第23話 倉庫を作ろう

 ミノルが走って行ってすぐに、コイルはインターフェイスに話しかけた。

「どうしよう、フェイスさん。早食い競争用の食料を持って行きたいんだけど、なんか、護衛の人が付いちゃったよ」


「了解しました、マスター・コイル。まだギフトは制御できていないようですが、一瞬なら大丈夫でしょう。5分後にそこからダンジョン内に転送しますので、それまでに持ってくる食料をまとめておいてください。また、ダンジョンから戻る場所を固定するので、戻りたい場所に待機してください」


 大慌てで食料を、ダンジョンに運ぶものと自分用に分けて、家にする予定のデルフの木の下に行くと、数秒も待たず、そこからダンジョンに移動した。

 第6層の鍾乳洞の中だった。

「時間がありません。あまり長時間いると、マスター・コイルのギフトが冒険者に悪影響を与える可能性があります。このクーラーボックスはマスターにお返ししましょう。アイスは、ここに冷凍庫を作ります。低温の食料保管庫も作りましょう。今はエネルギーが余っていますので」


 コイルは見えないインターフェイスが揉み手をしている錯覚を覚えた。



 さっと荷物を置いて、5分も経たずにダンジョンからデルフの森へ戻ることができた。本当は、攻略隊のほとんどが寝ている夜に、何度かダンジョンに戻って、第2層のステージの様子など見ながら微調整するつもりだったが、護衛がいる間はじっとしていたほうが良いだろう。

 コイルは自分の家に集中することにして、まずは保管庫を作ることから始めた。


 保管庫は家にする木と地面の間を、壁で覆って防犯用の魔道具を付ける予定だ。

 まず、5本の太い柱を、デルフの木の一段目の枝の下にはめ込む。コイルのデルフの木は地上から2メルの高さで7本に枝分かれしているので、そのうちの5本を使って、半円形の倉庫にする。倉庫にならない部分に、出入り口の階段を付けるつもりだ。


 柱にするのは、コイルの土地の外に生えているデルフの木を使う。この森には、他に大きな木が無いので仕方がない。まだ、誰の土地でもないので使ったもの勝ちだ。

 あまり太い幹は重くて運ぶのが難しいので、長さが2.5メルほどある、2段目の枝の部分を使う。それでも柱の直径は20センチメル以上で、十分強度はあるだろう。

 魔動ノコギリを持って木に登ると、コイルはニヤリと笑ってスイッチを入れた。

「ふっふっふー、さあ、切るぞー」

 魔動ノコギリのスイッチを入れると、コイルにも変なスイッチが入るらしい。

 相変わらず切れ味の素晴らしいノコギリを振り回しながら、バッサバッサと枝を5本切り落としたころ、ミノルが大きなリュックを背負って帰ってきた。


「帰ってきたぞー。コイル、何してるんだ?」


「今から倉庫を作るから、柱を切り出してるんだよ。運ぶの手伝って!」


 どうせ居るなら、いっそ使ってやれとばかりに、ミノルに用事を言いつける。

 切り出した枝にはまだ3段目の枝が付いているので、柱にする、まっすぐな2.5メルの部分を残して枝を切り落とした。切り落とした枝も何かに使えるだろう。

 重い丸太はミノルにお願いして、落とした枝も家の木まで持って帰った。


 本当は生木ではなく干したほうが良いのだろうけれど、ま、どうにかなるだろうと、あまり気にせずそのまま使うことにした。

 幸い、成長が止まったデルフの木は密度が高く水分が少ないので、収縮率も低く、逆に乾燥してしまうまでにずいぶん時間がかかる木なので数年は問題なく使えるだろう。


 立てる場所に運んだ丸太は、地面を土魔法で耕し、穴を掘った後、その穴に差し込んで立ち上げた。

 ちょうど上のデルフの枝に接するよう、穴の深さを調節し、買っておいたセメントの木の粉末を掘り出した土と混ぜて、穴の隙間に詰める。その上から水を少量かけておくと、数時間でカチカチに固まって固定される。


 まだ固定されていないのでミノルに丸太を押さえてもらい、コイルは家の木にするするっと上ると1段目の枝の先まで行って、その枝と下に立てた丸太を金具で固定した。

 同様に5本の丸太の柱を立てて、改めて見れば、素人ながら、なかなかしっかりとした工事ができた気がする。日も暮れかけたので、その日の作業を終えて、晩御飯を食べることにした。


 ミノルは自分の携帯食を持って来ていたが、せっかくなので魔動コンロと鍋を出して、簡単ではあるが、ラーメンを作って一緒に食べることにした。

「あっ、あそこに生えてる草、あれ食べれるんだよね。ラーメンに入れよっと」

 ぱたぱたと走って草をむしるコイル。

「あ、これもだ。ラッキー」


 ひとつかみの草を持ってくると、バケツに水を入れて、バシャバシャと洗い、手でちぎってラーメンを煮込んでいる鍋に入れた。

 ミノルがぽかんと口を開けている。

「母さんがさ、野菜がなかったら草を食べなさいって言ってた。僕、食べられる草にはちょっと詳しいんだよね!」


 ミノルが気の毒そうな顔でコイルを見ていたが、決して貧乏だったからではない。

 コイルの母親が少し雑な性格で、買い物が面倒な時に雑草を食べさせていたのだ。

 もちろんスープに入れるのは毒のない、それなりに柔らかい、野菜の原種だ。

 ちなみに、固い草は天ぷらに……


 何はともあれ、保存食の乾パンと、干し肉と、暖かいラーメンを二人で仲良く頂いた。


 味?


 ラーメンのスープは濃い味付けで良かったね。と言っておこう。

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