第9話 守りを強化しよう

「ダンジョンの強化に関して、事例を検索しました。ふたつの提案があります」


 インターフェイスが語り始めた。


「第一の案は、守りの強化。今の魔獣たち全体の力を底上げします。魔獣たちは長く生きればそれだけ淀みから魔力を吸収し強くなりますが、戦い、回復することによってさらに強化されます。今のままでは戦闘回数が少ないため強化も第3、4層の一部の魔獣のみですが、魔獣が戦闘訓練を行う場があれば、もう少し戦力の底上げが出来るでしょう」


 必ずしも決まった法則ではないが、一定以上力を増した魔獣は上位種に進化することがある。今回の氷狼がフェンリルに進化したのがそれだ。

 フェンはダンジョンマスターになるべく生まれながらに多くの魔力を蓄えて生み出されたフェンリルだったが、残雪は普通の氷狼だった。この数か月、以前より多くなった第4層の冒険者たちと積極的に戦って何度かドローバックもしている。群れの中でも長寿であったこともあわさって、今度の戦いの怪我を回復する過程で進化したのだ。

 同様に、他の魔獣たちにも進化の可能性があるし、数が多い矢羽が雷羽に進化すれば、戦力としては強大になるかもしれない。


 だが、問題もないわけではない。それは魔獣本来の性質だ。

 魔獣は人と戦いたいのだ。「戦闘訓練」という理由で魔獣同士で戦うことは、すでに長くを生きて人と近くなった上位の魔獣には理解できても、下位の魔獣には難しい。第4層で闘技場を担当することが多い上位の魔物はすでに、戦闘訓練を実施しているし、その成果を後日闘技場で実感できるのだ。下位の魔獣には訓練の意義も、そして仮に進化したとして、その成果を発揮する場もすぐにあるとは限らない。


「どんな形で訓練するかは、少し考えねばならんの」


 しばらく考えてから発言したのはカガリビだ。

 フェンも頷く。


「第2の案は、同じく守りの強化を目的としていますが、外部魔獣の勧誘です」


「勧誘って?」


「ああ、アレじゃねえ?コイル、外の矢羽を大量にダンジョン内に追い込んだだろ?」


 フェンが手を叩きながら、なるほどねえと頷いている。


「けど、弱い魔獣が増えてもなあ。俺たちがバトルし甲斐がある相手がほしいよなあ。この前のトカゲ野郎を引っ張ってきて、もいっかい叩きのめせば、下僕になるか?」


「フェン!」


「無理でしょう。あのドラゴンは取れる限りの体力と魔力を抜いておきましたので、現在自分のダンジョンでの覇権争いにしのぎを削っています。勝ち残ったとしても当分外に出る余裕はないでしょう。

 私からの提案としては、近くの淀みをマスターの力でこの近くに転送させる事を推奨します」


「近くっつっても、すぐ近くにあるのは、あーっと……青狸だろ、鬼熊……はいいけど、最近あそこの鬼熊、ゴッソリやられたらしいし、ネズミやウサギは論外だし、猿系は嫌いだし……」


「フェンの好き嫌いはどうでもよいが、猿鬼はわらわも、やめたほうが良いと思うのう」


「そもそも、淀みをこっちに転送って、あの矢羽の時は偶然だよ?」


 外の様子を知っているカガリビとフェンが、近くにある淀みのことを話しているようだが、そうそう上手く行くものかと、慌ててコイルが止めに入った。


「それに、淀みをこっちに持って来ても、魔獣は出て来れないよね?」


「大丈夫です、マスター・コイル。マスターがギフトで淀みを封鎖したとして、何もしなければその淀みがどこに出口を求めるかは分かりませんが、私が監視しつつわずかに介入すれば、この近くに誘導出来る可能性はあります。また、淀みを取り込めば、それに帰属する魔物をこちらに引き込めるかもしれません」


 淀みは前世の世界にあふれる負の感情をこちらで使える形にして地中から噴き出している、魔力の泉のようなものだ。一部は空中に発散するが、蓄えられた魔力から魔物が生まれる。淀みにはそれぞれ、インターフェイスの簡易版のような機能があり、生み出す魔物の種類や系統はだいたい3種類以内のことが多い。淀みに余裕があれば、魔力を沢山溜めて強い魔物を生み出すことが出来る。

 弱い魔物もまた、長時間淀みの傍で生き残ることによって、だんだん強くなっていくこともある。

 淀みが大きくなり、強く賢い魔物が生まれ、それを倒す可能性がある人間達が傍に居ればそこはダンジョンになるのだが、人が来ない場所の魔物たちは、そこでただ長く存在し、強くなり、やがてある日、災厄となって人の世に現れるのだ。


「そして、朗報があります、マスター・コイル。この山、霧衣と呼ばれていますが、このダンジョンの外、第6層がある中腹より上の部分に、いくつかの淀みがあります。人が全く近寄らない山ですので、強力な魔獣が育っている可能性があります。その魔獣を少し痛めつけて、その間に淀みをこっちの方に弾き飛ばしてもらえれば、魔獣をダンジョンに勧誘できるでしょう」


 まあ、多少苦労はすると思われますが、淀みは何個かあるので、一つくらいは成功するでしょう。放っておけば、何年後か、何百年後か分かりませんが、災厄となってこの辺りも巻き込まれますし、今のうちにガツンと行っときましょう。

 ……と、インターフェイスが言った。


 フェイスさん、だんだん人間らしくなっている気がします。

 で、ガツンとするのは誰ですか?


 ……僕、虚弱なんですけど。

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