第3話 これだけは伝えておきたい「不遇のマイク」のその後
最近の日課は、早朝に草むしり、朝食を食べてその後も畑仕事。10時にはお茶休憩で、そのままダラダラと昼間で過ごす。
昼ご飯は軽く食べ、午後からはフェイスに頼んでミノル、リーファン、ポックルと一緒にダンジョンに転移して夕方まで過ごすことが多い。
時間を自由に使えるのが、今の生活の良いところだ。
ダンジョンに来ると、ポックルがまず別行動だ。第6層の淀みの部屋で、傷ついた魔獣たちの間を歩き回る。
「ひひん」「グルルル」
「ぶるるっ」「クーン」
「……絶対会話してるよね?」不思議。
そんなポックルはそこに置いて、コイルたちは第5層で、低地でも栽培できそうなものを探している。ちなみにコイルが今見ているのは薬草ではなく雑草。ツルバラモドキと呼ばれる、形がバラに似た小さい白い花を咲かせる蔦のような植物なのだが、暖かくなってきて、枝にギュウギュウに蕾を付けていたので気が付いた。ツルバラモドキの実は取り立てて言う程薬効は無いのだが、香りがよくて美しい赤い色のお茶になる。オオヒロハイナに続く主力商品になるかも。でもつぼみの時期なので、挿し木は無理かなあ。いや、強い草だし大丈夫か?とツルバラモドキの前で首をひねっている。
最近めっきり人懐っこく(?)なった魔獣たち相手に、ミノルとリーファンはよく手合わせしている。鬼のウラは強すぎて冒険者達からは恐れられて対戦相手が少ないのだが、ミノルとリーファンの二人掛かりなら互いにいい運動になると言って喜んでいる。
コイルが来たのを察して、第4層から残雪とルフが走ってきた。
ルフは今はもう、ダンジョンに住んでいる。体が完全に大きくなって、犬とごまかすことができなくなったからだ。氷狼として標準的なサイズまで育った今では、第4層で積極的に戦っている。
残雪のほうは、人化出来るフェンリルとして闘技場に立つこともあるが、無口で淡々と戦う様子がクールだ、カッコいいと数少ない女性冒険者(主に受付嬢・子持ち)に好評で、最近はあまり表に出ない秋瞑のお株を奪ったかたちだ。少し前に、どうしても刀を使って欲しいとプレゼントまでされていた。
そんな残雪だが、ウラとの戦いでコイルを乗せてからというもの、騎獣としての生き方に目覚めたらしく、コイルが来るたびに乗せて走っている。
それが気に食わないのがルフだ。
「オオーーーン」
「ふっ。遠吠えしている狼など放っておいて、マスター。さあ、出かけましょう」
「ウウウウ、ガウガウ」
「さて、何を言っているのか分からないな」
まあまあと宥めて、ルフと残雪に順番に乗るコイルは、最近ではすっかり狼に乗るのも上手くなった。ルフのふさふさの首の毛を掴んで、乗ったまま滝を登ることだって出来るのだ。
残雪はルフより大きくて動きも安定しているので、先日から乗ったまま矢を射る練習を始めた。いざという時にコイル自身も戦えるように。
(残雪が単体で戦った方が強いが、それは言ってはいけない)
そういえば最近のダンジョンではもう一つ、あれのことを語るべきだろう。
本来第2層のステージで司会進行の為に作られた罠である「マイク」。毎日毎日、いろんな人に掴まれて、本来の役目である喋りもさせてもらえず、興奮した解説者の唾が飛んでくるわ、たまに机に叩きつけられるわで、仕事が終わった夕方には、ぐったりと近くの淀みのそばで体を休める毎日だった。罠だけど。
魔獣を生み出さない淀みのエネルギーを放出するために作られた罠たちは、何気に高性能である。けれど役目を果たせていない彼らは人呼んで「不遇のマイク」。そんなマイクたちがある日、一斉に進化した。使われることがなかった「喋る」機能を「効果音を出す」に変えることに成功したのだ!
思えば、エリカに怒鳴られてハウリングを起こしていたのがきっかけだったのかも知れない。今、第2層と第4層では、「バキッ」「ピンポーン」「ドドーン」「ぴゅるるるー」「チッチッチッチッ」「あーーーれーーー」など、様々な効果音が日々生み出され、勝負に彩を添えている。夜になれば淀みに集まって互いに効果音を披露する彼らが、今後どんな進化を遂げるかが楽しみである。罠だけど。
夕方までダンジョンの上層で賑やかに過ごして、ツルバラモドキも一枝採取してから家に帰った。家では、午後は留守番をしてくれているおかみさんが晩御飯を作って待っていてくれる。
「棟梁たちは?」
「ああ、今日はみんな少し遅くなるよ。ギルドセンターが今日建ったんで打ち上げに行くってね」
「へえ!ついに出来たんだ。冒険者ギルドも農業ギルドも、仮設事務所で大変だったもんね」
「まだ内装はこれからだけど、暑くなる前に出来上がりそうだよ」
ギルドセンターは1階が貸店舗、2、3、4階が貸事務所と倉庫になっていて、ヤマト王国に認可されたギルドのみ借りることができる。貸店舗は今のところ、農業ギルドの直売所と冒険者ギルドの受付、薬師ギルドの薬草買取所、そして新しく出来たデルフ屋台ギルドが入ることが決まっている。
ギルドセンターの他にも、デルフ村の東側にはいくつもの建物が建設中で、その合間にあるツリーハウスも、簡易宿としてすでに本格稼働している。外壁が出来上がり結界も設置された。安全になったことで、戦う術を持たない人たちの移住も始まり、日々デルフ村の発展は続く。
そんなのんびりフワフワとした日々を過ごしているコイルたちに不穏な情報が入ったのは、一週間後のことだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます