第29話 衝動買いのコイル

 魔蛇と人間がちょうどいい勝負になるものなんて、全く思いつかなくて、そのまま寝た。

 朝、インターフェイスとは連絡を取ってみたが、昨日は特に変わったこともなかったらしい。第3層の対策、1週間以内に考えてくださいねと、期限を決められた。



 近くの屋台で簡単に朝食を済ませ、8時にはミノルと待ち合わせて、まずは冒険者ギルドに顔を出した。掲示板付近は閑散としている。冒険者の朝は早いので、8時には大半が今日の依頼を決めて外に出た後なのだ。

 依頼を受ける予定はないので、さらっと掲示板を流し見てから、ユーインに挨拶していくことにした。


「あの、ユーインさん居ますか?」


「はい。少々お待ちください」


 受付のお姉さんが呼びに行ってくれたので、近くの椅子に座って待つ。

 ギルドの受付は市役所みたいなカウンターだが、あちらこちらに椅子が置かれていて、受付中のパーティーメンバーを待ったり、報酬の計算を待つ間座って、コーヒーを飲んだりできる。

 朝早い時間や夕方は、あちらこちらの椅子で楽しそうに喋っている冒険者たちが見かけられるが、今はこちらも人が居なくて、受付も暇そうだ。


「ミノルさんは冒険者ギルドには来たことあるの?」


「ああ。エドワード様の使いで来ることもあるし、自分で依頼を出す場合もあるぞ」


「へえ、依頼出したりするんだ。どんな依頼出すの?」


「いつもじゃあないが、部屋の掃除とかは便利だな」


 そんなことを話していると、ユーインがやってきた。


「こんにちは、ユーインさん。特別用事はないんだけど、こっちに来たので経過報告しようと思って寄りました。時間大丈夫ですか?」


「ええ、ありがとうございます。お話してくれると安心します。ああ、あなたは領主様のところの」


「視察までの間、コイルの護衛をしている、ミノルと言います」


 お茶を出してもらい、この数日のデルフの森の様子など話した。

 ユーインのほうからは、デルフの森が開拓禁止区域に指定されたことを聞いた。本格的に村を開く可能性が大きくなったので、領主の方で土地を押さえたということだ。


 ダンジョンも、3層目までの様子が分かってきたので、今日は第3層まで冒険者に解放され、攻略隊の本体は第4層へ向かうらしい。

 今回は第4層まで確認したら撤収することになった。元々、薬草の森ダンジョンは4層目までしか攻略されていないのと、今回攻略隊は死人こそ出ていないが、入り口付近に転送された冒険者は怪我と魔力の低下が激しく、数日は安静にするようにという医者の助言により、人数が減ってきたからだ。


 第2層では冒険者の勝率は3割程度で魔物に有利な設定のようだが、景品の薬草の半分が高価なものなので、今日も薬師に雇われた冒険者がステージに押しかけている。


 薬師ギルドでは現在、新しい薬の開発や薬草の分配についての制度作りが検討されているらしい。


「そんな訳で、今、岡山村は大変に盛り上がっています。ダンジョンから魔石が殆ど取れなくなりましたので、魔石の価格が少し上がり気味ですが、これは隣の山田村との取引で賄えるでしょう。あちらは今、魔石が有り余っていますから」


 冒険者ギルドも盛り上がっていて、今回のダンジョンの改変は歓迎されているようだ。また、デルフの森への期待感も大きい。

 これから大工を探そうかという話をすると、村開発が始まったら大工が足りなくなりますから、早く押さえたほうが良いですよと、助言とともに、何人か冒険者ギルドと付き合いのある大工を紹介してもらった。



「ね、ユーインさん、良い人でしょう?」


「あー、まあ、しっかりしてるって感じだな。で、どこから行く?」


 ちょうどミノルが聞いてきたのとユーインさんの紹介してくれた人で同じ人がいたので、そこを訪ねることにした。



 大工の棟梁は無口で頑固そうな50過ぎのおっさんだったが、「この人に喋らせたら話が進まないからねえ」と、おかみさんが出てきてくれた。


 デルフの森にある木を3本、家や倉庫に使うのに、壁、床、天井と階段やドアを作ってほしいという注文で見積もりを出してもらう。


 場所がここから数時間かかるので、泊りの仕事になるが、泊まる場所は最初は野宿になる。

 家づくりが進んだら建設中の家の中で寝泊まりしても良い。

 魔獣が出る可能性があるが、それはコイルが見張りと護衛をする、または雇う。

 近くに食堂が無いので朝と夜の食事はコイルが用意する。

 風呂は自由に入ってよい。

 土日は休みで、街に帰っても良いし森に居ても良いが、食事は出さない。


 そんな条件で見積もりを出してもらったところ、大工3人で4週間以内の工期で、およそ600万だった。材料を運ぶのが大変なので、その費用も含むようだ。実はコイルはその3倍ほどかかるんじゃないかと思っていたのだが、思ったよりも安かった。けど一応値切ってみようと思い、おまけにベッドの枠を10台ほど作ってほしいと要求したら、それもすんなり通った。


「いいよいいよ、飯まで出るんだろう。ベッド10台くらい半日もあれば出来るからね。その分は、夕食に肉でも食わせてやっておくれ」


「ありがとうございます。肉は僕が狩るウサギでもいいかな?ミノルさんがかまど作ってくれたから、焼き肉出来るんだよね!」


「充分さね。じゃあ、いつから工事に入るかね?うちは今、ちょうど仕事が空いてるから今週ならいつからでもいいけど、来週すぎたら他の仕事が入るかもしれないよ。そうしたらその後になるね」


「じゃあ、えっと、食事の準備もあるから、明後日からお願いします」



 衝動買いのコイル、

 今日は家を即決で注文してしまったようだ。

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