第8話 再開にむけて
襲撃の夜から7日後の夜、第6層の会議室には主だった魔獣たちとコイルとミノルが集まっていた。今後のダンジョンの方針について話し合う会議である。
昨日までに殆どの魔獣たちは無事回復し、第3層の工事もまた、今日終了した。
昼に、領主の使者と冒険者ギルドの担当者が第4層に上がってきて、カガリビと少し話して帰っていった。
「人間らは、明日からまた第4層でバトルがしたいというておった。構わぬと返事をしておいたゆえ」
すっかり傷が癒えてますます美しいカガリビが扇子で口元を隠しながら、ほほほと笑った。
「まだ、秋瞑さんが起きませんので、しばらくの間カガリビさんに第4層のバトル側を任せても良いですか?」
「かまわぬよ」
「第2層はね、きゃははは、全っぜん、問題ないし。ボクでオッケーって感じ!」
「第3層がの、今までわらわが見ておったが、新しく格が上がった者に任せてはいかがかのう」
カガリビが席を見渡す。この会議には人化出来る魔獣が集まっているのだが、この戦いで4体、新たに人化出来る者が増えている。
鬼熊のガクとココ。ガクは人化してなお2メルを超える巨体の髭の濃い男で、ココは逆に、鬼熊にしては小柄な、しかし180センチ以上はありそうだが、全体的に毛が白っぽい女子だ。
サンダーボアの里駆りくは160㎝ほどの身長だが体重は100キロを超えるのではないかと思われるコロンと大きな女の子。丸顔で赤いおかっぱ髪が印象的だ。
そして氷狼からフェンリルに進化して後、人化までできるようになった残雪。細く引き締まった体に長い手足を持つ、銀色に輝く髪の男性だ。
「リクです。マスター、第3層はサンダーボアと魔蛇が守ってるから、あたしが行きます。カガリビ様、喋れる魔蛇を一体補助につけてください」
「それは良いがの、この場のトップはコイル様。わらわが様を付けて呼ばれるのも気兼ねゆえ、カガリビと呼んでおくれ」
「あ、は、はい。申し訳ありません」
「あ、え、っと。僕もコイルで、様はいらないよ。ややこしいから、全員呼び捨てでお願いします」
長い間このダンジョンを率いてきたカガリビやフェンは、魔獣たちから尊敬されている。コイルは馬鹿にされている訳ではないようだが、若くてひょろい見た目からか、今一つ、軽く見られている節もある。
それは、あるいはコイルがギフトをしっかり制御して、他者を排する気配が無くなったからかもしれない。
「じゃあ、第2層は天花に、第3層はリク、第4層は守備は氷狼中心に、闘技場のバトルは鬼熊中心で、差配はカガリビにお願いします」
「鬼熊はずいぶん数を減らしてしまったが、今まで通りのバトルのスケジュールで大丈夫なのか?」
ミノルが心配そうに言う。実はここにはコイルと一緒に何度か来ていたミノル、暇な時間に戦闘狂のフェンや鬼熊達と何度か手合わせをしていた。人化する前のガクやココとも顔見知りだ。
ガクは黙って頷き、ココは笑いながら手を挙げた。
「大丈夫っす!人化してみたら、体が軽くて動きやすいっす。今ならミノルにも勝てる気がするっスよ」
「残雪や守備組にも順に手伝ってもらうゆえ、問題なかろうよ。皆の強化のためにも、逆に対戦を増やすのもよいかのう……」
先の戦いでは、このダンジョンにとっては少ないない戦力を失った。
普通だと淀みの魔力を多めに凝縮して強い魔物を生み出すことが出来るが、このダンジョンの淀みでは、コイルのギフトの影響で魔獣が生まれなくなっている。魔獣、魔物に対して、ここでも生み出せる罠に類するものは、威力を高めても応用力がなく、すぐに侵入者に対応を学ばれてしまう。
簡単には戦力の強化が出来ないのが、悩みの種だった。
今のところ、冒険者達とは良い関係を築けている。このダンジョンは人間にとってもメリットが大きく、死亡のリスクも少ない。無理をして攻略を目指すよりも、今の関係を維持したいと思うだろう。
ダンジョン側と話が通じると分かって、領主からは内々に使者が送られてきた。領主、エドワードにとっての懸念は、魔獣たちが死なないことで、ダンジョンの崩壊とスタンピードが起こらないかということだ。それに関しては簡単に現状を説明し、魔獣たちのストレスが上手く解消されれば大丈夫だと伝えてある。
問題は、先の襲撃がきっかけで、別のダンジョンマスターに目を付けられた可能性があるということだ。ダンジョン破りはインターフェイス達によって、ネットワークを通じて共有されるデータだ。今回襲ってきたドラゴン男は、カンサーイの北、コトの近くにある遺跡のダンジョンのマスターだった。人間の街に紛れて遊んだり、あちらこちらのダンジョンを冷かして旅していたのだが、この薬草の森ダンジョンのあまりにもお気楽な雰囲気にイラついたらしい。低層で発散できなかったのも原因の一つだったようだ。
今回思いがけず、ドラゴンが本気を出して、しかも敗れたという情報が上がり、各地の暇を持て余したダンジョンマスターがここを見に来る可能性があるのだ。
「普通に素直に、ルールに従って闘技場で戦ってくれたら良いんだけどねえ」
そうは願えども、対策は必要なのだ。
闘技場での戦いも、こちらが強いからこそ成り立っているのだから。
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