第12話 再会

 少し事情をきいて、コイルがポロっとこぼした内容の深刻さに青ざめた大工3人組は、コイルを正座させて小一時間、説教タイムに費やした。

 一方秘密が無くなってすっきりしたコイル。話に区切りがつくのを見計らって、しびれた足を伸ばして、「散歩してくる!」と外に出て行った。


「それにしても、ダンジョンマスターとは……」


「ミノル、大丈夫か?保護者なんだろう?コイルのボケボケ具合は、相当なものだよなあ」


「言っちゃったー!とか、お気楽過ぎますよ」


「……巻き込んですまんが、このことは他言無用でお願いしたい。バレたらすっきりして、今まで以上にお気楽になると思う。棟梁のおかみさんもここに住んだら、きっとすぐばれると思うので、来たら話して口止めしてもらっても良いだろうか?それが難しいようなら、いっそ他の家に住んでもらったほうが安心なんだが」


「おう。うちのは口は堅いほうだ。心配ない。外で喋れる内容でもなかろう」


 いや、ここにいるメンバーよりもコイルの口が心配だ。

 他の人に説明するシナリオを、しっかり描いて覚え込ませようと、4人の意見がまとまった。


「あともう一人だけ、エドワード様には話しておきたいと思うんだが、エドワード様はコイルのことは?」


「ああ、留守中に一度来て、行方不明なのは知ってる。心配してたよ。俺たちは今日休みだって知ってるから、ここに来るんじゃないかな?」


「内緒にするのはもちろん大切ですが、もし他の人達にもバレたら、その時どうするかを今のうちに考えておいたほうが良いでしょうね。ほんとにもう……でもまあ、可愛い弟分だから、頑張りますか」


「すまんな。ありがとう」



 ミノルが簡単に事情を話して、棟梁たちに協力を求めていると、バタバタと階段を上がってくる音がした。


「見て、見て、見て!これ、すごいよ!」


 両手いっぱいに抱えているナスやトマト、キュウリなどは、そろそろ枯れる季節だというのにまだ十分食べられるだけの実をつけていた。


「植えるのが遅かったからダメかと思ったけど、いっぱい実が生って嬉しいよね!サラダにしよっと」


 コイルが嬉々としてキッチンで野菜を切り始めると、仕方ないなあとみんな肩をすくめて、パンや卵を出して朝食の準備を始めた。

 遅い朝食を食べ始めた頃、エドワード様が来て、朝の騒動再び!という感じで食卓は盛り上がった。


 食事も済み、レイガンが淹れてくれたお茶を飲むころ、エドワード様にも事情説明が済んだ。

「なるほど。ミノルの退職の理由がようやくわかって、すっきりしたよ。それにしてもコイルくん、もう少ししっかり、秘密が守れるように訓練せねばいかんな。開けっぴろげなのもよいが、助けてくれるミノルや棟梁殿達に迷惑をかけるようになるぞ」


「はい。次からは、本当に気をつけます。でも、エドワード様も、それからミノルと棟梁さんとケンジとレイガンも、僕のことを受け入れてくれてありがとう」


「まあ、ダンジョンマスターと言っても魔物になったわけではないですし」


「そうだな。放っておいて崩壊でもしたら、困るのは皆同じだ」


 先の第3層が壊された裏事情なども、濡れ衣を着せられた冒険者ギルドに申し訳なく思いながら報告したが、冒険者たちも楽しそうに工事していたし、領から補償をしておいたので問題ないと言われ、ほっと息をついた。


「岡山村としても、この……コイルくんがダンジョンマスターになってからだな?改変が終わって、ずいぶん良い方向に発展しつつある。領主としても出来ればこのまま、コイルくんには頑張ってほしいと思っている。ミノルは腕もたつし信頼できる護衛ではあるが、どうだ?私からも護衛を付けさせてはもらえないだろうか?」


「護衛……ありがたいですが、僕たちこれから霧衣の山頂に向けて旅をしないといけないので、ダンジョンマスターってバレちゃうと思うんですよね」


「いや、丁度な、コイルくんたちが行方不明だったので、私の個人資産で冒険者を二人雇って探させる手配をしておった所なんだよ。棟梁たちとも相談して、今日の午後にここに来てもらうつもりだったのだが、その二人が護衛にピッタリだと思ってな」


 黙って話を聞いていたミノルが、ふと顔を上げてエドワードに尋ねた。


「それは、エドワード様の直感ですか?」


 エドワードのギフトは「適材適所」

 部下をその適性に則して配置する才能がある。領主となった今では、その影響範囲は岡山村の住人に対して広く影響を及ぼしていた。

 そんなエドワードが、コイルの護衛に付けようと思った二人ならば、あるいは……


「そうだな。直感だ。コイルの秘密を語っても問題ないと思うぞ」


「エドワード様がそういうなら、任せてみよう、コイル」


「うん。えっと、会ってみるよ」



 そして午後、コイルの家の庭に、二人の冒険者が巨大な馬に乗って訪ねてきた。

「やっほー!久しぶり、コイル!なんだ、家にいるじゃん!」

「久しいな、コイル。行方不明と聞いて心配したぞ」


 巨大馬ラオウから飛び降りた冒険者二人。

 それはリーファンとエリカだった。

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