第30話 ミノルとコイル

 思ったよりも早く家が決まったので、そのまま昨日の続きの買い出しをして、午後にはデルフの森に戻ることになった。



 食品保存用のクーラーボックスを追加で一つ買っておいた。今持っているものと、冷蔵と冷凍で使い分けようと思う。

 今回は大工たちの賄いもするので、二つのクーラーボックスに食料品をギュウギュウに詰めた。米も大量に買っておく。今までのように適当に堅パンと言う訳にもいかないだろうから。ついでに食器や鍋も買い足した。


 キッチン周りが充実しそうだ。

 ……キッチンは屋外の簡易かまどだが。



 ミノルはミノルで、調味料や日持ちのするパンを買ったり、小動物を狩って貢献してくれるらしい。

 こうして何日か一緒に過ごすと、コイルの中ではもうミノルは家族のような気がしていた。

 年齢的にはお父さんだが、感覚はお兄さんだろうか。

 10台もベッドを作ってもらうことにしたので、ミノルの部屋を一つ作ろう。



 荷馬車を満載にして、ポックルとミノルと、並んで歩く。

 今までは、パーティーを組んでいた時も離れて歩くことが多かったし、2人、2人、1人の組み合わせだった。その後は言うまでもなく、1人で旅してきた。

 家から出るときはあまり寂しいとも思わなかったけれど、こうして誰かと並んで歩くって、良いものだなあと思う。

 明後日からのご飯のメニューをどうしようなどとミノルと話していると、ポックルも「ひん、ひん」と相槌をうってくるのも無性に可笑しくて、笑いながら街道を歩いた。



 野営場所では、なんだか慌ただしく人が出入りしていた。

 コイルはそのまま通り過ぎ、ミノルは本部テントに様子を見に行く。


「すぐ追いかけて荷物は一緒に運ぶから、無理するな」


「うん、ありがとう。ゆっくり運んどく」


 街道から家の木までは、何度か荷馬車で出入りしたので道もしっかり踏み固められてきた。

 荷馬車を停め、荷物を持って小川を渡りながら、荷馬車が渡れる橋があればいいなあと思う。

 色々と欲が出るのは良いことだ。そうして段々と、ここがコイルの住処になる。



 何往復かして魔道具を運んでいたら、ミノルが戻ってきた。

 そこからは二人で、重いクーラーボックスやてっぺんにワサワサと葉が付いたメルの木の苗を、えっちらおっちら運んだ。


「セメントの木の粉は良いな。明日はこれで、トイレを作ろうと思う」

 なぜかコイルよりもやる気になって、水回りを整備しようとしているミノル。

 トイレはかまどと反対側の風呂場の隣に作る予定だ。トイレ用の魔道具は奮発して良いものを買ったので、設置すればその場で分解、浄化、消臭をしてくれる。ただし紙は買ってきていないので葉っぱ。そして壁無しのオープントイレである。


 女子は呼べない。




 夕方、日も暮れかけたころ、たき火代わりのかまどの前に座って、燻製の大ネズミの肉を薄く切って焼く。独特の肉の匂いと燻された木の香りが立ち上る。

 肉の隣で、今日は草ではなく玉ねぎとカボチャを焼く。

 鍋にはシチュー。牛乳は日持ちがしないので、クリームシチューは買い物に行った日の贅沢だ。

 金属製の樽型のサーバーを、テーブル代わりの切り株の上にドンと乗せた。樽は魔道具で、ビールを冷やして保存できる。

 木のコップに注がれたビールはきれいな白い泡をたてた。

 ライトの魔法でぼんやり明るく照らされて、ささやかな贅沢に笑みがこぼれるコイル。


「なあ、コイル。聞いても良いか?」


 ミノルが静かに話し始めた。


「なに?」


「お前、何故ここにいるんだ?


 ……ダンジョンマスターなんだろう?」

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