第11話 保護者たち
人付き合いが煩わしい。
コイルのギフト「パーソナルスペース(PS)」は、そんなコイルの性格を体現している。
一緒に居れば陽気で、ほのぼのとした性格の素直な少年コイルが、孤独を好むPSというギフトを持つのは意外だが、この素直な性格こそがひとつの原因だった。
騙すとか、ごまかすとか、そういうことがコイルは苦手だ。いや、嘘をつけないわけではない。知っていることを言わずに黙ってやり過ごすことも、当然だが多々ある。だが、親しく付き合ってきた人、心を開いた人に対して、ごまかしたり嘘をつくのが、本当に苦手だ。
いっそのこと、最初から親しくならなければ良いと思う程に。
ゴン!
俯くコイルに、いつものようにミノルのゲンコツが落ちた。
「コイル、顔をあげろ。話せない理由を、しっかり話せばいい。ケンジも、棟梁もレイガンも、心配しているだけなんだから」
息苦しそうな顔をする皆に、はっとして、ギフトを引き締めるコイル。
「でも……」
「皆も、心配をかけてすまなかったな。少し、時間がかかるかもしれないが、落ち着いてコイルの話を聞いてくれないだろうか」
「……ああ。分かってる。こっちこそ、怒鳴ってごめん」
静かにコーヒーを進めるレイガンに促されて、少しづつ、ポツポツと話せない理由を話し始めた。
親しい人にトラブルが降りかかった事。転移で呼び出されたコイルたち。
何処で誰にあったか言えないのは、自分の命に係わるから。
怪我人がたくさんいて、世話をしたこと。
ポックルとルフをそこに預けていること。
しばらく旅に出ること。
色々あって、全部話したいけれど、話せないのは辛いということ。
「ごめん。僕、事情を話す勇気がないんだ。心配かけたのに……」
油断すればジワリと広がりそうになるギフトを懸命に抑えながら、前を向いて言った。
棟梁は黙って目をつぶっているが、ケンジとレイガンはしっかりコイルを見ながら、苦笑した。
「俺の方こそごめん。急に消えたからさあ。事情があるって分かってるんだ。けど、ああっもう。泣きそうな顔しないでよ。」
「ケンジも心配して、仕事の後とかにあちらこちら探してたんですよ。でも、本当に無事で良かったです。私たちも、急に現場から大工たちが数人抜けることになって、バタバタしましたので、昨日、おとといは休みも取れなくて。ようやく今日が休みになりました」
どうやら領主のエドワード様の声掛けで、あちらこちらの建築中の現場から第3層の修理に1、2人ずつ人を借りたようだ。
「だから、今朝はのんびりしてるんですよ。コイルとミノルが大丈夫なら、朝食を食べて新しく出来た家具とか、庭とかを見てください。まあ、忙しかったので少しだけですけどね」
「うん。ありがとう!」
「そういえば、これから二人はしばらく旅に出るって言ったけど、俺たち工事の期間中、ここに住ませてもらっててもいいのかな?」
「もちろんだよ!」
「ああ。放っておいてすまないが、人が住んでいるほうが安心だ。俺からもよろしく頼む」
「工事はまだ多分年単位で続くので、うちの仕事も当分途切れることはないと思います。ここに居させてもらえればとても助かりますので、改めてよろしくお願いします」
急速に発展しつつあるデルフ村は、徐々に人口を増している。住居の確保も、近隣から大工を集めて急ピッチで進んでいるが、まだまだ時間はかかりそうだ。棟梁は出張が長引きすぎてしびれを切らしたおかみさんが、近々こちらに出てくるらしい。
大工たちの仮設の領もあるので、そちらに二人で住むというのを、コイルとミノルで引き留めて、おかみさんもこの家に来てもらうことにした。
「僕たちがいなくても、気にしないで自分の家のように住んでっておかみさんにも伝えてください。旅もそんなに長くは掛らないと思うから、帰ってきたら僕たちもよろしくお願いしますって」
ようやく、いつもの屈託のない笑顔が出始めて、空気も和らいだ。ケンジがしみじみと、コイルを見て言った。
「コイルほんと、優しいっていうか、人が良いっていうより大雑把だよねえ。俺たちのこともすぐ受け入れてくれたし、家に入れて、おかみさんまでさ。もしかして、ごまかすのが苦手でいっそ逃げたいとか言うのも、大雑把だからじゃない?仲良くなると、雑だから、話せることと内緒のこと、区別するのが面倒になって、それで嘘つくのが苦手なんじゃないの?」
「雑かなあ?えへへ。ダンジョンのみんなにも言われた。マスター、雑だからあっち行っててって」
「……マスター?」
「……ダンジョン?」
……
……
……
「あ、言っちゃった」
コイル以外の全員の気持ちが一致した。
それ!言っちゃダメなやつだからーーーーーー!
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