第22話 騎士ミノル

 断る隙もなく、コイルは護衛騎士ミノルを押し付けられた。

 振り返ればいつもそこにミノル。


 ……後ろが気になって仕方がないコイルだった。




「ミノルさん、そんなに後ろからずっと見られていると気になるので、横に来てください」


「はい。了解しました、コイル様」


「……コイル様は止めてもらえますか?敬語も、僕、ただの平民で年下ですので、止めてください」


「ですが、職務ですので」


「僕が気になるので!っていうか、ミノルさんって何歳なんですか?」


「36歳です」


「あ、僕のお母さんと同じ年だ!」


「……」


「……」


「……では、コイルくんと呼んでも良いかな。代わりにコイルくんももう少し砕けた話し方をしてくれないだろうか」


 もちろんOKです。ただのコイルでいいよ、と笑った。



 野営地から600メルほど離れた場所から、泉のあるほうのコイルの土地に入る。

 何度か通った場所なので、藪は押しのけられ、荷馬車が通れる程度の獣道になっているが、今日は新兵器がある。

 農業用品の店で買った、草刈り機だ。

 もちろん魔道具だ。肩に掛けるホルダーが付いた棒状で、先には透明な、大き目のスイカを半分に切ったくらいのカップが付いている。そのカップの中で、弱い風魔法の「エアカッター」が渦巻いていて、カップの中に入った草を切り刻む仕様だ。エアカッターが飛び出さず、カップの中で回っているので、魔石もさほど消費せず、お手軽価格の魔道具である。ただし、安全性や省エネを意識しているので、パワーはあまりなく、太めの枝などの伐採は難しい。


 魔石をセットして、スイッチを入れると、獣道の草を刈りながら進んだ。泉の傍までは、街道から100メルもない。ほどなく、歩きやすい道が出来上がった。

 奥からルフが駆け寄る。

 ミノルは目を見張った。


「可愛いワンコでしょう、ミノルさん。この子、ルフっていうんだ」


「……犬を、飼ってるんだね」


「そうなんだ。真っ白で可愛いよねー。犬って。賢いし、よく懐いてるんだよ」


「そうなのか。ここで留守番をしていたんだな」


 泉から流れ出る浅い小川の向こうに、コイルが家にしようと思った木がある。川の手前で荷馬車を外し、荷物を少しずつ持って、バシャバシャと川を渡った。


「ミノルさんがいて、良かった。いっぱい運んでくれて、ありがとうございます」


「どういたしまして。これで荷物は全部運べたか?」


「うん。じゃあ、ここまで護衛してくれてありがとう。また遊びに来て!」


「いや、俺はまだ帰らないぞ。護衛はコイルが岡山村に帰るまでだと聞いている」


「……え?……泊まるとこ、ないけど?」


「荷物を置いたら街に帰るのかと思っていた。そうか、泊まるのか。コイルはいつもどうしてるんだ?」


「僕は毛布をかぶってポックルに寄り掛かって寝てるよ。えっと、1週間くらいかけて、家の周りを整備して、倉庫とお風呂と寝るところを作るのが今回の目標なんだ」


「じゃあ、俺も野営道具を取りに行って、ついでにそのようにエドワード様に報告してこよう。走っていけば30分もかからずに戻ってこれるはずだが、その間、コイルも気をつけろよ」


 返事も待たずに、ミノルは走って野営地に戻っていった。


 ミノルは良い人そうだったが、コイルには隠したいことがある。ギフトのこともだし、ダンジョンに食料を持って行かなければならない。

「どうしよう……フェイスさーん」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る