第21話 ダンジョン外のベースキャンプ
ダンジョンの喧騒が嘘のような、あっさりとしたインターフェイスの報告を聞きながら、どうにか無事に新しいシステムが受け入れられたことに、コイルは胸をなでおろした。
昨日買ったもので荷馬車はギュウギュウだが、さらに食料と、ダンジョンの青狸ステージ用の食料を買わなければならない。ダンジョン用の食料はコイルの持ち出しになるが、今はまだお金に困っていないし、追々は薬草を売ればどうにかなるだろう。
南町の食材を扱っているお店はあちらこちらにあるが、今回は宿の側の店で済ませることにした。
日持ちのする乾パン、手で皮をむいて食べる小さなバナナのような果物、水でもどして塩ゆですると美味しい豆、口の中がパサパサになる、あまり甘くないクッキー。急いで食べたら頭がキーンとなるアイスはクーラーボックスを冷凍用の魔石に変えて入れた。
どうやらステージは盛況らしいので、明日、どのくらいの人数が第2層に残るか分からないけれど、日持ちのするものを中心に、かなり多めに、いろんな種類の食材を買っていった。
食材は大き目のかごを買って入れて、荷馬車の幌の上に乗せた。
二週間ほどデルフの森にこもるつもりだったが、もしかしたらもう一度買い出しに出て来ないといけないかもと、山盛りの荷物を見ながら少しため息をついて、岡山村を出発した。
ポックルはいつも通りマイペースで歩いている。荷馬車は重量軽減の魔石が効いているので、山盛りの荷物でも大丈夫だ。道々、買ってきたサンドイッチを食べながら、コイルはインターフェイスの報告を聞く。
「ダンジョンは、良い感じで盛り上がっています。魔獣たちも、冒険者に混じって周りで応援するようになりました。景品の薬草は、第5層の薬草までは要らないだろうと判断し、第4層から当たりを1割、第3層と2層から4割ずつ、第1層から1割をハズレとして、矢羽に運ばせています。
第2層の落とし穴や蔓草吊るしの罠にも、移動中数名が引っかかりました。
現在は半数が、飛針野ネズミのステージに来ています。
マイクが司会進行する予定でしたが、ここでは雷羽の天花が勝手に出てきて、マイクを黙らせて自分が喋っています」
「うん。みんな、楽しそうで良かったよ。興奮して喧嘩にならないように、魔獣たちと冒険者たちの応援席は少し離してね」
街道を進むと、ダンジョンの入り口付近の野営場所に多くの人たちがテントを張って野営している。
ダンジョンの入り口の傍には、
「本日は第1層のみ入れます
各ギルドのテントで注意事項を読んで、名前を申請してから入場してください」
と書かれてあった。
コイルはそのまま通り過ぎて先の方で森に入ろうと思っていたが、
ちょうど本部テントの外で指示を出していた、あの背の高い領主の秘書のお姉さんと目が合ってしまった。
お姉さんはすっとテントの中に入ったので、このまま行って大丈夫かなあと思いながらコイルが進みかけると、テントの中から綺麗な金属の軽鎧を付けた男の人が駆け寄ってきた。
「冒険者のコイルさんですね。本部で領主が待っていますので、こちらにいらしてください」
「あ、はい。でも僕……荷物が……」
「大丈夫です。こちらでお預かりします。さ、どうぞ」
領主のエドワード様には逆らえないらしい。
案内されるままに、本部のテントに入る。
「おお、コイル君。森に来たのか?ダンジョンのうわさは聞いたかな?」
「はい、昨日ギルドで少しだけ」
「そうか、そうか、昨日か。今朝は昨日と違って様子がおかしくてな、朝から中の連絡係とこうやって連絡を取っているのだよ」
「……どうなっているんですか?」
「それがな、第2層が昨日と全然違って、闘技場のようになったらしいのだ。まさか毎日変わるわけでもあるまいが、今日は第3層はあきらめて、明日もう一度第2層の様子を見なければならん」
闘技場というか、コイルのイメージは実はゲームセンターなのだが。
「僕、今から家を少し整えようと思って、いろいろと街から運んできたところなんです」
「それはいいな。実は先ほど人をやって、泉の確認をしたが、やはり淀みは消えているようだ。矢羽もこの辺りには見えないが、中型以上の魔物は簡易結界は効かぬから、充分用心するように。そうだ、騎士を一人、護衛に付けよう」
「え、あ、いえ、いいです。もうすぐそこだし、見えるところだし」
「いやいや、ダンジョンも不可思議な改変を始めたのだから、この辺りでどんな異変が起きるかもわからない。ミノル、先ほど君を案内した騎士だが、彼は大型の魔獣にも一人で対応できるほどの腕だ。コイル君にはこれからしっかり働いてもらう予定だからな。遠慮するな」
コイルは護衛をゲットした。
……
マズくない?
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