第18話 第2層改変

 むっくりと、夜中に起き上がったコイル。

 おもむろにフェイスに話しかける。

「フェイスさーん、起きてる?」


「おはようございます、マスター・コイル。私は睡眠を必要としません」


「良かった。僕、いろいろ考えたんだけどね……」


 うとうとしながらも、ダンジョンのことが頭から離れないコイルは、夜中、ふと思いついて、フェイスに声をかけた。


「魔獣たちは、戦闘行為に入ると、僕の命令が効かなくなって、殺しあいから離脱できないんだよね?相手を突き飛ばすのはオッケーだけど、反撃されて刃を交えると戦闘行為なんだよね?」


「相手を叩くだけなら大丈夫というのは、一度に限った事です。その場で2度、3度と相手を叩いていると興奮して戦闘状態になります。反撃された場合も、ケガをしなくても魔獣側が危険を強く意識すると戦闘状態になります」


「わかった。それで、提案なんだけど、こちらで対決用のステージを作ってね、人と魔獣を向き合わせて戦うんじゃなくて、横に並べて的か何か狙わせる競技をさせたらどうかな?」



 コイルの案は、こうだ。人と魔物をステージにあげ、決闘させる。ただし戦闘ではなく、的あてやかけっこの様な互いに向き合わない方法で。


 向き合っていれば互いの敵意は上がる一方だが、何か他の物に向けて発散すれば、勝負が決まった後もあっさりとは言わないまでもどうにか引き離せるのではないだろうか。


「例えば、どんな競技でしょう?」




 魔獣の特性などをインターフェイスと相談しながら考えた競技は3つ。


 まずは飛びウサギのジャンプで頭突き。

 飛びウサギの身長は、普通のウサギよりも大きいが、せいぜい、人の膝くらいの高さだ。だが、跳躍力はすごくて、平均的な身長の人の頭の高さまで跳び上がれる。

 ジャンプして頭で計測器を押し上げる。身長計の頭にあたる部分を幅広くクッション性のある素材で作る。あくまで頭突きで手は使わない。



 2つ目は飛針野ネズミの射的

 飛針野ネズミは体毛を針のように飛ばすことができる。

 威力は小さいが、飛距離は10メルほどもある。

 10メル先に的を作り、投げナイフや弓矢で、どれだけ的に当てられたかを競う。



 3つ目は青狸。

 これは困った。青狸はコロコロと可愛い体で、体力はあまりなく、敏捷性もそこそこ。攻撃方法は噛みつき。得意なのは毒や麻痺。

 インターフェイスと話しながら何か良い競技はないかと悩んだ結果、早食い競争にした。

 1分以内にリンゴを何個食べれるか、とか、パンを何個食べれるか、とか。冒険者の食べ飽きたパサパサの携帯食量をどれだけ飲み込めるかとか。

 ちなみに魔物はものを食べる必要はないが、食べられないことはない。食べたものは淀みの魔力ほどではないが、エネルギーに変えることができる。



 今日は幸い攻略隊は第1層で野営しているので、夜の間にインターフェイスがコイルと相談しながら、舞台を整える。

 ステージはそれぞれの競技で分けて、3か所に作った。いくつかの罠を解除して、ステージの周りに観客が立てるようにする。

 ステージに上がれるのは1人だけ、上には魔獣が一匹待機しておく。



 早食い競争の食材は今日は間に合わないので、青狸は今日は休業。今日中に食材を買ってコイルがデルフの森に運んだら、そこから夜のうちに転移でダンジョンに持ち込むことにした。


 改変には多少エネルギーコストがかかったが、昨日だけで300人以上入っていたので、今は割と余裕である。

 ちょうど日が昇るころ、舞台は整った。

 朝食を済ませて再度第2層に入った攻略隊の面々は、昨日と違う様子に戸惑いつつ先に進んだ。



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