第19話 秋瞑
「ここより第2層
三つ並んだ宝箱は、一つだけ選べ
当たりは1つ。薬草が手に入るだろう
外れれば、ささやかな代償を頂く
第2層では魔獣への攻撃を禁止する
ステージの上で決闘すべし
決闘の方法は3種類
勝者には薬草が与えられるであろう」
第2層に入ってすぐの看板が、一晩で書き換えられていた。
用心しながら進むと、昨日さんざん泥まみれにされた罠のあった場所に、2メル四方ほどの広さで高さ50センチメル石造りの台が二つ、並んであった。
その上には奇妙なものが置いてある。全体的に大き目な、3メルほども高さがある身長計みたいなものだ。
冒険者がその石の台に近づくと、空からフワッと、羽が生えた人が降りてきた。
「なんだ」
「人か?羽があるぞ」
「魔物だ!魔人……」
「なに?なんだ?」
慌てて武器を構える冒険者たちを、空から降りてきた人が冷たく一瞥する。
「冒険者達よ、この層のルールを見てきたのであろう。武器を納めよ」
天使のような美しい姿で、悪魔のように冷気を発するソレに、冒険者たちは攻撃を仕掛けることも出来ず、武器を下す勇気もなく、そのままそこに立ち尽くしていた。
「まあ良いでしょう。今日はこのステージのお披露目。私が解説しに降りてきました。我が名はシュウメイ。私と戦いたければ、第4層まで来るがいい。第2層はチビ達のステージですからね」
うっすらと笑うシュウメイ。人化した羽鹿だ。
石の台の近くにあった、高さ1メルほどの大きな切り株の上に立ち、手にはマイクを持っている。このマイク、拡声器なだけでなく、自分の意志で、考えて喋ることができる。人化こそできないが、かなり大量の淀みの魔力を使って作られた知性を持つ罠の一種だ。攻撃力はないが、そこそこの防御力はある。
本当はこのマイクに司会進行を任せたのだが、準備を見ていた羽鹿が、「初日なので私が行きましょう」と、マイクをつかんで出てきてしまったのだった。
「ルールを説明しましょう。飛びウサギA、上がってきなさい」
ステージの一つに、藪の中からぴょんとウサギが上がってきた。冒険者たちにとっては獲物だが、攻撃したら何が起こるか、昨日の第1層を考えると手を出せない。
そして心なしか飛びウサギもシュウメイを見てビクビクしているようだ。
「このステージはジャンプ力を競います。冒険者たちの膝までしかないこの小さなウサギにジャンプで勝てれば、商品の薬草を渡しましょう。
もし負ければ体力と魔力を少々、このダンジョンが戴くことになります。初回ですから、特別に見本を見せましょう。ダンジョンチーム飛びウサギA、スタート!」
飛びウサギが、ぴょんとステージの上の身長計に乗ると、二本足で立ちあがった。するとすぐに頭の高さまで、すすっと計測器が降りてきた。
「身長 58センチメルデス」測定器が喋った。
「おおっ」
「こんな魔物見たことあるか?」「ねえよ。此処はどうなっちまったんだ」
「あんなのまで喋るんだ」
ざわつく冒険者たちを気にもせず、飛びウサギAはそのままの場所でしゃがみ込み、勢いをつけてジャンプする。
「計測 229センチメルデス」
おおっと冒険者達から声が上がった。
素晴らしいジャンプ力だが、元々小さいウサギなので、冒険者たちがちょっと頑張れば届きそうな高さである。
「わかりましたか?手を使うのは禁止です。助走も禁止です。勝負は1回、1対1です。
飛びウサギB、上がってきなさい」
先ほどのウサギより少し大きなウサギが入れ替わってステージに上る。飛びウサギAはどうやら見本だけらしい。
「さあ、この飛びウサギBに挑戦する冒険者はいますか?」
シュウメイが調査隊を見渡す。
整った無表情な顔の、眼だけが面白そうに煌めいていた。
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