第13話 リア充の近況報告

「えーーーー!ダンジョンマスターって、まーじーでーーー?」


 今までで一番良い反応を返してくれたリーファン。

 エリカは腕組みしたまま、頷いている。


「何かやらかすとは思ってたけど、ダンジョンマスターとはねえ」


「いや、コイルなら、ありえるぞ。それで、護衛を必要としているのか」


「うん。でも僕、これから霧衣の頂上に登って、途中ですごく強いかもしれない魔物と戦う可能性があって、結構危険だと思うんだよね。だから無理にとは言えないけど」


 困ったように言うコイルを見て、リーファンとエリカは顔を見合わせて2、3言相談した後、にっこり笑って親指を突き出した。


「オッケーだよー。俺も未知の魔獣見てみたい。けど、エリカはその旅はちょっと無理そうだから、うーん。じゃあその間、ダンジョンの魔獣を鍛えてやる?」


「ああ。今は少し、具合が悪くてな」


「どうかしたの?大丈夫?」


「ああ。その、なんというか……子供が出来たんだ」


 柄になくはにかみながら、いや、エリカは見た目は相当な美人なので頬を染めても似合うのだけれど、山田村で別れてから後の事を語ってくれた。


 山田村でコイルと別れたエリカは、リーファンと共にコトに向かって旅を続けていたが、以前からの思いが通じて、恋人同士になった。そしてなんと、コトにたどり着く前にカンサーイの街に滞在していた時に、エリカの妊娠が発覚したのだった。流石に安定期に入るまでは冒険は自粛し、そのままカンサーイに留まっていたのだが、そろそろ安定期に入るので、今後のことを相談した結果、コトに行くのは止めて、コイルが言っていたデルフの森を見に行こうということになったのだった。

 丁度その頃、岡山村のうわさも度々カンサーイで聞くようになった。曰く、ダンジョンが改変して安全になった。有名な薬師が全国から岡山村に集まりつつある。腕自慢の冒険者がこぞって薬草の森ダンジョンに登っていく。そばにできた村の屋台村が面白いらしい。などなど。


「特別、コトの街に目的があった訳でもなかったのでな。あの辺りには手ごたえのあるダンジョンが多いとは聞いていたので、それが楽しみだったのだが、子供のことが落ち着くまで、数年は本格的に潜るわけにもいくまい?静かに過ごすならどこがいいかと考えて、そうだ、コイルに会いに行こうかと。リーファンも賛成してくれたのでな。岡山村に着いて程なく指名依頼が入り、コイルが行方不明と聞いて、驚いたぞ」


「まあ、今のほうがもっと驚いたけどねー」


 間延びした声で、リーファンが合いの手を入れる。

 30前くらいで軽そうな男だが、A級冒険者で実力は超一流だ。「引きが強い」というギフトもちで、本人は美味しいリンゴを選ぶときにそのギフトの恩恵にあずかっていると言い張るが、実際は何処からともなくトラブルを引いてくるらしい。

 エリカはこの世界「第二の人生」ではありえないような強力なギフト「ほろびのじゅもん」を持っているが、今はもう使えない。だが最終兵器を失ってなお、「魔王」と呼ばれるS級冒険者だ。


 ミノルも二人を見て納得したらしく、あっという間に意気投合していた。

 棟梁たちとエドワードは、コイルとリーファンたちを引き合わせたら早々に「ではな。コイルも無理をせず、困ったことがあれば私に言ってきて欲しい。留守は任せなさい」

 と言って出て行った。エドワードの隠れ家も、完成に近づきつつあるようだ。


「それにしても、エリカさん、魔獣たちの特訓に付き合ってもらっても、身体は大丈夫なの?」


「ああ。一度医者に診てもらったが、健康に問題はないので、安定期に入ったら適度な運動はしても良いとのことだ。だが、無理はせぬよ。リーファンに心配をかけるわけにはいかないからな」


「そうそう。でもエリカは指導も上手だから、良い先生になると思うよー!」


「……」


「……流石、新婚だな」



 突っ込みがたい雰囲気を醸しながらお互いを見て微笑みあう二人。それを見て、言葉をなくす二人……。

 何はともあれ、心強い仲間を迎えることができた。早速インターフェイスにパーティーとして登録してもらう。


 この後は、コイルとミノルは表には出ず、リーファンとエリカに旅の支度を整えてもらうことにした。コイルたちはエドワード様から密命をうけて、近辺の山に魔獣の調査に向かったという体裁を整え、後日内々にエドワードから冒険者ギルドと傭兵ギルドへと知らせが行くよう、手配した。

 ギルド内でも知り合いが増えてきたので、心配をかけたまま出かけるのは心残りだが、その分しっかりと山でお土産を探して来ようと決心するコイルだった。


 3日後、今度はしっかりと旅の支度を整えて、棟梁たちにもあいさつし、後を頼んでから、コイルとミノル、リーファン、エリカの4人はデルフ村から消えたのだった。

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