンの被害のほうが大きいんじゃないのかなあ?」


「そうですね。マツ、龍王にきちんと役割を教えておくように。甚大な被害を出したら、あなたも一緒に片づけさせますからね」


「え……あ、はい」


「前回の会議で話し合ったように、第4層で止める。ただし龍王と戦えるほどの実力者が居れば、早めに第5層に招き入れます。第5層の家は龍王がどうにか暴れられる程度に広げて強度を上げていますので」


 金烏のマツは異国情緒ゆたかな金髪美女なのだが、秋瞑にコテンパンにやられて以来、下僕扱いのようだ。ちなみに、龍王は秋瞑よりも威張っていて、何故かマツは龍王を上手に操縦できる。不思議な三すくみの関係である。


 そんな三人は放っておいて、フェンは一人ブンブン腕を振り回している。


「コイル、俺は人化して出るからな。久々に、思いっきり暴れられるぜ。ふふ、はははは」


「戦場の死神の復活ですか。まあ、その方が都合が良いかもしれませんね。やる気があるのは良いことです」


 秋瞑が白く輝く1メルほどの棒を竹刀のように手の平にペチペチ打ち付けながら言った。

 ウラとの戦いで棒を使って以降、棒術に凝っているらしい秋瞑は、自分の角で作る武器を刀から棒に変えた。今は1メル程だが、戦いの場面では3メルまで伸縮自在らしい。

 コイルは第5階層の花園前で待機するので、第4階層の指揮は秋瞑が請け負った。優しく微笑みながら、棒でバシバシ魔獣たちをシバキあげる秋瞑は、第4層の魔獣たちにとって、実はフェンやウラや龍王よりも恐れられている。


 その後は第2層から第4層までの罠についていろいろと検討し、夜になったらこっそり第4層には確認に行くことにした。

 それより下は夜になっても野営したり採取したりで、あちらこちらに人がいるので、なかなかコッソリ見回ることができないのが難点だ。


「夜になったらカガリビも暇になりますので、下の層については彼女に様子を聞きましょう」



 そうして、ダンジョンと家を往復しながら備えること数日、ついに攻略隊が出発したという連絡が入った。


「じゃあね、エリカ、サツキ。お父さん、お仕事頑張ってくるからねー」


 リーファンも少し悩んだが、コイルとミノルと一緒にダンジョンに籠ることにした。もちろんコイルの護衛としてなので、第5層か6層で待機するだけだ。

 エリカと赤ちゃんのサツキのことは棟梁たちとおかみさんが見ていてくれる。いざという時には、ラオウもいるから大丈夫。


「しっかり頑張って来いよ。デルフ村は、お前のダンジョンがあってこそだからな」


「はい。僕も自分のできることをするだけだから。帰ってきたらご馳走食べさせてね!では、行ってきます」


 毎日のように通い続けたダンジョンの上層部には、もはや、ここ、別荘じゃなくて本邸じゃない?と言えるほど、家具や設備が充実している。リーファンやエリカの分も含めて、着替えもたくさん置いている。コイルとミノルは服に拘りはないから、同じようなものばかりだが。

 もちろん、風呂、トイレ、キッチンは第6層に完備しているうえ、一か月は過ごせる食料や薬、予備の武器まで置いている。3人は本当に手ぶらで、気負うことなくダンジョンへと転移した。



 丁度その頃、攻略隊は第1層を通り抜け、第二層へと入っていた。

 戦わずに済む第3層手前までは素通りすることにしたようだ。途中最低限の休憩を挟んで一気に第3層の入り口付近まで進み、今日はそこで野営をするのだろう。


 明日の朝、攻略隊とダンジョンの魔獣たちが対峙する。

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